68: ごった煮鍋にくべられる火
数時間前にメンバーは全員集合できた。
緊張を浮かべるメンバー、浮足立っているメンバー、不安そうなメンバー、さまざまな表情で集合してくれた。
補助チームも戦闘チームも欠員無し。
戦争学部への要請もスムーズにできた。
宮椋研究室も、今は所謂オペレーションルームのような様相にしている。
俺はその中で総統の位置で数枚のモニターを眺めつつ状況を見る。
魔波レーダーマップによると、仄葉と思われる悪魔は一直線にこの街に向かっている。
理由は食料の絶望生産目的の行軍とみていいだろう。
肉眼で見えるかは置いておいて、見上げたら視界の中には居るレベルの距離だ。
チャットアプリで各部隊の状況を確かめよう。
[@全員 各リーダーは今の状況をお願いします。]
[<西佐波> @宮椋博士 戦術支援中央指揮チーム全員揃っており、準備完了です。]
[<水仙> @宮椋博士 高校生戦闘チーム全員揃っており、2A狗伊より基本の戦法を復習している最中です。]
[<盛> @宮椋博士 物資運搬チーム全員居ます。準備万端です。]
[<優木> @宮椋博士 回復チーム全員揃っています。準備万全です。]
[<重田> @宮椋博士 重機チーム全員、各兵装に搭乗済み、一部はすでに出庫済みです。]
[<渦井> @宮椋博士 その他・遊撃チーム全員集合の後、散開済み。各自持ち場についているはずです。]
[<賢波>@宮椋博士 大学生戦闘チーム全員揃っており、問題ありません。]
[<篝屋> @宮椋博士 研究室チーム全員揃っており、準備完了です。また、仄葉さんと思しき悪魔を双眼鏡で確認したメンバーが居ます。@水仙さん 水仙さんの力ではどれくらい詳細に見えているか教えていただけますでしょうか。]
やはり、実質目前の距離か。
[<水仙> @全員 私の能力で確認しましたが、流石に悪魔の個体としての詳細情報は把握できません。スピードはおよそ60km/h、若干下降しているように見えます。]
下降している、と。
ここに攻撃に来るのはほぼ確実。
通り過ぎるつもりなら、降りる理由など1つもない。
ポケットのスマホがバイブし始める。
電話だ。
誰からというと。
スマホの呼び出し主の名前は 楠場 博士 となっている。
魔法魔術省在籍のエリート博士であり、テレビやその他メディアでもコメンテーターとしてたまに出演することがあるくらい有名でもある、名実ともに高位な官僚だ。
「はい、宮椋です。お疲れ様です。どのようなご用件で?」
「お疲れ様です、宮椋博士。今のそちらの状況を伺いたく。既に付近まで近づいているのは把握済みだと思いますが、そこらへんも含めて分かっていることを照合しておきたいと思いまして。」
「そうですか。では、さっそくお伝えしますね。悪魔はこちらに向け約60km/hで緩やかに降下中、こちらの有志軍も臨戦態勢です。また、悪魔はほぼ私の娘であると思われます。」
「そうですか、、、やはり仄葉さんでしたか。心中お察しします。威圧感はありますか?」
「ご心配痛み入ります。あと、仄葉と確定したわけではありませんので、その点はご承知おき頂きたいです。威圧感は今のところありません。まだ距離が空いているからだと思われますが。」
「わかりました。軍の方も準備万端ですので、大変なことになる前にこちらに連絡をお願いします。」
「はい、その時は頼らせていただきます。」
(多分、しませんが。)
「娘さんへ攻撃することは心苦しいと思いますが、健闘を祈っています。では。」
(だからまだ仄葉と確定したわけではないと言っているだろう)
というツッコみは抑える。
そして、急に切ってくる。
まあ、こんな状況で長話するつもりは一切なかったから別に良いのだけれど。
にしても、わざわざ国の方から圧か。
確実に仕留めるという強い意思を感じる。
変なことは考えるなよというメッセージにも感じる。
しかし、私は決めている。
仄葉を取り戻すと。
国に逆らおうとも。
一度堕ち切った人格から神の地を経て何かが削げ落ちて普通に近い感性にはなったわけだが、いい父親に戻るには、仄葉を救い隣に立ちに行くしかない。
上からではだめだ。
仮にこのまま攻撃がない場合は、2Cの遠野さんにGPS発信機のついた狙撃弾でいい感じに狙撃してもらう予定だけれど、このままあまり高度が下がらない様であればそれもできない。
魔術スナイパーライフルでは、高度5000m以上に対して弾が飛ばないし、仮に飛ぶとしても、シモヘイヘの逸話のような技量のスナイプを遠野さんができるとはさすがに思えない。
その高度に対して弾を飛ばすのであれば重機に頼ることになるだろうが、そんなことをした場合、こちらから喧嘩を売ることになるので、いろいろと良くない。
[<水仙> @全員 仄葉さんと思しき悪魔、降下の角度が上がりました。まだ危険な高度ではないですが、気にかけていてください。]
水仙さんから全体メンションだ。
状況に変化か。
とは言っても、降りてきそうな確率が少し上がったというだけだが。
このまま何もないのも、何かあるのも問題。
しかし、確実にあと数十分で何かは起こる。
[<水仙> @全員 悪魔ですが、能力越しに顔立ちをはっきりと捉えました。仄葉さんで間違いないです。特徴的な薄緑と銀に近い灰色のグラデーションの髪色も確認しました。]
9割仄葉だとは思っていたが、このタイミングで仄葉であるとFIXする情報が取れた。
健康診断の結果で測定されている仄葉のオドからの魔波の周波数とは異なる数値が検出されているが、これは悪魔の影響だろう。
[<重田> @全員 魔術戦車の照準が仄葉さんをロックオン出来ました。推定高度は4200mです。]
大学部4年の重機部隊のリーダーからのメンション。
そんな高高度に対して誘導無しで撃つことはないが、機械的には射程圏内ということ。
基本は待ちの姿勢の戦闘だから、こちらからは特に仕掛けるつもりはないが、普通の戦争ならとっくに開戦しているだろう。
4km以上先の人の顔を認識できる能力をもっている水仙君も凄い。
無線インカムかブブッというと、水仙君から全体へ忠告が。
「こちら、2A水仙です!皆さんも流石に見えていると思いますが、仄葉さん、降下の速度を急に上げました!攻撃に気を付けてください!防御系の能力者の方は特に気張ってください!」
にしても、仄葉側も慎重に来ているな。
絶望を発生させるだけならば、高高度から力を振るう方が良い気がするけれど、もしかして、目的が違うのか?
だとしたら何目的だ。
悪魔の気持ちを考えろ。
手間を掛けずに絶望を発生させるには?
仮に仄葉の意識がまだ残っているとして、知人をまさに目の前で殺せば絶望するだろう。
俺が仄葉の立場なら間違いなく絶望する。
わざわざ魔法で撃たれそうな高度まで降りるということはそれくらいのことはやりそうだ。
つまり、友人や親族を探すためか!?
まあ、何にしてもなにもされずに降りてきてくれるのはこちらにとってありがたいことだ。
こちらの作戦は降りてきてもらってからが本番。
捕獲・拘束が目的だからな。
確実に落とせる状況になったら、規模の大きな魔法と魔術重機による高火力な一斉射撃を行い一気に弱らせる。
そして、落ち着いた直後、速やかに前衛のメンバーが波状で捕まえにかかる。
後衛は能力を駆使して、逃避不能な戦場を創造/構築したり、前衛メンバーへのバフを掛けたり、仄葉側に対してデバフを与えたりしてフォローする。
ありきたりな作戦だが、圧倒的な力を前に絡め手はあまり有効ではない。
パワーにはパワーで答える必要がある。
そして、今更だが、悪魔の大群を引き連れてやってくるものとばかり思っていたから、これは想定よりは楽に事が進みそうだ。
「こちら、2A水仙です!仄葉さん、降下速度・角度共に急に上げました!攻撃に気を付けてください!防御系の能力者の方は特に気張ってください!」
インカムからは水仙君の声。
「博士、仄葉さんから強いマナ圧を検知!各チームから卒倒するメンバーが出るかもしれませんので、状況次第でアタックサインをお願いします!」
インカムを付けていない逆の耳からは室内のメンバーの報告。
ついに始まるか?
「わかった。」
「こちら、中央指揮2A西佐波!バイタルサインから戦闘・支援両チームから計10名が意識不明になったことを確認!戦闘への影響はほとんどないという判断です!」
天瞳君の膨大な魔力で耐性を付ける訓練をした甲斐があったか。
こちらもインカムで応答する。
「こちら、宮椋。全隊、ステイ。」
まだだ。
倒れてしまった者たちには申し訳ないが、まだこちらがどうにかできる機会ではない。
「仄葉さんからさらに強いマナ圧を検知!」
室内に響く警告の声。
「こちら、中央!バイタルサインからさらに61名が意識不明に!早めの判断をお願いします!」
61!?
このまま何もできずに無力化されるのはまずい。
まだ十分な機会ではないけれど。
仕方ない!
「全隊、アタック!!!!仄葉の救助を始める!!!」




