16: 混沌はいつもあなたの傍に
ギリギリセーフ!
一応、約束は守れた、、、、
8/25 サブタイトル付けました。
俺の体感だと、一週間前。実時間にして約1時間前。俺は一度死んだ。原因は依然としてわかっていないが。
その時に隣にいるディースクルド・ファントゥーナ神とその他4神のもとに導かれた俺は、流れのままに遡行召喚をさせてもらい、1週間前に生を戻してもらった。
この転移してしまった世界を元に戻し、また、元に戻った後の世界を正しく導くために。
俺は、この死と研究室メンバーの死を運命レベルで超越するために一週間とある準備をしていた。
それは、ある複雑な魔法陣なんだが、それはしっかりと本来死ぬはずのタイミングまでに完成し、死ぬはずの時刻になる前に発動し、死を運命的に乗り越えた。
簡単に言えば、研究室ごと別座標に移しただけなのだが。
それで乗り越えることが出来たのは良かったのだが、その後の事を考えていなく、しばらく、研究棟を散歩しながら今後の予定を考えていた。
その時、居ないはずの仄葉の呼ぶ声がして、聞こえた方に急いだ。
その方向は、研究室を移動させた跡の方向だった。
向かっていくと、遠目から仄葉がいる事が確認出来た。
嬉しくて、大声で声を掛けながら近づいていったのだが、近寄るにつれて仄葉の様子がおかしいことに気付いた。
気づいた時には、既に色々と遅かった。
何しろ仄葉が居るのは研究室が消えた跡の前で、それを見た仄葉が“誰かに消された”というようなことを考えたのだろう。なにも知らない仄葉からすれば絶望以外の何でもない。呆然と言うか何というか意識が飛んでしまっているかのような状態だった。
触れても何も反応しない。
揺らしても、声を強く語りかけても、ダメだった。
何もかも、タイミングが悪かった。
そして、急にそれは起こった。
仄葉を中心に強大な魔法的爆発が起きて、俺は軽く200mは吹き飛ばされ、周囲は更地となった。
仄葉自身は、正に悪魔の容姿をしていて、そこから戦闘になってしまった。
私は、咄嗟に『加護に祝福を』と唱えて自分の左目を犠牲にディースクルド神らに協力を求め、その御力と伴に精一杯抗戦した。その際に、顕現なさったのがディースクルド神だ。
本来、現世に落ちて来るときはデフォルメされたような姿になるらしいのだが、何やら外部的干渉によってそうならなかったらしく、今は大蛇としていらっしゃる。
そして、ディースクルド神らと戦闘している最中に急に在らぬ方向を見つめて飛んでいってしまった。
その後は君たちの知るとおりだ。
そして、戦闘になる前までの話と飛んでいった後の話は海璃和君から聞いたから現状の把握は私の方は出来ている。
「私から伝えたい事は以上だ。…………」
「…つまり、仄葉がああいう風になってしまったのは博士のせいという認識で問題ないでしょうか。」
とても失望したという顔で竜君が問い掛けてくる。
「ちょっと!竜っ!博士だって辛いはずだよ!それくらい分かるでしょ?」
咲君が俺を擁護してくれているが、しかし、やったことを考えれば間接的とはいえ事実だ。
「そうだ。…本当に申し訳ない。」
「いえ。。私こそ申し訳ございません。……私もまだまだ幼稚ですね。……」
反省してくれるのは嬉しいのだが、余計に話題が進みにくくなることを言わないでくれるかな、とも思ってしまう。
「……それで、ひとまずは、皆座標移動されている研究室に来て欲しいのだが大丈夫か?」
「待って下さい!その前に、シェアハウスの様子を見に行きたいんですけど!」
と咲君が聞いてくる。
確かに気になるのは分かる。でも、
「咲、落ち着いて!私たち見てきたんだけど、大丈夫だったから。写真撮ってきたから、研究室で見せてあげる。だからひとまず、研究室にお邪魔しよう?」
と海璃和君が言おうとしていたことを言ってくれる。
「、、海璃和がそういうなら、、、、分かった。」
見渡し林地から歩いて20分程度の所にある牛押丘北公園に、グリフォンに乗せてもらったので15秒で着く。
準備期間で転移先に選定したこの公園は、この地区周辺の中でもそこそこ上質な魔素発生場所で、元の研究室位置とも1kmない。そう言った事情からここに転移させて貰った。
そもそも我らの大学がこの地区に建てられたのも、昔から魔法に関係することを研究する研究者が多かった若城大学の前身の大学(名前は忘れた)が真剣に選定した結果、日本でも有数の魔素発生場所と分かったからここに移転したと聞く。だから、いい魔素発生場所が多いのは当たり前ではあるのだが、それにしても凄い量の魔素で溢れているので、状況や場合にもよるが魔素の存在すら認識できないはずの人間でさえ、魔素の圧を感じるという。
「ここが宮椋研究室臨時拠点だ。」
「森の中にあるからRPGチックな雰囲気を感じる!」
「確かに、自然の中に人工物がちょこんとあると不思議な感じだね!しかも、私はマスコット付きの魔法少女で、チロちゅんが大蛇状態だから、パーティーとしては意味不明だけどゲームの中みたいだね!!」
咲君と海璃和君が少し興奮気味にはしゃいでいる。
「…咲も海璃和も恥ずかしくないの?私たち、高校生だよ?」
「まあ、いいじゃないか竜君。私としては、3人とも元気でいてくれる事がうれしいよ。それじゃ、早速入ってくれ。少し驚くこともあるだろうけど、あまり騒がないでくれよ。」
「「「はい!」」」
「それにしても何だろうね、わざわざ忠告するって。ちょっと緊張してきた。」
…楽しみにしてくれるのはありがたいが、皆が想像しているのとは違う。正直、嫌われないか心配だ。
「椋平よ、我はとりあえず外にいるぞ。ただでさえ情報量が多いのだ。あと、当分は見張りをしておる。しっかり話すのじゃぞ。」
『じゃあ、わたしもとりあえず外にいるよ!』
ディースクルド神とシュニーさんからそんな急な申し出が来る。
まあ、確かに外にいてくれた方が、脳みそは追いつくかな。
「分かりました。お願いしますね。」
面持ちは普通に、内心は少しビクビクしながら、タッチパネルに研究室のメンバーカードをかざして玄関口を開ける。
「「「え…………」」」
「なんでパパとママがここにいるのっ!?!?」「なぜここに父上と母上が!?!?」「うっ、うぅっ、、お母さんっ、お父さんっ、会いたかったよ~っ!!!!」
咲君からは感嘆と疑問、竜君からは驚嘆と恐怖、海璃和君からは感動といったような反応か。竜君の恐怖というのは少し、分からなくもないが。
しかし、それよりも、
「落ち着いてくれ、3人共。……3つ、謝らせて欲しいことがある。私の身勝手のせいで、皆の大事な家族を失うかもしれなかった。本当に、申し訳ない!!」
私は、子供たちの方に向けて土下座をしながら、1つ目の謝罪を告げる。
「え…と…、それ…は、……どういうこと…ですか?」
咲君が、本当になぜ謝られているか分からないという風に聞いてくる。
「……結果から言えば、私が死んだあと、運よくディースクルド神たちに導かれ、過去に生が戻ったことで、研究室メンバー、もとい君たちの家族が死の運命から逃れられたが、そうでなかったら、私と一緒に死んでいたからだ。」
「「っ!!!」」
「でも、それは結果から言って、博士が生を戻されて危機を回避できて私たちと無事会えたから問題ないと思います。謝ることではないかと。」
竜君が、冷静、いや、冷徹な声で少し焦りのうかがえる調子でそう述べてくれる。
「そうか。許してくれるのk」
「それよりも早く残りの謝罪を言って下さいっ!私はっ!クソおやじに会うためでもなく、博士の謝罪を聞くためでもなく、仄葉を助けるためにここに来たんです!!」
ビリィッ
「「「「「「「っ!!!」」」」」」」
「おぉ、よく言うじゃないか竜っ!」
竜君の父、椿嶋炎獅の強烈な怒気に気圧され、砲声のような声に俺共々委縮する。
竜君も、まるで目の前に肉食動物がいるのではないか、というように怯えている。
「クソおやじだぁ!?いっちょ前になったなぁおい!!!」
炎獅さんが竜君の方に歩き出す。
ヤバいって!この流れは、ビンタとかする奴だろ!!誰か止めろ!紀子さん、は落ち着いて見てるし!
無理だよな、、怖くて体が動かねぇ!
「でも、良かった、しっかり言いたいことを言えるようになったんだな。成長したな、竜。」
炎獅さんの怒気は一瞬で溶け穏やかな声でそう言った後、すっかりへたり込んでしまった竜君の体に手を廻し、抱きしめた。
「ふぇ、、、、、、?」
竜君も思っていた反応とは違ったのか、中途半端で不思議そうな顔をしている。
「すまんな、博士。謝罪を続けてくれていいぞ。」
「あっ、はい。」
よかった、この空気のままいつまでも喋りだせないところだった。
「ええと、海璃和君、咲君、それと竜君、二つ目の謝罪を聞いてほしい。実は、皆がシェアハウスで暮らすことになったのは私が皆を実験の対象として引き入れたからだ。」
「「「!!!!!!」」」
「まあ、実験と言っても何のことか分からないとは思う。シェアハウス生活が始まってから大体4年経ったわけだ。思い当たる節はないはずだが、内容としては君たちの感情の変化とストレス負荷、また、それに比例した魔法現象や異能性魔法の発現に関する情報を観察させてもらっていた。とにかく、そう言ったことを君たち自身の了承を得ずに行っていた。
そして、最後だが、改めて謝罪したい。君たちにとっても大事な存在と思ってくれる様になった仄葉があんなことになってしまった事だ。」
ここまで、言い切って、土下座をさらに深くして
「この3点に関して謝罪したい。本当に、本当に申し訳ない!どうか許して欲しい!!」
……………………
…………
………
「ちょっと、返事に困ります。少し、その謝罪に対する返事を考える時間が欲しいのですが。」
静寂を破ったのは今まで聞いたことないくらい低い声の咲君の声だった。