35: 頂きに立つ者の芯とは
「神の正体、ですか?」
正体も何も神は神だろう。
時に優しく、時に厳しい、全知全能で生物とはかけ離れた存在。
そうではないのか!?
「そうだ。これは、このSワールドに限った話ではないのだが、どうやら神の事を勘違いしている存在が多すぎる。全知全能であるとか、世界の創生主であるとか、その他にも色々と言われるがどれも真実とは異なる。強いて言えば、“八百万の神々”という考え方が一番正解に近いが。
それで、我々の正体であるが、我々は生きた無生物だ。より正確に言えば意識を持っている無生物か。我々が自らを神と名乗っているのは、我々と交信することができる人類にもっともらしい理由を説明するのが面倒だからであり、我々の実態を鑑みると、我々は自身の事を世界の管理者と名乗る方が正しいと言える。
ただ、人類から見れば、その曖昧な概念である“神”と遜色ない存在ではある。何せ無生物だ。つまるところ、不死身だ。それだけをとっても十分に人間から畏怖を感じられる理由にはなるだろう。姿形をみても一般生物とはかけ離れていて、その上言葉を交わすことができる。畏怖を感じる存在を“神”と定義するならば、我々は確かに“神”であるのだろう。
しかし、数多の人類の考え方の中には全知全能であることが神の条件であるというものもある。そういう点でも我々は神ではない。
魔法使い諸君は少し心当たりがあって欲しいものだが、我々の名乗りを少しも疑問に思わないのであれば、それは少し嘆かわし事態である。例えば我の名乗りは『概念の変化を司る神 ヴァリコンセ=ハイエンリー』だ。
そう、我は概念そのものではなく、概念の変化を司る神であるのだ。なぜ、我々神がそのものを司る神ではなく変化を司る神と名乗っているかと言えば、そのものを弄ることが出来ないからだ。まあ、我が司っている概念に関してはそうでもないのだが、それでも出来ることは限られている。各管理者の出来ることは、無生物から出来ている体の持つ性質が定めるところによるというわけだ。出来るかできないかではなく、やれるかやれないかの指標で言えば、やることはできるという行動もないわけでは無い。
加えて、記憶の保持に関しても自らの領域以外の知識を溜め込むことが出来ない。これも体の性質が定めるところだが。
つまり、全知でも全能でもない。
ゆえに、その様な観点から言っても我々は神ではないのだ。
一方で、理不尽とも思われる絶対的な力をもつことが神の条件ならば、そのような存在はもっと生物に寄り添った場所に存在する。それは、意識のない無生物、つまり一般的な無生物やそれに準ずる事象、それの保持する性質や法則、言ってしまえば真の意味での魔法である。
あらゆる作用を受け付けないという意味で絶対的な存在であり、全ての、とまでは恐らく言えないがあらゆるモノの支配をしている存在と言えるだろう。
そうだな。
この例で伝わるかどうか怪しいが、一例を挙げよう。木を燃やして炭にするとしよう。
これは、“有機物は酸素がないと燃焼できない”“酸素はモノを透過できない”“水は熱を与えられると蒸発する”“気体は熱が加わると運動が激しくなり揮発する”といった様々な性質を利用して、木を蒸し焼きにすることで・水分を蒸発・ガス成分を揮発・有機物を熱分解/無定形炭素にすることにより、純粋な炭素のみの存在に近づけることで達成できる。
この場合、“木”は様々な要素から出来ているため変質・変形して“炭”になったが、原子レベルで見た場合、組成が変化しているだけで、それ自体は変化していない。
また、それぞれの性質を変化させることも出来ない。言ってみれば、“有機物の燃焼に関する神”や“水の蒸発に関する神”というわけだ。
全知全能の話の時に述べた我々が扱っているモノとはこのレベルの話で、そのものを変化させるというのは、『水を蒸発しないようにして欲しい』『陽子を電子に変えて欲しい』と言っているのと同じであり、出来ないのは自明である。
ここで、先ほどの海璃和の質問に戻ろう。
『神であるならば不可逆的な合体を可逆的に出来るのではないか?』
この質問には、皆が予想している答えしか返せない。
出来ない、が答えだ。
何か質問はあるか?」
…………
……
…
つまり、なんだ。
モノの性質が絶対だから、それを変化させることは出来ないってか?
たったそれだけのことのためにこれだけ長々と喋られたのか?
出来ないなら!
スパッと言えばいいじゃないか!!
「んん、皆なにか勘違いしている様な顔つきであるな。少し簡単にしよう。我々が取れる行動は制限があり、モノの性質に背くような行動などが出来ない、と言っているだけだ。ただ頼まれても出来ないと言っているのだ。“神頼み”。それでは出来ない、水の流れは外力がない限り流れる方向は変わらない、と言っているのだ。自ら行動せよ。」
…………
「それは…………、つまり魔法の行使をしろ、と仰っているのですか?」
「合っていると言えば合っているが……。我は、努力せよ、と言っているのだ。それが望んだ結果をもたらすかは分からないが、何かを得ることは出来るだろう。
どうだ?少しは前が見えてきたか?」
なるほど。
そういう事か。
神が人間に助力するには、人間からのアプローチがないと基本は何も出来ないという事か!
周りの皆はまだ暗い顔のままだ。
答えてみよう。
「分かりました、ディースクルド神。我々人間が何かしらのアクションを起こさないと神は手助け出来ないという解釈でいいのでしょうか。」
「うむ。ほぼ正解だ。」
部屋の空気が明るくなった気がする。
「皆の顔色も明るくなったところで、質問がなければ次のテーマに移ろうと思うが?」
…………
「ないな。よし。では次だ。次は“神に近づくことが出来た者”についてだ。ちなみに、このテーマが椋平の質問の答えに、そして、楓にも関係するものだ。」
「全く答えが想像できないのですが………」
「まあ、とりあえず話を聞くがよい。この話は短いからな。
それで、“神に近づくことが出来た者”についてだが、勿論神ではない。言うなればその道の究極の専門家であり、我々はこのような生物たちを“魔神”と呼んでいる。
生物の身でありながら、宿す能力が神にも等しい、つまり、他の生物とは隔絶した知識や技術・力、を持っているのだ。
そのような存在が稀に様々な世界に現れるのだが、このSワールドに魔神の影響のある事象が大きく2つあることを確認した。
それが前置きでも話した楓に関係する部分で、つまり、虫人と悪魔、この二つの生命体には魔神の影響があると思われる。
なぜ確定的ではない表現なのかといえば、その本体どちらもがこのSワールドに獲得されていないからだ。
逆に、なぜ魔神の影響があると分かったかというと、それは、特定の2世界を除いた他のあらゆる世界に於いて彼らと似たような存在を確認したことがないからだ。
どちらの生命体にも外部からの魔法の干渉によって、半ば強制的に進化されられた痕跡がついている。間違いなく、魔神の仕業であろう。
そして、椋平の質問に答えるわけだが、ワールドスイッチングを避ける方法があるわけではない。
魔神級の魔法を持ってすれば抵抗できる可能性があるというだけだ。
それこそ、椋平達の努力にかかっている。
魔神に関してはこれだけだが、何か質問はあるか?」
うん、随分と簡潔な内容だ。
これくらい噛み砕いて話してもらえれば理解もすんなりといくんだけどな。
そんな感想を抱いてる間に咲君が少し楽しそうな眼で颯爽と質問をする。
「はいはいはい!!もしかしてだけど、虫人と悪魔が魔神の影響を受けてるか調べた時、あたしが神の領域に飛んじゃった時言ってた“背景概念”とやらを診たの?」
背景概念?なんだそれは。
「おお、覚えていたのか!偉いではないか。うむうむ。
それで、答えだがほぼ正解だ。先ほども述べたが、彼らと似たような生命体が居なかったために、“背景概念”を調べることでその正体を見破ろうとしたわけだ。
逆に聞くが、咲はなぜそう考えたのだ?」
「あの時、あたしの詳しい情報を何も喋ってないのに、あたしの事を全て分かったみたいに喋ったから、その背景概念とやらは個人情報が詰まってるんじゃないかって思ったの。」
「なるほどな。そちらもほぼ正解である。」
流石だな。
いや、当たり前と言えば当たり前か。
A組だもんな。
「もし聞きたければ詳細を説明するが、またお主らの理解できない用語が多く出てくるぞ?聞くか?」
(いや!なぜそう分かっていて話を聞かなければならないんだ!)
皆そう思ったのか、
「「「「『「「「いえ、結構です。」」」』」」」」
見事に揃った。
「はっはっは!!見事なハモリだな!」
当たり前である。
「まあよい。それで、他に質問はあるか?」
『えっと、私達虫人は恐らくハイエンリー神の言う魔神、私達にとっての神様によって生まれているはずなので、このままでは虫人が全滅してしまう可能性があるのですが、そこらへんはどう思われますか?』
全滅の可能性か……
それは確かに心配だな。
「うーむ、そうであるな。これは確認だが、その神とあったことはあるのか?」
『もちろんありません。その存在も伝説として残っている程度なので。』
「では、大丈夫なのではないか?神が居なくても新しい虫人は生まれ続けたのであろう?」
『あ、確かにそうですね。ありがとうございます。』
「うむ。他は?」
そうだな。
現時点で良く分かっていない事は虫人・悪魔・異形についてだが、内2つが魔神の影響下であると分かっているのは大きい。
ハイエンリー神達に協力を願って知識をもっと分けてもらえれば現状把握が進むな。
異形についても聞いておきたい。
「では、私からも質問させていただきます。
このSワールドに、一つの目にそれぞれ異なる色に発色する3つの瞳孔がある眼を持ち、赤黒いもやを体に纏い、獲物を未解明の方法でミクロレベルの細かさにし体全体で取り込むという“捕食”をし、綿密な団体行動をするという不可解な生物群が存在しているのですが、そちらに関して何か分かっていることなどはないでしょうか?」
「ふむ。そのような存在が居るのか。我らでも調べてみよう。それについて我らが知ることはない。」
え、神の眼に留まってない!?
…………
まあ、いい。
調べてくれると言っているのだ。
待とう。
「あと、お願いがあるのですが、虫人と悪魔について知り得たことを私達にも詳しく教えていただきたいのですが。」
「そうだな。出来ればしてやりたいのだが、詳しくは話せん。神約に背く行為なのだ。ギリギリの情報を一つだけ伝えておこう。彼らも立派な人類であるという事だ。」
「!!そう、ですか。分かりました。ありがとうございます。」
「うむ。他になければ最後の話題に進みたいのだが、どうだ?」
……
「なさそうであるな。では、最後のテーマだ。“気と魔象の関係”。これについて話そう。」
原子云々の話をしましたが、私に知識があれば素粒子で例え話をしたかったですね……




