50: 有と無の境について
「というと?」
≪ふふん、それはもちろん魂力と権能だよ!仄葉ちゃんなら嫌な思い出からそれらしき力をピックアップ出来ると思うけど。≫
嫌な思い出。
嫌な思い出をヒントとして使う所に以津真天の意地悪さを感じちゃうけど、まあ、それを言われてしまえばもう答えは分かったも同然。
「それって、爪とか歯をデカくするヤツ?」
≪そう!その通り!まあ、どんな部位でも出来る訳じゃないんだけどね。≫
「それで?やり方は?」
≪気が早いよ、仄葉ちゃん。大丈夫、ちゃんと教えるから。
まず、前提の魂力の部分ね。
出会った頃に、『体と魂と意識の話』したの覚えてる?あの後話そうと思ってたんだけど、結局色々あって話せてなかったね。
それで魂力っていうのは、簡潔に言うと物理的な定義を変化させる力だね。魔法は悪魔じゃ認識できないマナとやらからイメージを元に術を構成する感じだけど、魂力はそこまで万能じゃない。基本的には実体に魂力を意識的に働きかける感じ。使うには詠唱が必要だよ。明確に対象をどのように変化変質させるかを言葉にするよ。
魂力は不本意なタイミングで発動することもあって、何かをする意識が明確にあれば一応発動するから、場合によっては詠唱しなくても発動するね。
私が以前仄葉パパと戦ってる最中に仄葉ちゃんに煽られてイラっとしてオーロラを出したの覚えてる?
あれがそれ。
で、権能は魂力の上位互換で、これは少し魔法に近いかもね。発動に詠唱は必須ではないけど、明確な意識は必要。体に組み込まれてる受動的な能力だからね。だから、≫
「爪鋭化!」
………
………
「え?爪鋭くならないけど?」
≪…話は最後まで聞いて下さいね、母君。≫
「ちょっ、母君はやめて、チロちゅんの話だと間違いではないけど、その呼び方だけは勘弁してください。。。」
≪じゃあ、話聞いてね?
で、確かに私の話出しが悪かった面もあるから改めて言うけど、仄葉ちゃんにまず覚えてもらうのは権能というよりは魂力だね。だから今仄葉ちゃんは何も発動させずに恥ずかしいことになっちゃったんだね。≫
(おふ…、なんかツラ。)
≪ということで、実践してみましょうと。例えば、今仄葉ちゃんがやろうとしてた爪を鋭くするっていうのは、ステップとして
①爪に意識を向ける
②爪の先を鋭利にするように意識する
③その意識に合った詠唱をする
の3段階に分かれるってワケ。
やってみて?≫
「OK」
おっし、じゃあいっちょやってやりますか。
爪に意識を向けて、
爪の先を鋭利にするように意識して、
「爪鋭化!」
………
…………
「なんないよぉ!?」
≪うーん、魔法じゃないの分かってる?イメージしちゃってない?それだと主な意識は、脳みそに意識いっちゃうね。≫
「いや、特には、、、」
≪そっか、じゃあ、こっちに言い方の方がいいかな。イメージは思い浮かべるという動作に対応してると思うんだよ。だから、今仄葉ちゃんがしなきゃいけないのは、意識をする、つまり、思い込むってこと。≫
「分かった。やり直してみる。」
爪に意識を向けて、
爪の先が鋭利になってると思い込んで、
「爪鋭化!」
………
…………
≪お≫「なんでやねんっ~~~」
プシャー
「いひゃいっ!」
何も変わってないように見えたから手で頭を掻こうとしたら頭皮から血が出たんですけど!?
≪あぁあぁ、まあ、ひとまずおめでとう!出来たね!≫
「え、なん、どういうこと?」
≪もしかしてだけど、爪が三角形の形に変形して剣みたいになると思った?≫
「うん……」
≪それなら、“爪剣化”とか“爪鉤化”って詠唱するべきだね!≫
「なるほどねぇ。詠唱に具体性を持たせるのって難しいね。それよりさっき言いかけたのは何?」
≪いや、おめでとう、って言おうとしたんだけど。。
その前に顔引き裂いちゃったね!≫
「あ、なんだ、てっきり煽られそうになってたのかと思った。えへへ、いっっつ!」
褒められたと知って嬉しくなって照れくさくってほっぺ掻いたらまた血がプシャった。
≪アハハハっ、ア、アホ、アホがいるって、アハハ、アハハハ!≫
「ちょ、え、は?どういうこと?」
≪そりゃ、爪の定義を書き換えたんだから元に戻さないと!アハハハっ!≫
あえ?
あ、一瞬変わるとかではない!?
定義を書き換え?
あ、冒頭に言ってたことってこういう事!?
≪そうそう≫
「え、でもさ、あんたたちがお父さんと戦ってた時、一々解除みたいな詠唱してなくなかった?」
≪おぉ~、いいところ気づくね!そう、そうなんだよ。じゃあ、次のステップね。
今度は、
①爪に意識を向ける
②“リセット”と脳内で詠唱する
って感じにしてみようか。≫
「OK」
爪に意識を向けて、
“リセット”
………
分かりずらいからとりあえず腕を掻いてみる。
血はプシャらない。
≪はぃ~、おめでとう!脳内詠唱で魂力が使えるのは権能の範囲内にある対象だけ。私の権能は他生物の魂感知と爪の変質だから爪に関しては私の権能からのアプローチの方が便利って訳だね。つまり、今仄葉ちゃんは私の権能を使ったってこと!≫
「なるほど?じゃあ牛鬼と化蛇のは?」
≪牛鬼は身体能力の向上・歯の変質で、化蛇は魂力の体外放出とその操作だね!≫
「え?角と翼と尻尾は?」
≪全部体の一部だよ!≫
「悪魔は体無いんじゃないの?」
≪体は確かにないけど、牛鬼の魂の定義に角、化蛇の魂に翼と尻尾の定義があるから、体にその定義が顕現してるんだよ。ちなみに、私の魂の定義には爪と牙があって、牛鬼の魂には牙の定義もあるけど、人間の定義の爪と歯の方が定義として上位のモノだから上書きされてないんだね。≫
「そ、そっか。。。それって魂力を使って隠したりできる?」
≪うーん、やってみたことないからなぁ。≫
「じゃあ後で試そう。とりあえず壁切り出そ。」
両手の人差し指の爪に意識を向けて。
えー、刀みたいになればきれいに切れるかな。
あ、でも突き刺すときは刀じゃ無理かな。
剣先は西洋剣、途中から刀になる感じならいい感じになるかも?
あとは、硬い方が爪折れなくていいよね。
“爪刀化”
“爪先西洋剣化”
“爪硬化”
おおぉ、なった!
≪いいねぇ、仄葉ちゃん飲み込み早いね!≫
「イェイ」
さて、これで切りますか。
両手広げたサイズなら十分な素材になるよね。
じゃあ、両手を大きく広げて、爪和洋折衷刀剣の刃が上を向くようにして。
壁に刺して押して。
刀の部分まで入ったね。
魔法で地面を押し上げながら、体全体を使って刃の位置を上げていって、おお、この剣切れ味イイね。
天井に着いたから天井から切り離したいけど、このまま手を捻じると流石に爪が割れる気がするんだよなぁ。
両手の人差し指の爪に意識を向けて。
“リセット”
“爪錐化”
錐にした爪で角に丸穴を開けて、刃が横を向くように手を捻じって
“リセット”
“爪刀化”
“爪先西洋剣化”
“爪硬化”
天井と壁を切り離すっと。
ひとまず、爪を“リセット”。
残る接地面は地面だけだね。
こういう時、私が攻撃魔法得意だったらぶっぱしてバキッといけたんだけどな。
以津真天、なんかいい方法ない?
≪そうだねぇ、脚力上昇でキックとか腕力上昇でパンチとか?あとは、仄葉ちゃんが得意な補助魔法で適当な物体を強化して、魂力で強化した腕で思いっきりぶつけるとか?≫
「え、私の得意魔法教えたことあったっけ。」
≪直接教えてもらった事は無いけど、なんたって体に入り込める悪魔ですからね。この世界でオド?って言われてる器官も見えてるし、それがどんな定義を持ってるかももちろんお見通し!仄葉ちゃんの力の事は仄葉ちゃん以上に分かっちゃってるかもね!≫
「ん?なんか今の言い方だとオドと魂は別っていう風に聞こえたんだけど、オドって魂の一部でしょ?」
≪んん?仄葉ちゃんが何を言いたいのか分からないけど、オドと魂は全くの別物だよ?≫
「そうなの!?まじか、授業でオドは魂の一部って習ってたから大分衝撃なんだけど。え、じゃあ今まで私が魔法を使った時に魂力がどうたらって言ってたのは嘘なの!?」
≪いや、オドと魂は別物だけど魔法を使った時の影響はどっちにもあるよ。
仄葉ちゃんの知識の限りだと、
魔法を使うとオドの状態が霊的にマイナスになって精神的に疲れる、
ってあるけど、ここが魂力、もとい魂のエネルギーに影響してるね。
精神が崩れると存在が揺れるんだけど、それが魂にとって凄い負荷で、定義がブレないように魂自身がエネルギーを使って安定させようとするんだよね。
だから、魔法の使い過ぎは間接的に魂を疲弊させることになるんだよね。
逆に言えば、自分の定義を崩さないような魔法なら使い過ぎない限り、魂は疲弊をしないってことだね。
そして、自分の定義を変化させるような魔法、仄葉ちゃんの知識によれば、身体強化魔法とかは魂力もそれなりに使う事になるんじゃないかな?≫
「なるほど?っていうか、私の知識ってそんなオープンなの?私の秘密とか全部知ってる!?」
≪もちのろん。≫
(おふ。)
「ま、まあ、とりあえず、“脚力上昇”して。」
ドォン
肉眼でみると不自然な低木の連なりになってる壁も採れたし、いったん戻りますか。
さてさて、また時間かかるぞ。。。
≪あ、そういえば森に入る時に言えば良かったんだけど、化蛇の翼使えば速かったんじゃないかなって。≫
「おおぃ!それはもっと早く言ってよ!!」




