64: 天上におわすは人外共、地上も人外の巣窟なり
近接戦は血液以外の消耗なしでサクッと済んだ。
もはや戦ってないから“近接戦”というのも違うが。
さておき、どう遠距離組を攻撃したものか。
この自走できない自転機装独楽を戦車で無理やり持っていくこともできそうではあるが、戦車がボロボロになるのは明白。
その上で天瞳さんの魔法なんかを喰らった時には一発ノックだろう。
意味がない。
天瞳さんの魔法の鳥による電磁マナバースト弾の消化も終わっている。
となると、一旦はこの中で籠って魔法やら魔術矢やらを耐えるのもありかもしれないが、時間がもったいない。
もちろん、練習用とはいえ、物理的な消耗品もあるので、それをわざわざ無理やり消耗させるのも違う。
攻撃した方が水仙チームの残りのメンバーも楽しめるだろう。
つまり、大きく前に出ることが出来る武装に切り替える必要がある。
半自動防御装置付きモビリティボードに乗って前進したいわけだが、これの防御装置の能力はたいして大きくない。
電磁狙撃銃もこの状況では使いようがない。
弓という縦偏差が大きい武器も居る状態で、実のところ遮蔽が凄い有用というわけでもない。
消す意味もないが。
考えている間に、トスッと音が。
(何か来た!)
音がしてすぐに、遮蔽から追い出される方向への風魔法が私へ襲い掛かる。
こんな備品はないので、おそらく天瞳さんが矢に魔法を付与したのだろう。
目にしたわけじゃないが、なんとなく1Aの魔法使い男子の力ではない気がする。
考えすぎた。
遮蔽から追い出された以上、前に進むしかない。
モビリティボードのアクセルを稼働させて思い切り前に出る。
まだ迷路の残骸は残っているから大丈夫ではあるが、天瞳さんのサメの歯攻撃魔法で水仙チーム側は遮蔽がない。
矢と魔法が多く降ってくる。
比較的低弾道で真っすぐ来るのは仁奈ちゃんの矢。
山なり弾道なのは仁奈ちゃんの後輩の矢。
ふしぎな軌道を描くのは、2A魔法使い男子と天瞳さんの魔法。
時折、2Bの女子と目があうが、デバフを掛けてくる様子がない。
なにかの作戦か、本人の技量不足か。
それらをテキトウに遮蔽を生成して回避つつ、少しずつ前に詰める。
だが、割と手前で足止めを食らう。
曲芸的に飛んでくる魔法付与矢の効果のせいで、これ以上前に進めそうにない。
ここで一瞬考える。
天瞳さんはどう攻撃すれば突破出来るだろう。
もう一発くらい電磁的マナバースト砲を撃ったら天瞳さんのオドを枯らせないだろうか。
仮にそうだとしてももう遅い。
前に出てきてしまった。
いや、冷静にならなれ。
ゲームでも何でも、焦った人から失敗する。
今の問題は、相手の手数の多さ。
矢やら魔法やらがポンポン撃たれている。
それを突破したい。
皆との距離は10m弱。
遠距離組が前線に出てくる様子は当たり前ながらない。
集中砲火を突破する一手は。
いつぞやに象モグラを倒したときに使ったヘビーマシンガン。
弾幕を押し付けてどうにかするしかない。
設計図を片手に、ヘビーマシンガンを生成。
イメージをもとに、ヘビーマシンガンに弾の無限化をする機構と、モビリティボードにヘビーマシンガンを装着するためのコネクターを生成。
これで一気に前に出て突破、したい。
一呼吸。
いや、これでバック走行で固定された戦車まで戻ってもう一発電磁的マナバースト砲を撃った方がいい。
流石に、天瞳さんもこれを抑えながらの攻撃はできないんじゃないんだろうか。
もう一呼吸。
戻る!
遮蔽から出た瞬間、また集中砲火。
私の行動の意図を察したのか、なにか頭に大きなものを付けた矢がミサイルのように曇り空に向かって放たれる。
頭のヘビーマシンガンで撃ち落とせるようにモビリティボードの車体を頑張って斜めにする。
何やらまきびしのようなものが空中で爆散する。
ここら辺一帯にまばらに散ってしまう。
「シュニー、まきびしの位置を案内出来たりしないもんね?」
『え、幼精にはちゃんと視覚機能ついてるからいけるよ!』
「お、じゃあお願い」
『あいよ!』
危うく後退できないところだったが、なんとか辿り付けそう。
「うっ」
強力な異能製アーマーを貫通する強い衝撃がみぞおちに。
腹を見ると、また、矢。
モビリティボードから崩れ落ちる。
(引いたのは悪手だった?)
『落ち着いて、その痛みすぐに治すからすぐ乗って!』
「うん!」
すぐに痛みが和らぐ。
「やっぱり、二人なのは心強い。」
シュニーの手早いフォローで後退を再開。
無事、戦車のところまで戻った。
が、砲身がメチョメチョになっている。
でも大丈夫。
左手に設計図を持ち、右手で車体に触れて能力を発動する。
3秒もあれば修理完了。
再び、戦車の血液タンクに3mlほど私の血液を溜める。
シュニーさんの神経操作と幼精体での身の回りの細かい補助はとてもズルいサポートだ。
「電磁的マナバースト砲、発射っ!」
再び、天瞳さんの鳥型抽象魔法とマナバースト砲弾の対面。
天瞳さんの魔法の鳥がさっきと違う気がする。
時間稼ぎをしたかったが、そうは言ってられなそう。
『ミリア!すごい勢いで2人と1匹が来てる!』
「え?」
『もう近い!!』
同時に、私の目の端にくたびれたオオカミに乗った仁奈ちゃんの後輩と2Bの女子が。
固定されたヘビーマシンガンの射線とは全然違う角度からやってきた。
視覚を一瞬にして奪われる。
仄葉直伝のデバフだ。
「魔法少女先輩、失礼します!!」
ヘルメットとアーマーの隙間から入ってくる細い棒状の衝撃。
矢を刀代わりにして目くらましを狙ってきたみたいだ。
しかし、体が落ちる気配はない。
『安心して、痛みの生命電流、最小限にできたから。
振り返りながら、腰から電磁狙撃銃を引き抜いて振り回して!』
「え?」
とは、仁奈ちゃんの後輩の驚く声。
「うっ、の、ノックアウト、です」
仁奈ちゃんの後輩をノックできたらしい。
どこか急所に当たって悶えているような声に聞こえる。
そして、同時に視界が戻る。
2B女子がパニックになったのか、制御が解けた。
「うち、武器ない!降参!!」
武器がないだけだった。
オオカミも降参のポーズをしている。
なんとか不意打ちをカウンターできた。
となると、あとは仁奈ちゃん、巫禾々ちゃん、天瞳さんと高1男子魔法使い。
巫禾々ちゃんは召喚後すぐに自分から戦場外に行っている可能性もあるから3人。
まだマナバースト弾は消化されていない。
今度はこっちが急襲する番。
モビリティボードをアクセル全開で蛇行運転。
2方向から矢と魔法が飛んでくるけど、流石に当たらない。
ヘビーマシンガンは乱射モードがオンになりっぱなし。
ノックを取りやすそうな仁奈ちゃんの方に向かう。
「強いね、海璃和ちゃん。弓じゃ無理ね。でも、みぞおちに当てれたのは気持ちよかったわ。」
まだ数メートルあるが、降参宣言。
みぞおちに打ってきたのは仁奈ちゃんだったようだ。
あと2人。
と。
モビリティボードが急停車し、体が前に放り出される。
そして、身体が言うことを聞かない。
身体が重い感覚はないが、手足だけが縛られている感覚がある。
「よくこのメンバーをここまでノックアウトできたね、渦井さん。」
声の主は、天瞳さん。
マナバースト弾と魔法の鳥の方を向きながら、声をかけてくる。
「・・・、ありがとう。天瞳さん、この魔法は?」
「重力の魔法よ」
仄葉にずっと前に聞いたことのある話がふとよみがえる。
”重力魔法はバフ・デバフと同様あるいはそれ以上に細かい制御が必要だから習得に時間がかかるし、度合いを調整できるようになったら、それは魔法のプロであるのと一緒だって言われてる”。
たぶん、天瞳さんはすでに魔法のプロだ。
相手のことを視界に捉えないまま、モビリティボードだけを停車させ、そのあと的確に私の手足だけに重力を掛けた。
圧力を感じない程度に。
私にはわからないけど、魔法使いのほとんどの人が、相手を向いて魔法を行使している印象があり、つまり、相手の方を向いていないと的確に魔法を使えないということで、難しいことのはず。
おまけに相手を配慮する微調整付き。
それをあっさりとやってのけるのだから、レベルの違いがうかがえる。
宮椋研究室メンバーを含む観戦者もざわざわしている。
衝撃の制御能力なのだろう。
ただ一つ疑問が。
これを持ってしても、学年3位の実力!?
私たちの知らない仄葉の実力がある、ということ。
魔法の実力を測ってランキングを出しているのは宮椋研究室。
親バカで学年1位にすることはないと思うが、私たちが目にした実力だけだと天瞳さんの方がスペックが高いように思う。
仄葉も天瞳さんも隠していることがあるだけなのだろうか。
「俺、なんもしてねぇ!」
そんな、1Aの魔法使い男子の嘆きの叫びを聞いて、まだマナバースト弾の処理をしている頼もしい天瞳さんの背中に向かって私も一言。
「手も足も出せないので、戦闘不能です。」