2: 豊かな丘陵に吹き抜ける冷風
2話です
5/10 1話と同じように色々訂正しました
8/25 サブタイトル付けました。
私は宮椋仄葉。
若城大学付属稲崎台高等学校に通う高校2年生。
若城大学は世界力学の研究科が凄いことで有名なんだ。
それ以外も凄いから偏差値、高いんだけどね。
そして私は、その研究科の科長、宮椋椋平の長女。
私たちの少し贅沢なシェアハウスから歩いて5分、学校に着いた私達は駄弁りながら教室のドアを開ける。
〈パァンパァンパァン!〉
「宮椋!おめでとー!!」
「いやー、流石宮椋だな!」
「すげー綺麗だったよ!」
うるさい男子共と共にクラッカーが鳴った。
私は昨日マジテクアートで優勝した。それ故の歓迎だろう。
「まぁ、私にかかればあんなのは余裕ね」
「「「仄葉様の得意顔頂きましたぁ!」」」
(あぁ、五月蝿い。いつから私はこんなキャラになったの)
「こらこら、仄葉。そんな顔しないの」
そう言うのは、私の信頼している友人の一人、椿島竜。
漢字だけだとものすごく強そうな男子の雰囲気を感じるが、落ち着いている芯の強い女の子だ。
剣道場のコーチを父に持つ、武闘派である。
魔法適正はないが、常に成績上位者に名を並べる才女。
肩くらいまである、少し青みのかかった黒髪が特徴的な大和女子だ。
胸は私よりない。でも、背は高い。
「ねぇ、海璃和もそう思うでしょ?」
「そうデス!流石、仄葉様ぁ、相変わらず人気デス!」
「いや、そうじゃなくて」
調子よくはしゃぐのは、独日ハーフの渦井・S・海璃和。
腰下まである長い金髪と、翠と碧のオッドアイが特徴的なおてんば娘だ。
体育が得意でドイツ語が話せる(話せても成績に関係ないが)元気な子である。
お母さんが界隈で有名な音楽家で、お父さんがガラス細工の巨匠である。
胸は私と同じくらいか、もしかしたらあっちのほうが上かもしれない。
でも、背は私のほうが高いはず。
そして、我関せずとばかりに、教室に入るなりそそくさと自分の席についてふて寝しているのは、昨日私がつい激昂してしまった幼馴染みであり、親友である紫岸咲だ。
確か、咲のお父さんは航空会社の社長だったはず。
胸は山脈だ。背は、小さい。
成績は普通より上といったところか。
サイドアップにしている朱色の髪先をいじりながら何かブツブツ呟いているのがなんとなく聞こえる。
「私は昨日準優勝したのに、なんの歓迎もないのね。はあ、たかだか昔のちょっと可愛そうなあだ名で呼んだだけであんだけブチ切れる仄葉があんなに集られてるのに。私には何もない。悲しいわ。」
昨日謝ったじゃん、いつまですねてるんだか。
普段はほんわかしててかわいいんだけどね。
五月蝿い男子を処理しながら、咲の様子を見ているうちに、ホームルームが始まる。
「えっと、今日の日直は宮椋だな。挨拶を」
…………
「おい、宮椋!」
「あっ、はい!すみません。起立!」
ガタッ。
「礼!」
「着席!」
ガタッ。
「よし。じゃあ今日のホームルームを始める。……」…
1限が始まった。私の大好きな世界力学の授業だ。この先生もお父さんの研究室のメンバーなんだけど、教え方は下手だし、つまらなく感じる。あーあ、お父さん来ないかなぁ。
なんでも、この世界は物凄く特殊な世界らしい。
200年くらい前に偉大な魔術師が、自分の寿命と引き換えに他の世界を覗く術を成功させ、命尽きる前に、この世界の特殊性を伝えたって言われてる。
実際は本人の寿命だけじゃなくて周りの人を巻き込んじゃったらしいんだけどね。
なにが特殊かっていうと、魔法が存在しながら、科学技術が発展したことらしい。
他にもあるにはあるらしいんだけど、その多くが、とある世界からの異世界転生とか召喚された人が持ち込んだ結果そうなっただけで、元々はそうじゃなかったんだって。
で、その伝説とか古文書、今ある技術とか歴史を研究・調査した結果、世界はある力によって構成されてて、それぞれの世界である程度の運命がその力によって決まってるって事が分かったんだって。
それを勉強してる。
面白いよね。運命は決まってるって。
でも、その研究結果によると、もっと昔にこの世界が終わってた可能性もあるんだって。
つまり、運命は決まってるけど変えることも出来る。
その仕組みを説いてるのがこの授業のキモかな。
結構むずい。複雑なんだよね。
どの科目よりも覚えることが多いし、それなのに、式とかもあるんだよ!!
怠すぎる。
でも、なんか面白くない?
世界を識る授業。
私、この科目だけは学年1位なんだ。
それに、お父さんにも教えて貰えるからね。
むしろ学年1位じゃないと顔立たないってゆうか。
他はつまらないから、そんなに頑張れない。
どちらかと言うと理系寄りで、あとは、芸術系と魔術系も一応得意分野。
文系は全くダメ。でも赤点をとったことはない(ギリギリ)。
でも、この成績を怒られたことはない。
良いお父さんを持ったと思う。
あんまり会えないし。
忙しいからだと思うけど。
2限のつまらない古文を半寝でやり過ごし、3限の社会を居眠りで通り過ぎると昼休みになった。
今日も今日とて、いつもの4人で学食にでも行こうと思い、咲の机に近づこうとした時、私の左斜め前の名前も覚えてない男子に
「あのっ、宮椋さん!ちょっと後で時間も」
「邪魔」
声をかけられたので一蹴して、悲壮感を背後に咲の方に向かう。
「ねぇ、咲。学食、行こう?」
ふて寝したまま返事がない。と、
「ねぇ、ほの。」
「なに?」
「昨日はごめんね」
昨日仲直りしたはずなのに、また、謝ってきた。
「え?あ、うん。私、もう気にしてないよ。」
「…」
「咲?」
「なんで」
「?」
「なんで、そんなにほのは」
咲が言いかけた時、
「サキー、ホノー、学食に行きまショー!」
海璃和が駆けてきた。
「帰ったら、私の部屋でね」
「…うん」
「何か知りマセンガ、行きまショー」
私たちは、食堂に向かった。
咲は私の袖を引きながらトボトボ歩いていた。
久しぶりのシオシオ咲ね。かわいい♡
食堂につくと、竜が席を取って待っていてくれた。
「遅いわよ、咲、仄葉」
「ごめ~ん」「にゅ。」
「あら、久しぶりのシオシオ咲ね、なによ「にゅ」って可愛すぎ」
「はっ」
咲がいつもの凛々しい顔に戻った。
「ちょっと、竜、言わないでよ!もうちょっと堪能したかったのに!!」
「あははっ、ごめんごめん。でも、そのままにしたら後で面倒よ。」
「まぁねぇ」
そう言いつつ、席についてランチタイム。
私のお昼は~、温玉のせまぐろたたき丼である。
私の大好物は海鮮系。特に甲殻類と貝類。
醤油をぶっかけて、温玉を割って、添えてあるネギと混ぜる。
これがおいしいんだよね。
「ほんと、仄葉、それ好きよね。もうちょっと栄養を取りなさいな」
そういう竜は、和食の健康に気を使った定食だ。
「うるさいなー。竜はもうちょっと脂質とったほうがいいんじゃない?
そんなお可愛いお胸じゃ将来結婚できないよ」
「フフッ」
ゾクッ
「はいー、すみませんでしたー。」
そんな漫才を竜としている私の隣で、咲はもくもくとトンカツカルボナーラ(大盛り)を貪っていた。
海璃和に至っては菓子パンと調理パン計5個である。
「あなた達も」
「「うるさいなー、ぺちゃパイ」」
おい、さすがにそれはやばいっっ
二人のストレートすぎる(海璃和に至っては普段の片言演技を忘れた)暴言に、竜は殺気を露わにする。
その殺気に海璃和は犬のような顔で許しを請っている。
対して咲はなぜか満ち満ちた顔で陽剣を召喚し、こう叫んでいた。
「竜、私のストレス発散に付き合いなさい」