26: 虚空をかき混ぜる大槌
9/12 誤字を訂正しました。
校内放送で、異形の進行が止まりどこかにいなくなったことが放送されて、私たちはそれぞれに教室へ帰っていく。
「結局戦闘になったのは数部隊だってねぇ~。なんでだろう?まあ、戦いたくなかったからいいけど。」
「あれでしょ、例の高2の…、魔法少女ミリアだっけ?その子が頑張ってくれたんじゃない?」
「あ~その可能性あるねぇ。」
同じ部隊のメンバーの痴話を耳に入れつつ校舎へ足を進める。
そう、今回の初めての異形襲撃は多くの生徒にとって良く分からないままに終わってしまった。
嬉しいかと言われればうれしい。
未知の部分が多い生物と戦うのは純粋に恐怖だ。
私たちの部隊も例にこぼれず、全部隊の中でも前線サイドにも関わらず会敵しなかった。
メンバーの言うように、海璃和が頑張ってくれたのかもしれない。
それだけならいいんだけど、それだけじゃない気がする。
海璃和は大丈夫かな。
咲達は戦ったのかな。
仄葉はどこに消えちゃったのかな。
今、この瞬間には関係のない心配も合わさって、色々と嫌な感情が頭の中に渦巻く。
この部隊に知り合いは居ない。
はあ、早く会いたい……。
と思ったところで
「あー!!竜!!どうだった!?戦った??」
いつも元気な声が近づいてきて、心が穏やかになる。
そして、周りにバレないように小さく安堵の息を漏らして質問に答える。
「ううん。特に何もなかったわよ?そういう咲はどうだったの?」
「うーん、私たちの所にも来なかったよ。まあ、後方部隊だし竜たちの所にも来なかったなら姿を拝めないのも当然だよねぇ。」
「別に拝めなくていいわ。死んだら嫌だもの。」
「まあ、それもそうだね。後はミリアが帰ってくれば安心しきれるんだけどね~。」
「そうね。ひとまず教室に戻りましょ!」
教室に戻って30分経ったが海璃和が帰ってこない。
流石にクラスのみんなもざわつくまではいかないけどそわそわしている。
咲もチラチラ私の方を見ている。
それを咎める先生は、今教室にはいない。
なぜなら、今日の午前の授業は全て自習になったから。
先生たちも緊急の職員会議をしているらしい。
かく言う私も、とても心配で心配で心臓が殴られているような気分だ。
流石に耐えきれない。
私は咲の机に駆け寄って咲に
「咲!海璃和探しに行こう!!」
という。
「…………!!!うん!!!」
私がこんなことを言いに来るとは思ってなかったのか、少し驚いて、戸惑ってと間をあけての同意を表する。
その咲の大きく明るい返事を皮切りに
「じゃあ私も手伝う!」「おっ、俺も俺も!」「流石に心配だ早く行こう」
「僕も…行く…」「アタイも行くよ!」
とクラス中から協力の申し出が上がって、若城大学付属稲崎台高等学校2年A組全員での捜索が決定し、教室を飛び出した。
海璃和は戦闘配置に就いてから間もなく大きく前進していた、とたまたま海璃和と配置の近い部隊だったクラスメイトが情報提供をしてくれたので、私たち稲高2-Aの面々は校舎の北側の住宅街と近くの森の中を探索することにした。
襲撃終了の放送の内容が「どこかにいなくなった」という明確に異形が撤退したかが分からないような表現だったことも踏まえ、まだ異形が潜んでいる可能性を考慮して3人1組、都合13組で行動することにした。
いつでも連絡が入ってもいいようにスマホを握りしめつつ、目を凝らして必死にしかし冷静に探していく。
私は、咲と芳田憂子と行動している。
芳田さんは魔法も異能も使えない少し根暗な子だけど、友達がいない子ではない。
A組に居ることから努力家であることは間違いないのだけど、根暗ながら強情で、プライドが高い方だと思っていたから勝手に行動しないか心配だった。
そんな心配は無用だったのか、今のところは大人しく探索してくれている。
正直、海璃和と話してるところを見たことはないから、教室に残って不貞腐れていても不思議ではなかったんだけど。
どうして協力してくれているのか分からない。
そんな芳田さんを含む私たちは住宅街方面の探索をしている。
あの黒い雪は異形解散の報があった後、数分後にはやんでいたので今は視界は良好である。
教室を飛び出してから20分、私たちのシェアハウスが所属している地区、窪の足の一画で少しの焦げ臭さと少しの戦闘痕を見つける。
「戦闘の痕が少しあるわね。」
「うん…、焦げ臭さもある……。あ、あの木…、かな?」
二人とも気付いたようで一言コメントを言っている。
芳田さんの声は怖いのか、少し震えている。たしか、芳田さんは作戦本部のメンバーだったはずなので、実際怖いのだろう。
「直接戦闘を見たわけじゃないからはっきりしたことは言えないけど、大した戦闘は起きてなさそうね。」
私も戦闘の痕を見ながらそうコメントする。
「うーん、どうなのかねぇ。えっと、憂子ちゃんはどう思う?」
「えっ、えっと、私も、椿嶋さん、と、同じ意見、かな。」
「そっかぁ。でも、大小は関係なく戦闘があったのは一目瞭然なわけだし、窪の足地区担当の他の組にもこのあたりの捜索を手伝ってもらおう?」
「うん、それ、いいと、思う。」
「私もそれでいいわ。まだLAINEにも有力な情報は一つくらいしかないし、そっちはそっちで複数組の人海捜索してるみたいだし、とにかく早く私たちも捜索しましょう!」
「そうね!!」「うん…」
そうして、窪の足地区の人海捜索を実践したのだが、特に有力な手掛かりは見つからなかった。
一応、私たちのシェアハウスにも寄ってみたのだが、流石に爛梨さんもフィーロアさんも避難しているのか、家には居なかった。
ただ、何やらシェアハウスの周りは他よりも戦闘の痕がはっきりしていたので誰かがこのあたりで少し激しく戦闘をしたことは明らかだった。
少なくとも、海璃和の戦闘跡ではなさそうではあった。
それ以上の情報を得ることはできず、参っていたところに校舎に近い方で捜索していた組から圧倒的に異質な戦闘跡があるとLAINEに情報が入ったため、全員そこに集まることになった。
そして、目的地に近づいたところで、突然咲と芳田さんが倒れた。
「えっ、どうしたの!??」
慌てて駆け寄って脈を計ってみる。
「死んではないけど何!?」
取り敢えず何かヤバいものが目的地にあるのは分かった。
私は走った。
すぐに目的地につけた。
そして、二人が倒れた理由も分かった。
私はここに辿り着けた私と共通の特徴を持つ皆に聞く。
「…魔法使いの子は皆倒れたの?」
この問いに誰かが答える。
「…うん。」
もう一人答える。
「多分、異能使いの一部の子も」
さらにもう一人答える。
「気が弱い子もそう。」
そして、ここに辿り着けた私を含む8人はこの現象の元凶であろう塊を見つめる。
言葉をのむ皆の代わりに私は口を開く。
「それはそうよね。多分でしかないけど今私たちが見ているのはマナの塊よ。私たちにマナの感覚器官はない。それなのに見えてしまってる。それほどのマナの圧を魔法使いの皆は感じられてしまうのね。」
私の言葉を聞いて、皆何とも言えぬ表情になる。
誰かが言う。
「………、竜ちゃん、ちょっと見せなきゃいけない物がある。こっち来て。」
私は急に呼ばれて、そして、何か覚悟しなければいけない物を見ることになることを予感する。
覚悟を決めて、
「分かった。連れてって。」
導いてくれるクラスメイトの足取りも軽くない。
私も必死に恐怖から逃げないように体を強張らせつつ一歩一歩、歩みを進める。
そして、それは目の前に現れる。
海璃和の戦闘衣装が地面にズタボロにされて転がっていた。
海璃和の体はない。
そんな筈はないと、体が、心が、魂が、叫ぶ。
「無理しないでって、言ったじゃない!
なんでっ、なんでっ!
あんまりじゃない!?
海璃和が何したっていうの!?
皆を守っただけじゃない!!!
あ“あ”っ!」
「竜ちゃん!!落ち着いて!まだ死んじゃったって決めつけちゃダメっ!」
「!、、ぉっ、ごぉっ、、、、、ごめん」
私をなだめつつ皆は先生に連絡してここに来てもらった。倒れた皆を連れ帰るために。
先生たちがここに着いてから、残った私たち8人はまず謝って事の経緯を話した。
先生たちは許してくれた。
誉めてもくれた。よく頑張ったと。
そうして、私たちは教室へ帰った。
海璃和の戦闘服を抱えて帰る私の目からはまだ血の滲んだ涙が溢れていた。