1: 朝焼けと墜ちる満月
まずは一話。
5/10 最近スマホで自分の読んでみたら、クソほど読みずらかったので、改行位置などの訂正と段落間を増やしました。一部表現、誤字も訂正しました。
8/25 サブタイトル付けました。
「ふぁ~、気持ちよかった~」
パイル地の柔らかな布地を肌に押し当てて体を拭き、温風の魔法で少し癖のある髪を乾かす。
6月になって少し肌寒くなってきたからか、脱衣所が少し寒い。
脇くらいまで伸びた少し緑がかった灰色の髪を二つ団子にして、バスタオルを体に巻き付けお風呂のドアを開ける。
「ほの~、出た~?」
「うん、出たよ~」
適当に返事をして、キッチンに行き牛乳を一杯グイっと飲む。
飲み終わったグラスをチャチャっと洗っておく。
他愛のない会話をしつつ私は部屋に戻ってベッドにダイブして、抱き枕を抱きしめた。
(明日はついに発表会だ…、早く寝よう。)
私が今回出る大会名は“魔法と技術の混合美術発表会”略してマジテクアート。
簡単に言えば、科学技術と魔法を組み合わせて綺麗なものを作ってねといった大会だ。
ほかにも混合武術、混合戦闘(シングル・ダブル・マルチ)があって、前回成績は武術3位、戦闘シングルTOP16、戦闘ダブル2位(咲と)、戦闘マルチは人数不足で出れたことはない。
早く寝ようと思いつつスマホを手に取りYouTuneで動画を漁る。
最近ハマっていたYouTunerの動画に飽きてきた。
「はぁ、今日の動画もゴミだったな。登録解除っと。」
窓の隙間から吹いてくる少し冷たい空気に身を震わせる。
ふと、窓を見上げると満月がほほ笑んでいた。
明日はうまくいく気がする。
軽く明日の発表会でやることを復習して、壁に掛けてある今までの賞状を眺めた。
特別、感慨を覚えたとかそんなわけではなく、なんとなく悲しい気分になって
「誰か私を幸せにしてくれないかな」
ぼそっとそんな言葉が口をつく。
特別劣悪な環境にいるわけでもないのに、何不自由なく生きているのに、贅沢だなと思いつつ、ミストライトに明かりをつけて暗がりと仄かな明かりのある空間にする。
「まあ、なるようにしかならないのが人生かな」
とか適当なことをつぶやいて目を瞑った。
〈ピピピピ、ピピピピ、ピピピッ〉
目覚まし時計を止めてベッドから起き上がる。
顔を洗って、リビングまで行くともうみんな起きていて、朝食をとっていた。
「ほの~、おそよ~」
「さき、おそよ~」
「おそよーデス!ホノ!」
「そんなこと言ってないで早くしないと発表会に遅れるわよ」
せやな、と相槌を打ち、シリアルにコーヒー牛乳をかけてかきこむ。
制服を着て、身だしなみを整えて、私たちは出発した。
会場に着くと、歓声やら罵声やらで周囲はにぎわっている。
もう発表が始まっているみたい。
咲と急いで受付に行くとお父さんがいる。
「今回も楽しみにしているからな。頑張れよ、わが愛しの娘」
「うん!!」
「このファザコン」ぷにっ
「なんか言った?」ぷにっ
「なぁ~んでもない!」
「じゃ、行きますか!」
受付の人に出場番号が書いてある札をもらって舞台袖のほうに走っていった。
袖からほかの人の発表を見る。
この発表会には予選がない。
応募者数は三桁に行かない。
一人6分の発表なので、午前と午後に分けて一日で終わる。
都内でこれだから、地方のほうでは複数県での開催をしているらしい。
武術のほうで発表しろよと言わんばかりの迫力と威力だけに任せた発表や、もうあるだろそれ、と言いたくなるもの、地味すぎて何もコメントできないようなものなどいろいろあった。
『若城大学付属稲崎台高等学校2年、紫岸咲!お願いします!』
先に、咲の番が来た。
「行ってくるね!」
「頑張って!」
咲はどんなの考えてたのかな。楽しみ。咲の右手にあるのは、、いや、右の方向にあるのはヘリコプター!?!?
左手にあるのは咲愛用の陽剣。咲は唱える。
「気候神セクシウルに告げる。曇りなき碧空に漂う大いなる力よ、この翅に我が愛を受け止めつつ宿り、その温厚なる光で照らせ」
咲はその剣を空に突き出し、魔術を発動させる。
そのまま、剣をヘリコプターに突き刺した。
なぜか疲労感漂うスタッフが隣にいると思ったら、そのヘリコプターに乗り、操縦を始めた。
咲の肩の上のオレンジの子龍が光ると、プロペラは向日葵のような形になり、本体からは優しい光があふれた。
出力が増していくと、プロペラはしっかりと空気を押し、ヘリは飛んだ。
会場の歓声は、穏やかな感動に満ちていた。
さすが、財力にものを言わせて迫力を底上げしたわね。それでいて綺麗。
しかも機械はしっかり動いている。これは点数高そうだな。
演出も迫力があったし。これは負けたかもな。
ちなみに、点数は美術点・演出点・機械点・魔術技術点で評価される。
その後何人かが発表をして。
『若城大学付属稲崎台高等学校2年、宮椋仄葉!お願いします!』
「はい!! じゃあいってくるね。」
「私に負けるんじゃないわよ!」
「えぇ?何その応援。でも。うん!頑張る!」
ついに私の出番が来た。
微かなざわめきを背後に私は壇上に上る。
今回の発表はそこそこの自信がある。
イメージのベースは星。
それも新月の日の深夜に浮かぶ満点の星。
右手に持ちたるは加湿器。
左手に持ちたるは、愛用の呪杖。
私は唱える。
「鍛冶神モクターンに告げる。曇りなき深淵にあり、そこに煌めく微光よ、この器に我が勅命を受けて宿りその命を果たせ」
私の周りに魔素が集まっているのを感じる。
私の肩回りでくねくねしている蛇が震え、ドスい青色の霧を吐くと呪図盤が現れた。
落ち着きながら、練習してきたとおりに呪図を描く。
それを加湿器のアロマを入れる部分に丁寧に刷り込ませると、それは水蒸気の代わりに闇のような霧とその中に浮かぶ光の玉を吹き出す“ミストライト”になった。
観客のざわめきが増し耳に届く。でも、焦らない。
ここからっ!!
私はさらに唱える。
「そして、我が求める場にその運命を果たし、忠誠を示せ!」
すると、ミストライトは私のイメージした色や形に添って、会場全体に暗闇を広げ、そして仄かで鮮やかな光をもたらした。
ざわめきは感動をはらみ大きくなった。
(やった!手ごたえばっちり!!)
落ち着いて礼をし、高鳴る胸を抑え、壇から降りた。
「ヤッパリ、ホノはすごいデス!ミリア感動しまシタ!」
「まず発想力が違うわね」
「みんなほのに優しすぎ!あれくらいあたしにだってできるもん!」
「えぇ、じゃあ今大会2位の咲はあんなの思いつく?」
「つかないけどっ!!」
「ほらぁ」
「むぅ~~!!」
私はみんなの痴話を横目に、今回の成績ににやにやしていた。
なんたってこの東京大会の優勝ですから!
さすがの私でもこれはにやにやしてしまう。
いやぁ、練習といっても大したことはしてないんだけどね。
私の思惑通り、小さい機械に大きな魔術を組み込めたことが高評価のポイントだった。
やっぱりなるようになるもんだね。
お兄ちゃんにも後でLAINEして自慢しよう。
「ねぇ、ほの~!!みんながひどいんだけど~!!」
「そうだねー(棒)」
「ほの~」
「そっかー(棒)」
「仄葉?」
「うんうん(棒)」
「「…」」
「仄葉」
「たしかにー(棒)」
「ねぇ仄葉!」
「ウケルー(棒)」
「ほの!」
「あははー(棒)」
「このっ!灰色!」
その呼び方に私の思考は現実に戻ってきた。
そして反射で咲を左手で平手打ちし、右手で襟元を掴み、
「ッ、その呼び方やめてっていたよねっ。ふざけないで!」
「…」
「あっ、、、ごめん、、、」
「ごめん。私も悪かった。。」
「…」
私たちは家路についた。
よくわからないことが多いと思いますが、キャラと環境は次話で。