54: 日常に近いはずの振る舞い
ミリアとたまたま合流して、グリフォンに相乗りさせてもらって、ひとっ飛びで研究室に着いたけど、あたしたち以外のほぼ全員が揃ってるみたいね。
あれ、憂子ちゃんとか楓もいるじゃん。
いつもと違う事するのかな。
そんなちょっとした思考の間にグリフォンはフワッと着地。
あたしはすかさず、
「すみませーん、遅くなりました!」
こういうところはしっかりしないとね。
「お、0番隊メンバー残り3人も到着したか。では早速、会を始めようと思う。今日の立ち回りトレーニングは今までのトレーニングを総合した実戦形式のモノを行おうと思う。やり方としては、大会などでの実戦経験のあるメンバー2人対そうでない10人強を5組と少し特別な組3組を作り、それぞれで怪我しない程度のガチ勝負をする。実戦経験がないチームには指揮メンバーを付ける。メンバーは無線機による対話をすること。負傷判定は、指揮メンバーに任せ、負傷判定を貰ったメンバーは観戦・休憩に入ること。また、少数サイドは、私が負傷判定を下す。」
そっか、もうそんな段階なんだ。
そうなれば、あとはホノを見つけて取り戻すか、デビルホノが襲来したら頑張って対処するだけってカンジね。
「楽しそうだね!ね?竜!」
「あんたは加減、気を付けなさいね」
あはは、確かにあたしはそこ気を付けないとだよね。
このメンバーの中では一番の抽象魔法の使い手のハズだしね。
「うーん、ホント、気を付ける。」
「不安だからそういう曖昧な返事しないで!?」
全く、竜は心配性すぎるよ。
まあ、間違った心配ではないけども。
と、パンパンと博士が手を叩く。
「では、このホワイトボードの通りに組に分かれてくれ。無線機はホワイトボードの後ろ側に付けてあるので取ること。あと、今来たメンバーは周囲に現状を聞いてくれ。」
あ、蓮村委員長と飛鳥副委員長来た!
ほかの学年のクラス委員やってる人も一緒だ。
で、えーっと、皆基本的に同学年の人とやり合う感じなのかな?
で、あたしたちは、もちろん、高2のメンバーとやりあうと。。。
あとは戦闘メンバーが少ない高1の子3人も一緒だね。
んん?なんかバランス、さっき聞いたのと違う?
あたし達だけ、1対10くらい?
あ、特別な組ってあたしたちの事!?
てっきり研究室メンバーのことかと思ってたけど。
「あ、あの、博士、あたし達が特別な組っていうのは分かったんですが、比率が2倍で、、、これはどういう?」
「ああ、海璃和君、咲君、竜君、キミ達3人はシンプルに強いからだ。あとは、高2の皆、特にA組のメンバーは仄葉と戦闘するという事に精神の奥深くで少しでも躊躇いが生まれやすいと俺は思った。それでは、自身の致命傷被弾率が上がる。これを避けるためにも、全力でぶつかっても大丈夫なメンバーに全力で戦闘を仕掛けて貰って少しでも慣れてもらわないといけない。キミ達3人にしても、覚悟があるとはいえ、隙が全く出来ないという保証はない。そのためにも、どんなに親しい人からどんなに激しい猛攻を受けても冷静になれるように、慣れておいて欲しい。」
・・・なるほど、理由は分かった、分かったけど、極端では?!
確かに必要そうなことではあるけど。。。
竜なんて青い顔してるよ!?
絶対比率おかしいって。
あたしとミリアは魔法があるから一対多でも問題ないけど、竜はそうじゃない。
いくら、伝家の宝刀、“抗魔の刀”があるとはいえ、厳しい気がするんだよなぁ。
ミリアも不安というか困ってそうな顔してるし。
いやいや、この3人の中で一番強いのは間違いなくミリアだけどね??
なんでもできちゃうんだから。
まあ、それはそれとして、やるっきゃない。
ホノを取り戻すためにも。
「わ、わかりました、頑張ります」
「よし。では、訓練の場所も限られるし時間もあるので、順番を付けて実施していく。研究室メンバー+炎獅さん+フィーロアさん+爛梨さんの2対11と2対12を第1陣、大学1・2年の2対15と大学3・4年の2対15を第2陣、高校3年の2対12と竜君対10を第3陣、咲君対10と海璃和君対11を第4陣として、各陣30分を訓練時間とする。」
・・・、最後かー。
あ、じゃあ今のうちに雪凪ちゃんと歌凛ちゃんにホノとの接点聞いてみようかな。
まずは、目をギラギラさせてる雪凪ちゃんから。
「ねぇねぇ、雪凪ちゃん、今ちょっといい??」
「んん~?いいけど。」
「あのさ、今更なんだけど、どうしてこのホノ救助団に参加したの?校内で話してるの見たことなかったんだけど。」
「あ~、ホント、今更な質問だね。接点はねぇ、1人で教室にいた仄葉ちゃんに悪戯を仕掛けたのが始まりだったね。」
!?いた、、、ずら、、、、?
「ほら、仄葉ちゃんて魔法めちゃ凄いじゃん?私、普段から叔母さんの頼みもあって、仄葉ちゃんのことかなりジロジロ観察してた変態さんなんだけど。」
え?そうなの?全然気づかなかった。
「それで、とある日、部活帰りに教室に戻ったら珍しく一人で教室に残ってるの見かけたから、お手並み拝見のつもりで、今まで百発百中だった私謹製の特別な悪戯である、埃を使ったこしょこしょをやってみたんだけど。」
埃を使ったこしょこしょ?
どゆこと?
「待って、埃をどう使ったらこしょこしょが出来るの?」
「ん~?やって欲しい??」
「いや、やんなくていいけど意味わかんなくて。」
「そっかぁ。まあ、こういうことよ。」
というなり、雪凪ちゃんの目の前に、半透明で灰色の手の様な何かがフワフワっと生み出される。
なるほど、埃を操って手の形にして遠隔こしょこしょを、、、、って
「えぇ!?細かっ!凄いね!」
「ありがとぉ。繊細さだけなら仄葉ちゃんにお墨付き貰ったからね。」
「それで、続きは?」
「そうそう、で、仄葉ちゃんにこの埃こしょこしょをやろうとしたんだけど、埃の手が仄葉ちゃんに辿り着く前に突然私の視界が暗転してさ?」
おお、ホノが大得意なデバフ系魔法!
今回の作戦でも、要注意になってる魔法。
「んで、体がフワッと動いたのよ。特に体に触れられた感覚は無かったんだけど。」
風圧操作か万有引力操作かのどっちかかな?
「それで、視界が明転したら目の前に仄葉ちゃんにの顔があってさ?」
おお!なにそのシチュ!あたしもそれされたい!
「仄葉ちゃんが、『すごく細かくて、全然わからなかったけど、最後興奮してマナの操作がブレちゃったのがあなたの敗因』、ってささやく声で私の右を通り過ぎていってさ?」
かっこいい!!!
やっぱホノは最強だぁ!!!
私なら見逃しちゃうなぁ。
「それで、今度は左から『お・し・お・き』って言って、また、視界を暗転させた上に、なんか磔にされたみたいに、T字の状態で体動かせなくなって、バタン、って教室の扉が閉まる音がしたんだよね。」
「え?そ、それはヤバくない?」
「うん、流石の私も『酷くない!?』って言ったはずなんだけど、自分の声が籠って聞こえて。」
部分的な筋肉麻痺、かな?
それで口が動かせなくて、骨振動だけで籠って聞こえた?
「しかも、『矢室がなんかT字で固まってる。ゲームのバグか?』みたいな男子の声が聞こえたりして。」
それは、本当に聞こえたのか、もしかしたら聴覚超強化か、幻聴の可能性もあるね。
「そんな状態が1時間くらい続いた気がしたんだけど。」
ホノ何やってんの、どう考えてもお仕置にしてはヤバ過ぎ。
「で、『恥ずか死ぬ!』って思ったら、また急に明転して、目の前には仄葉ちゃんが居て。」
はぁーっ、ホノにそんなS気があったとは!
「『今、どんな気持ち』って。」
ヤッバ。ホノそんなことしてたの!?
めっちゃ煽ってる!!!
流石のあたしもそれやられたらブチ切れてるかも。。。
「私その時なんて答えたのか全く覚えてないんだけど、仄葉ちゃんがめちゃめちゃ笑顔だったことだけは覚えてて。」
めっちゃ笑顔なホノっ!?
激レアじゃん、いいなぁ。
「で、その後、色々なにしたのかの解説をしてくれた後に、『じゃ、またたまに遊ぼうね』って言ってくれて、ああ、嫌われた訳じゃないんだなって思えてうれしかったのと、あと、なんか別の感情もあって、で、それから沢山遊んでもらうようになったのが、私の仄葉ちゃんとのお付き合いの始まり。」
なんだろう、別の感情って。
わざわざ濁して言うんだから言いたくないんだろうけどめっちゃ気になる!
それに“お付き合い”!?
「え、もし嫌だったら答えなくていいけど、その別の感情って恋系?」
「うーん、恋、ではないかな。はっきりは言いたくないけど、色々を含めて『ゾクゾク』を感じた、とだけ言っておく。」
えぇ?
それもうだいぶはっきり言っちゃってる気がするけど?!
要はSMってことだよね。
はぇー、あたしには分からない世界。
分かりたい気持ちもあるけど、分からなくていいかな。
スルーしないと大変なことになりそうな予感するし、触れないでおこ。
「あ、そうだ、ちなみにそのホノが解説した内容って概要覚えてたりする?答え合わせしたくて。」
「もちろん。まず、一番初めの暗転が視覚神経麻痺、体がフワッとしたのは局地無重力化、移動させたのは、えっと磁力強化だったはず、二回目の暗転は瞼の筋肉麻痺+遮光バリアで、口が動かなくなったのは口まわりの皮膚の感覚麻痺+セロハンテープ、男子のセリフは本物で特に何もしてない、時間も全然経ってなくて10分くらいだったかな。」
「えー!!全然違った!いやー、あたしもまだまだホノのこと知らないなぁ。」
「あはは、私もびっくりした。セロハンとか一番謎だよね。一番ハズかったのは同学年の男子に現場を見られたこと。」
「それは間違いないね!」
「又聞き後日談だけど、その男子、仄葉ちゃんにサムズアップ貰って喜んでたって。」
「はははー!」
キレそう。
「さ、咲ちゃん、怖いよその笑い方。。。」
「ごめんごめん。」
「どう?これが馴れ初めだけど、満足できた?」
「うん、ありがと!じゃあ、とりあえず第一陣の訓練、後半は真面目に見よっか。」
「そうだね、流石に。」
キャッキャしてたあたしたちの目の前の訓練は炎獅さんと研究室の女子メンバーで最強の博士課程1年であたしたち2Aクラスメイトの千花ちゃんの姉である剣崎智花先輩vs他研究室メンバー7人が熱戦を繰り広げている。
研究室メンバーの指揮を執るは篝屋先生。
篝屋先生判定で、既に4人が脱落判定になっている。
炎獅さんが前衛、智花先輩が後衛で、研究室メンバーは指揮に従ってそれぞれ攻撃している。
研究室メンバーも全員が全員魔法を使えるわけじゃない。
もちろん、異能者を含む魔法使いは魔法を使って、そうじゃない人は戦争学部から借りた武器を使っている。
魔法使いの面々は抽象魔法もしっかり使って、炎獅さんの猛攻をいなしたりして頑張って攻撃をしていたけど、智花先輩の的確なサポートで炎獅さんまで届く攻撃はかなり少ない。
炎獅さんもそれなりに傷ついているが、隙を見て智花先輩が回復しているので、博士からの負傷判定はない。
炎獅さんが魔法使い相手でもガシガシ突っついていくので、智花先輩は基本サポートに回っていて、とても安定している。
そんな感じでじわじわと一人一人負傷判定を与えていって、30分経つ前に訓練は終了した。
「「「「「「「「「「おぉ~」」」」」」」」」」
あたし含め、皆もその落ち着いたお手本の様な戦いぶりに感動している。
「流石だね!」
「ねぇ~」
さて、次はフィーロアさんとママのだね。