45: 卵の殻の向こう
お久しぶりです。
靭帯損傷・剥離骨折で入院してました。
昨日退院できまして、今は脚の可動域が小さくらいで、それ以外は元気です。
それでは、小説と言えるのか分からない物語、再開です。
「それは、超事象塊波だな。」
ちょうじしょうかいは??
「な、なんですかそれは?」
「超事象塊波というのは、名前の通り波状体の一つだ。椋平の話では、波状体検知器に真っ黒な結果、超次元感知器に反応ありの結果、という事だったが、まあ当然のことだ。四次元時空間として観測できる限界のモノの値をとったのだから、仕方のないことだ。通常、事象というのは単波つまり、一つの関数で表すことが可能なモノなのだ。塊波であることは、一つの関数で表せないと言う事を指す。超事象とは、起こりえない事に関する可能性を含む事象の事を指す。つまり、椋平がとったのはあらゆる可能性の関数のグラフという事になる。」
可能性の関数、か。
ということは、異形というのは可能性の生物という事になる。
いや、生物と断定することは出来ないのか。
あくまでも、生物の可能性がある存在、いや、言い切る事が出来ない何か、が最も答えに近いのか。
なんだ、答えが出せないのか。
は?
「一思考終えてみてどうだ、なにか見得たか?」
「いえ、むしろ何もかもが分からなくなりました。。。」
「まあ、そうだろうな。何せ、我々管理者が全力で調査してもまだ特定できていないモノだからな。一介の人間に分かってたまるものか」
「ええと、では、異形とは何か分かるのはかなり先の話になりそうですか?」
「どうだろうな、そもそも何かと分かることが出来るのかすら怪しい。特定するという意味で分かるという言葉を使うとするなら、限りなく不可能な話だろう。少なくともこの事象の結論を出せる可能性が我に見得ていない間は。」
可能性の変化を司る神のルーテム=ナトーシェイト神がこんなに力強く言っているのだ。
俺たちが分かるわけない。
(くそっ!!!)
仄葉を助ける手掛かりが見つかるだろうと考え、異形について掘り直してみたが完全な空振りだ。
約4日間を無駄にした。
1日、いや、1秒でも早く何か新しい見解を得たい。
しかし、楓君が、そして咲君が居なければ、こうしてルーテム=ナトーシェイト神と話せなかっただろう。
それはつまり、もっと多くの時間、いや、無限の時間を無駄にしたかもしれないという事だ。
そうならなかったことに感謝だ。
それにしても、昨日は本当に驚いた。
植物状態だと思っていた楓君から電子メールが届いたのだから。
メールには色々と信じがたいことが書いてあったが、どれも常識を覆すようなことばかりだ。
実情も、能力も、メールの送信方法も何もかもが。
彼女に別の神が付いていたら、彼女も俺も何も分からないままだったのだろう。
この朗報は速やかに咲君にも教えたが、嬉しさのあまり気絶していたな。
それもそうだ。
親友が植物状態になってしまったと思ったら、全然そんなことなくて、色々と理解できない事も多くあって、そして失ってなくて、様々な情報が入った故に脳みそがオーバーヒートしたのだろう。
ワールドスイッチに巻き込まれてからは、周りの人達の力をたくさん借りているな。
研究室のメンバーはもちろん、爛梨さんを始めとした協力者、管理者と名乗る神の皆様、そして、咲君を始めとした一部の高校生にすら助けられた。
最近で言えば、ゴルフ場で腰を治してもらった医療魔法を得意とする一般の方、研究の方向性を見失っていた俺を激励してくれた雅清さん、異形に関するデータの整理等をやってくれた剣崎さん、メールで色々教えてくれた楓君、ルーテム神と喋るためにハイエンリー神に取り次いでくれた咲君。
(あれ、最近の俺マジで主体的行動がなさすぎでは?)
情けない話だ。
なにが世界力学の権威だ。。。
肩書が独り歩きして本人がショボいというイタいパターンだ。
50半ばのおじさんは中二病を患っているようだ。
いや、悲観的になってはいけない。
つまり、俺は色々な人に助けてもらえる、信頼のある人間なのだ。
自分で言う事ではないが、現状はそれを示している。
ならば、俺はその信頼に応えなければ。
世界力学の権威という肩書に相応しい結果を出せばいいだけだ。
ルーテム神から得た情報と、以前のハイエンリー神の話、楓君が使い魔から聞いてメールしてくれた内容、これまでの経験を合わせて未知の魔法を解き明かす。
それが、俺の役目。
(よっしゃ、気合入れるぞ!!)
とはいったものの、何をするべきか。
上島助教授のチームは抗魔の刀の研究が大幅に進み、実証の段階に進みつつあると聞いた。
矢室助教授のチームの悪魔・虫人と人間の関係の研究も進みは遅めだが進歩があってよろしいし、篝屋教授のワールドスイッチ・マジックオルタネーションの研究も順調のようだ。
各チームメンバーの生徒諸君も新しい題材に事欠かないから精力が出ていて成果もあって、例年より学科生のやる気が高い気がする。
特に学科4年のメンバーのやる気の違いは大きいな。
去年とは大違いだ。
大学院に進むつもりのない奴の成果は、例年の学科4年の成果に比べて大きい。
非常にありがたいが、そういう優秀な人材が外に出るのは惜しい。
まあ、全員が全員院に進めるわけでは無いし、気が変わるやつが居たら選抜試験をやらなきゃならん。
今年だけ特別に増枠するのは少し無理がある。
そうなったらそうなったで、いいとしてだ。
異形の研究はこれ以上進めそうにないし、次のテーマについて考えるとしよう。
まず、自分は何を研究したいのかはっきりさせた方がいい。
自分のやりたいこと。
今はひとつしかない。
仄葉を救う事だ。
つまり、仄葉を救うのに最も必要な魔法を探すのをテーマに考えを展開していこう。
まず仄葉を探す必要がある。
これは言うまでもなく、今どこにいるかすら分からないからだ。
次に、仄葉の現状を瞬時に把握できる必要がある。
出来れば、なんとか拘束して測定室の中に連れ込みたいが、仄葉の魔力を操っている悪魔が居る限り、それは誰にもでき得ないと考えられる。
とすると、瞬時に把握し、適切な処置をしなければ、悪魔から仄葉を切り離すことは不可能だろう。
次に悪魔に取り憑かれている仄葉と戦う事になるだろう。
これは確定事項と思って差し支えない。
自分の娘に対して使う言葉ではないが、仄葉のオドのマナ許容量は化け物級だ。
ハイエンリー神から教えてもらった抽象魔法をもってしても仄葉の魔法に耐えられるかは不明だ。
抽象魔法で仄葉の防御を抜けることが出来れば、拘束のタイミングもあるかもしれない。
だが、攻撃面は『抗魔の刀』研究チームに任せられるだろう。
仄葉と悪魔を切り離す方法も、『虫人・悪魔と人間の関係』研究チームwith楓君が突き止めてくれるはずだ。
という事は、仄葉の探索と仄葉の状態等の瞬時の把握について魔法と絡めていける要素があればそれをテーマにすればいい。
仄葉のオド周波数は分かるから、それを捉えることが出来る装置を作るか?
そう言う装置ができて世間に発表できるものだろうか。
基本的にオド周波数は生まれてから変わることがないことは過去の研究者が究明済みで、病院で産まれた時に測定し、記録しているはずだ。
それを利用した迷子発見器はどうだろうか。
これなら堂々と研究できそうだ。
既に研究されてなければ恰好のテーマなのだが。
ググるか。
[迷子発見器 魔術式]や[迷子発見 魔法]と検索する。
…………
……
(まあ、あるよなぁ)
完成はまだのようだが、研究は存在したか。
とすると、瞬時にオドの解析ができる機器か魔法があるかどうかだな。
これは医学部と魔法系の学部がある大学ならやっていそうなテーマだが。
[オド 解析 瞬時]で検索する。
…………
……
これもあるか。
となれば、先方に伺って研究成果を見せてもらうのがいい。
共同研究が出来れば尚良しと。
あとは。。。
最重要懸念である仄葉の弱体化か。
抗魔の刀以外の方法を見つけるのがいいだろう。
それか、現在進行している研究のどれかを大きく促進させるのもありだろう。
ひとまずのやれる事は決めれたことだし、とりあえず異形についての世間発表用の資料を作るとするか。
さあ、どう発表したものか。
『究明不可能な生物』なんて言ったら、一般人からしたら混乱必至で、世界力学の権威と巷で呼ばれている俺がそんなことを言ったら不安が広がる一方なのは間違いない。
となると現状で分かっていることをそれっぽく言うしかない。
誰も分からないようなことをどんなに詳細に説明しても分かってもらえないのは当然だ。
だが、今回の件で言えば、新種であることが示せればいいわけだ。
先ほどの思考でたどり着けた一応の答えを参考にするなら、『可能性の生物』と発表してしまうのが吉だろう。
一般の人どころか、研究室メンバーにも伝わらない可能性が高いが、これでしか伝えられない
こう言い切ってしまえば、“何か”かは分かった感は伝えられると思われる。
よし、その方向で発表しよう。




