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69: 気圧上がれど雨予報

もう、この国の都は眼下だ。

そろそろ下降していく頃合いだろう。



降下する。



それは、戦闘の火ぶたを切ったといっても過言ではない。

ここまで国土に近づいて、一度もどこでもやっていない行動をする。

しかも、着陸しようとするような行動。

それは、人間から見たら襲撃の始まりだと言っているのと変わらないと思う。

目視では流石にわからない。

何せ、まだ高度がある。


「以津真天、今回の目標のエリア、あそこら辺なんだけど、皆の勢力の規模計れる?」


≪流石にまだ無理だよ。もっと降りてくれないと、認識できる魂が多すぎて何もわからないよ。裏人格は?設定する?≫


「まだ。マナの圧での無力化を2段階に分けてやるよ。一回目は素の自分で。そのあとに裏人格を呼び出してもらって、それでもう一回やる。」


≪OK≫



さらに降下する。

速度は変えない。

少し温かくなった気がする。


「以津真天、まだだとは思うけど、勢力計れないよね?」


≪うん、分かったら私の方から言うよ!≫


「よろしくお願い!」



さらにさらに降下する。

周囲に戦闘機などの気配はないし、もちろん視界にも怪しい影はない。

地上から対空砲的な重機の音や弾も来ない。

魔術系重機なら確か普通の銃弾でも射程が5000m以上あったはずだから、長距離射程の弾とか誘導弾とか撃たれてもおかしくはなさそうではあるけど、射程外の高度なのか私からの攻撃が来るまで攻撃してこない指示なのか今のところ大丈夫だ。

少し降りる角度を上げたところで、攻撃はされなさそうではある。




一気に下がるのは攻撃的な意思表示に近い感覚を皆に与えそうだからしたくないと思いながら、角度を上げたまま速度を一定にまだ降下していく。

視界に映るのは、カーナビの大き目の拡大比率の地図と比較するまでもない緑が多く見える大雑把な形だけだ。

低層の雲が自分より低い位置にあるということは、2000m以上の高度である。

そろそろ規模を把握したいなと思うけれど、以津真天から声はかからない。

心理的には怖さが勝っている。

ここは思い切って降下スピードを上げよう。






無心で降りること数分。

雨雲と同じくらいの高度まで降りてきた。

もうだいぶ温かい。

そして、攻撃はない。

以津真天からの報告もなし。

ここまで何もないと逆に不安だ。

てっきり姿を見つけ次第攻撃されるものだと思っていたから、ここまで負担がないのもうれしい誤算だ。

このまま話し合いで解決できてしまうくらい都合のいい展開になってくれてもいいんだけど。

これならさらにスピードを上げて降下しても攻撃されなさそうだ。



≪規模把握できたよ!186人!役割までは流石にわからないけど。≫


「思ってたよりは少ないね。ありがとう。戦車っぽいのも見えるね。全然予想と違う感じか。じゃあ、マナ圧上げてさらに人数を少なくできるかやってみるね。少数精鋭っぽいけど減るかな?」


なにも考えず、魔法が発散していくイメージをして、魔法を使う。


これで、魔素がそのまま放出されたはず。


・・・


≪えっと、活動的な反応は176になったね。≫


「そっか、全然減らないんだね。すごいや。じゃあ、以津真天、裏人格のスイッチ、お願い。」


≪分かった。ちょっとまってね。≫



・・・



≪オッケー。終わったよ!気分は大丈夫?そんなにはっきりと分かるような影響は無いはずだけど。≫


「うん、大丈夫。なんか、ちょっとエナジードリンクでブチ上がったような感じに近い感覚があるくらいかな?これで攻撃的な圧になったりしてくれたら嬉しいんだけど。」


とはいえ、魔法発動の手順を考えると、裏人格の攻撃的な性格がなんの意図もなく魔素に乗ることは考えづらい。

意識的に攻撃するという意思を抱きつつ、しかし、発散していく魔法をイメージして、再度魔素をそのまま放出する。



・・・



「影響はどんな感じ?」


≪活動的な反応は115にまで減ったかな?3分の2くらい残っちゃったよ。≫


「ううん、全然いいよ!さっきの6倍減らせたなら。もともと万レベルの規模を予想してたから、減らせただけでも儲けもの。目標だった3分の1の敵戦力の無力化も達成できたし、傷つけたわけじゃないからね。これだけ無力化したし、高度も大分低いからそろそろ攻撃が来そうな気がする。その前に着陸なり、声掛けなりしたい。だから、その前に。」


戦車やら装甲車やらめちゃデカ大砲やらよくわからない大型の武装やらも無力化しないと。

はじめに考えていたのは、重機にとって大事な砲身を壊したりする方法を考えていた。

しかし、砲身を曲げたり砲身の中に何かを詰めたりしたら、爆発して搭乗している人を殺してしまうかもしれない。

ということで考えたのは巨大な水の檻に閉じ込める方法。

銃弾が水中で全然進まない、みたいな動画を見た記憶がある。

戦車とかの砲弾でも同じようになると信じて。


水の檻とは言っても、シンプルにただの水の塊で十分。

戦車たちの真上にでっかい水の塊をイメージしてそのまま下ろす。

人がおぼれないように、乗降口とか装弾口あたりは沈まないように調節。

局地的な重力操作で水がその場でとどまるようにする。


≪おお~、鮮やかな魔法コントロール。いかつい車たちが水羊羹みたいになったね。≫


これで無力化!と思いきや、水が明らかに魔法的に操作されて、近くの森めがけて放流された。

そんな簡単には無力化できないか。

水魔法と言えば、うちのボケマシーンこと黄条ちゃんが水魔法の使い手だったな。

参加してたりするのかな?


すかさず、規模の大きい魔法が繰り出される。

フェニックスのような炎の魔法が頭上に、クジラのような水の魔法が足元に、竜のような雷の魔法が正面から。

それぞれやってくる。

連携のとれた素早い魔法展開。

逡巡し間に合わない思考。

これは用意した武装ではどうしようも出来ない、そんな焦りだけが浮かぶ。


ちょっと怖気づいたその隙に、不意に、私は防御魔法を展開している。

多分、裏人格が危機を察知して展開してくれた、そういうことでしょう。

厚めで多層的な防御魔法は、逃げ場のない私の体への竜の突進を完全に防いでくれた。

フェニックスもクジラも霧散する。


すぐに次の攻撃。

もう目の前まで飛んできている大小形様々な砲弾。

亜空間収納から素早く楯を取り出して構える。

間一髪、というほどではないけど、ギリギリで防ぐ。

手が痺れるくらいの強い衝撃。


うーん、重機まで無力化しようとしたのは欲張りすぎちゃったかな?

重機の無力化が出来たら対話のためにさらに急降下して話をしたかった。


マナ圧一回で降りてたら攻撃されなかったかな。

どうだろう。

時すでに遅し。

後悔先に立たず。

攻撃されちゃったからには、凌ぐしかない。

もちろん、基本は無力化で。

なんにしても、まずは重機の攻撃をどうにかしないと。


とは考えるものの、弾の対処の仕方なぞ分からない。

私に戦車の弾の仕組みの知識はない。

戦車から射出するときにそれ用の火薬がある気がするという、知識とも言えない何かしか私にはない。

一番簡単なのは強力な防御魔法で防御しきること。

でも、それじゃあ簡単にオドが疲弊しちゃう。

それを避けるために楯を用意してきたわけだけども、楯だけじゃ色んな意味で無理だ。

すぐに重機を無効化できれば、このことで悩むこともなかったけど、今更だ。


対物補助魔法でどうにかするか。

そうするには、構造把握系の補助魔法を使うことになるわけだけれど、爆速で飛来してくる物体にサクッと掛けられるほど単純な魔法じゃないし、仮に一瞬で把握できたとしても、どう対処するかを一瞬で考え付くほど天才じゃない。

前提知識があれば可能だったかもしれないけど、そんなのは無理だと分かりきってる。


思考を巡らせながら、飛んでくる砲弾やらなんやらを、化蛇の権能の空間の定義を利用して、私が破壊の限りを尽くしたあの島へ転送していく。

うん、今のやり方が一番効率いい。

なにより、皆に一切の被害がない。

でも、こんな魔法と砲弾の雨をいつまでも受けている訳にもいかない。


ここで立てていた作戦に立ち返る。

まず、第一目標は重機の無力化。

私は重機が発弾出来なくなればいい、そう考えている。


≪一応、前立てた作戦の通りに考えるなら、補給線への打撃を優先すれば自然と解決するんじゃない?弾とかもそういうところにありそうだけど。≫


「たしかに、そうだね。順番にやらなきゃいけないわけじゃないもんね。ありがとう。」


≪ん。≫


ということで、引き続き砲弾を転送しつつ、魔法を重厚防御魔法で防ぎつつ、この地域を巡って補給倉らしき建物を見つけていい感じに崩しに行こう。

前の戦闘から1年も経ってないから、見慣れない建物は新しい建物。

その中から補給倉とか支援系の人が居そうな建物を無力化していけばいい、という話。

まずは、以津真天の魂感知で人員配置を透かして把握することで詳細な索敵をする。

そうすると、魂が他より密集しているところが見えてくるわけで、そのあたりの建物を調べていけばいいわけだ。


≪見つけたよ!あの丘の上の森の中の薄い緑が基調の角ばったかんじの建物と仄葉のことを乗っ取った時に居たあたりに出来てる薄い桃色が基調の長屋みたいな建物に人が多いよ!≫


流石!

なら、近い方の薄ピンク長屋から行きますか。


十秒と経たずに目的地に到着。

こっちに向かってくると規模の大きい魔法が止んだ。


ここらへんに明らかに被害が及ばないようにするための行動変化にしか思えない。

代わりに、真下から銃器っぽいものを私に向けて撃っている。

なんだかチクチクするくらいの威力しかないから気にせず調べますか。


こんなシーンなら、構造把握の補助魔法を使える。


“スキャン”


普段と違って、他のこともしながら動きつつの発動だけど、裏人格のおかげなのか、並列制御がやりやすい気がする。


えーと、どれどれ。


いたってシンプル。

棚っぽい構造物やらベッドっぽい構造物やら形状がシンプルで如何にもなオブジェクトが検知される。


これは間違いなく補給倉。

でも何か違和感がある。

試しに支柱を折ってみる。

一瞬傾いたと思いきや、すぐに支柱から支柱が生えてくる。

これは生成系統の補助魔法。

おまけに、ちゃんと物理特性も反映されている。

所謂、物理魔法。

うちの剣崎ちゃんは、物理魔法、大得意だからね、間違いなく剣崎ちゃんのっ!?

う゛っ!?


感想を言っていたら、急にデカイ剣が地面から私の方にググっと向かってきた。

避けた、と思いきや腹ドスを食らう。

突然現れた鉱山のような何か。

これは、えっと名前忘れちゃった。

リア充の片割れってことしか思い出せない。


何はともあれ、確実に刺すか潰す気だったよね!?


!!

倒れてくる!


なんとか突然現れた構造物達から距離を大きくとって一息。


以津真天、今一番人がいないエリアってどこら辺?


≪今の視界なら右奥が一番人的被害は少ないよ!≫


OK!

とりあえず、その支柱を爆散させて、薄緑の方に行こう。



ぴゅーんと一飛びして、スッと”スキャン”。

大黒柱的な柱がない、ドーム型の建物。

よくわからない形の何かを複数検知。

それらは沢山の魔素を吸収してる。


魔術機械かな?

もしかして、研究室?

私が以津真天達に乗っ取られたときにはもう研究室はなくなってたけど、ここに魔法とかで移動させたとか?

いやでも、お父さんの研究室ってこんな色形だったっけ。

そもそもお父さんのと関係ない可能性もあるし、まあいっか・・・。


≪仄葉!だれか出てくるかも!≫


え?


「仄葉!お父さんだよ!聞こえるか?!」

「お父さん!!!うん聞こえるよ!っ?!?!?!」

「どうした、仄葉。お父さんは仄葉の帰りを待ってたんだ。中でゆっくり話をしよう。」


うん、お父さんだ。

優しいお父さんの声。

でも、声には少し緊張感がある気がする。

何より、お父さん自身が纏ってる魔素の量が普通じゃなさすぎるとか、研究室そのものが集めている魔素の量が急激に増えてる。

今すぐ抱きつきに行きたいけど、流石に怖い!!!!

死かそれに近い何かの気配を感じる。

お父さんはそんな人じゃないと思ってるけど、

とりあえず、一回上空に退散して冷静になろう。

ダメだ、みんな想像以上に攻撃的だよ、怖いよ・・・。


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