10: 回転扉は宇宙もまわす
5/10色々訂正しました。
8/25 サブタイトル付けました。
部屋に戻った私はひとまずベッドに飛び込んだ。
いやー、それにしてもやっちまったな。
うん。
なぜ、一緒に話してしまったんだ。
「お疲れなようじゃな。お主が話している間に、他の者たちの運命線の状態を見ていたのだがな、お主らは少々、いや、大分異常じゃ。これは、近いうちに何かとても大変なことが起こるぞ!」
何も聞いてないのに、勝手に喋りだして興奮しているチロちゅんをわき目に、私は考え事を始める。
まずは、新生チロちゅんを家の皆にはお披露目出来た。
次は誰に見せるべきか。
お父さんだろう。
その次は、学校の皆。
その後に知識を広めて貰うのはお父さんにやって貰おう。
海璃和の事はどうしよう。
とりあえず、今すぐにでも部屋に行ってもう一回謝りに行こう。
竜と咲に具体的な話をするのはその後にして。
よしっ、決めたからにはさっさと行こう!
そう思ってベッドから降りて、扉を開けて立っている涙でぐしょぐしょな海璃和に気付いた。
「どっ、どうしたのっ?!」
「仄葉っ、助けてっ、咲がっ!!」
咲が?!
「咲がどうしたのっ?!」
「早く来て!!」
何やらいやな予感がする!
なにやら、焦げ臭い匂いのする階段を駆け下りて行く。
「もう、手遅れだったか」
聞き捨てならないチロちゅんの発言を聞いて前をむき直すとそこには、全長3m、全高2mくらいの紫色のオーラの様なモノが漂っている戦車がいた。
「えっ、、戦車。」
しかも、暴れ散らかしていて、家の一階部分が半壊していた。
一階の中央に戦車が居て、大黒柱が壊れていた。
二階部分が落ちてこないのが不思議なくらいの状態だった。
なぜ、気付かなかった!
こんなになるなら爆音とか聞こえるでしょ!!
「ホノっ、こっちデス!」
私の混乱をよそに海璃和が私の手を引く。
連れて行かれた先に、腕があらぬ方向に曲がって、血反吐でびちゃびちゃの咲が倒れていた。
「咲っ、咲っ、大丈夫?!?!」
「うっ、うん、だいじょぶ。それよりがはぁっ、早く、あの戦車を止めて!」
「いやっ、無理だよ!やるなら私だけじゃ無理!とりあえず、治療するから待って」
「……分かった。」
私は、S級回復魔法を咲にしっかり時間をかけて行った。
「うん、もう大丈夫!!流石、ほのだね!」
「よかったぁっ、、、グジュッ」
無事に治療できたことに安心して、海璃和がへなへなと座り込みながら鼻水を垂らす。
私もとてもほっとしながら、改めて戦車の方に向き直る。
とそこで、竜がどうなっているか気になる。
「ねぇ、竜はどこにいるの?!」
「竜は今戦車の気を引いているデス」
戦車の気を引くって、なんか言葉面だけだと意味が不明だけど、目の前の状況を見ればわかる。
戦車の砲身が向いている方向を見ると、竜が戦っているのが見えた。
竜はもう外に出ていた。
でも何か外の様子がおかしい。
何にしても、この崩れかけの家の中にいるよりはましだ。
咲も立って体が動くことを確認してほっとしている。
「咲、海璃和、とりあえず外にでよう!ここじゃ危ない!」
「「うん!」」
近くの穴から炎の隙間を縫って外に出た。
出たはいいんだけど、、
「「「なに、が、起きてるの」」」
外の世界は私たちの知る様子ではない。
建築物こそ、私たちの知る稲崎台であったが、空は暗い緑色に覆われ、草木は紫と黒で色づき、ファンタジー小説でいそうな悪魔のような、何か見知らぬ生物が蔓延っていた。
「仄葉!ちょっと、ボーっとしてないで助けて!」
そんな、竜の叫び声で我に返る。
「ごっ、ごめん!行くよ、咲!」
「うっ、うん!」
咲の返事を貰って、私は咲に"筋力増強"と"空気抵抗無視"をかける。
「咲っ、お願い!まず、竜を回収して3人で状況把握に努めるから時間稼ぎお願い!!」
「うんっ、分かった!いくよっ!」
そういうと咲は物凄いスピードで戦車に迫る。
陽剣を召喚して、「ドラゴンファイヤー!!」と叫びながら、戦車のキャタピラ部分に攻撃を始める。
戦車はグラつき、慌てふためいているようにも見える挙動をとっている。
よし、竜を助けに行かなきゃ。
「ミリア、マジカルスクーターお願い!」
「分かった!…出て来て!マジカルスクーター!」
いつもの配置に着くと、竜の方向にスクーターを吹っ飛ばす。
「竜!海璃和の後ろに乗って!!」
「ありがとう!死ぬところだったわ!っていうかなにそれ!凄い…けど、そんなこと言ってる場合じゃないわね!」
「説明は後で!取り敢えず、おとりは咲に任せて状況を整理しよう!」
まずは、この外が変わっちゃったことをチロちゅんに聞こう。
何か分かりそうだし。
「申し訳ないが、どうしてこうなったかは分からん。結果だけ言えば、おそらく惑星ごと異世界に転移したということだろう」
また知らない言葉来た!召喚でも転生でもない!
安全な場所を見つけたらそこで聞こう!
じゃあ、戦車は?
「アノ…、たぶんですケド、私の能力の暴走だと思いマス…」
えっ?
海璃和の能力の暴走?
でも、海璃和の能力の暴走は、こんなんじゃなかったはず…
「どうしてそう思うの?」
「えっと、さっきホノの首、しめちゃった後、部屋で、物に、八つ当たりしてたら私の中の、モヤモヤが消えるのと一緒に、あの戦車が現れたからデス。」
恥ずかしそうに、そして、悲しそうにそんなことを言う海璃和。
今の話を聞く限り、オドが突然急回復したということだ。
そんな現象は聞いたことな…
「私のと一緒?」
でも異能の場合、出力される結果は同系統に落ち着くはず。
海璃和の場合、物が溢れるとかそんな感じのはず!
生き物みたいに動くことはない!
だとすると、異世界に転移したことも一つの原因?
「ミリア、戦車ってどうやって出てきた?」
「えっ、えっとまるで物が置き換わるかのように、部屋の壁と多分洗面所とキッチンがなくなって、そこに戦車が現れました。」
そこが素材になったの?
異世界に来たことで、海璃和の能力の法則が変わって、、いや、マジカルスクーターは普通に出てきた。
あと、戦車からは紫色のオーラが出てた。
あれは海璃和のストレスを表しているの?
そういえば咲は大丈夫?!
そう思って咲の方を見ようとした瞬間、強い衝撃が私たちを襲った。
「「「うわぁっ!」」」
%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%
「博士!大変です!とても強い次元波を観測しました!」
「詳細を報告しろ!」
「はい!観測地点は、、?!?!ちっ、地球の公転軌道上です!次元波の種類は、未知です!あと数秒後に地球が発生源に触れます!」
「分かった!全員!衝撃に備えよ!」
…………
………
……
……
「どうなった!対外環境観測員!」
「はい!…?えっと、発生源を通り過ぎました!」
「こちらシステム観測員です!システムに異常なし!」
『こちら!周辺観測員!大学周辺に未知の生物を確認!』
「詳細報告!!」
『はい!推定全長4m、外形は想像上の生物、ガーゴイルがその見た目にあっているかと!特別不可解な行動はしておらず飛んでいるだけのように思われます!』
「こちら地域観測員です!稲崎台、窪の足地区方面を中心とした強力な魔力波を観測!」
「窪の足だと!!何があった!仄葉たちは無事か?!」
「今、偵察ドローンを派遣していますが、おそらく先ほど報告のあったガーゴイルらしき生物に破壊されているのか、一切情報がありません!!」
「こっ、こちらシェアハウス監視員!突然、監視カメラを含めた防犯装置全てが故障!」
「なんだと!仄葉っ、生きててくれよ!」
「博士!どちらに行かれるのですか?!周辺は危険です!」
「いや、行く!おいっ、こらっ、離せ!」
『伏せろ!何かが落ちて』
ブチッ。。。
dG aaaaaaaaaa n
%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%
ドサッ
「いってーっ。。。竜、ミリア、大丈夫?!」
「ええ、大丈夫よ」「大丈夫デス!」
今の衝撃は何?!咲は大丈夫なの?!
…
大丈夫そう。。
何とか戦えてる!
戦車もさっきの衝撃を受けたからなのか大分傷ついてる!
これなら皆でやったほうが早そう!
「二人とも!咲の援護に行くよ!」
そう言って、マジカルスクーターを飛ばす。
竜は大丈夫として、海璃和はどうやって援護してもらおうかな。
そんなことを考えている暇もなく、咲の元にたどり着く。
「咲!援護するよ!竜!取り敢えず逆サイドからお願い!」
「分かってるわよ!」
そう言って飛び出していく竜。
よし、取り敢えず時間稼ぎはできる。
さて、海璃和には何してもらおうか。
「ホノ!いい案があります!ちょっと待っててください!……、あの戦車の砲身と発射装置が欲しい!」
ドンッ
「さあ、ホノ!これを使ってアイツをぶちのめしましょう!」
えっ、あっ、おう。
「ホノ、何か入れて!」
突然の案に頭が追い付いてない。
何かって言われても
「あっ、いいこと思いついた!……、この前ホノが使ってた武器が欲しい!」
ジャキンッ
何か、とても物騒な槍みたいな武器が出てきた。
私こんな武器使ったことないんだけど
「これを入れて、ぽちっとな」
ドバシュッ
その槍みたいな武器は戦車の砲身の根本を目がけて飛んで行った。
槍は搭乗席にぶっ刺さって、そのまま砲身の可動部まで突き抜けた。
いや、槍硬すぎだろ。
砲身が動かなくなった戦車は攻撃手段が大幅に制限され、素早く動く咲の強力な剣技“ドラゴンバイト”によって沈黙した。
「ナイス!ミリア、助かったわ。」
「よかったデス!咲!」
海璃和と咲が抱き合っている。
よかった。
これでひとまず安心。
周りの様子も確認したいし、見張らせる場所にいこう。
「皆!周りの様子を確認したいから、“みわたし林地”に行くよ!」
4人でマジカルスクーターに何とか乗りつつ、ここら辺で一番標高の高い公園に来た。
見渡す限りの暗い緑の空はそれだけで街の様子を見渡すことの障害になっている。
何とか目を凝らしつつ、周りの様子を探る。
「うーん、色が違う以外に特別変わった様子はないね。」
「そうね、特別変わった様子は、、んー、なんか大学の研究室棟の方なんか違くない?」
「そういえばチロちゅんはどこ行ったデスカ」
「えっ」
あ、本当だ、いつの間にか居なくなってる。
「でも大丈夫だよ、自称神だよ。そもそも、ただの使い魔だし、そんなに心配はいらないって!助けてほしい時にまた呼び出せばいいだけじゃない。」
「それもそうデスネ!」
「で、咲、研究室棟の方?」
海璃和のせいで、咲が言ったことがかき消されそうだったので、聞き直す。
「ほら見て!なんか奥の方、群青色のなにかが揺らめいてない?」
うーん、周りが暗い緑色のせいで、よくわからないけど、なんかそんな気がする。
近づきたいけど、ここで分かることが他にもある気がするからもうちょっと目を凝らそう。
「ほかに何か気づいたことある?」
「うーん、やっぱり自然の色がめちゃくちゃすぎて、何も頭に入ってこないわ」
竜のそのコメントに思わずうなずく。
「じゃあ、研究室棟の方に行って、群青色の何かを確かめに行こう」
マジカルスクーターで1分。
研究室棟に着いた。
こっちも色以外に特別変わった様子はない。
少し暑いくらい。
どうせ研究室棟の方まで来たからお父さんの研究室に行ってみよう。
普段は来るなって言われているけど、こんな異常事態だし許してくれるよね。
「ねぇ、皆、取り敢えずお父さんの所行こう!お父さんならこの状況について何か分かるかもしれないから!」
「そうね、それはいい案だわ。行きましょう」
竜が賛成の意を表し、咲と海璃和もうなずいている。
「よし!じゃあ行こう!」
若城大学は広い。
高校が隣接していることもあるけど、端から端まで行くのに20分はかかる。
おまけに、稲崎台は高低差が激しく、大学の最寄り駅の稲崎台から、私たちのシェアハウスまで、距離は1kmもないのに、標高差は大体40m!
高校棟の方は標高差がないけど、大学側は坂ばっかり!
もちろん建物で敷き詰められているから、マジカルスクーターで駆け回ることもできず、徒歩で研究室エリアを歩く。
ちなみに、高校棟からさっきいたみわたし林地までは、400m弱の距離で標高差は30m強ある。
なんだか、さらに熱くなってきた。
体を動かした故の暑さではない。
「ちょっと暑すぎない?!」
咲がさすがの暑さに愚痴をこぼす。
「本当に暑いわ。仄葉、ちょっと水魔法か風魔法かなんかで私を涼しくして」
竜がつられて面倒な事を言ってくる。
「まだデスカ~、疲れたデス~」
海璃和も実に辛そうな顔でまだなのかと訴えてくる。
「あとちょっとだから我慢して!!」
そう、あとちょっと。
すると、みわたし林地から見えていた群青色の揺らめきが見えてきた。
「あっ、さっきの揺らめき!」
咲も気づいたようだ。
早くこの暑さから解放されたいので駆け足で近づいた。
その時、 ゴオッ という音とともに私の背中を熱い何かが撫でた。
「あづっ」
「ほのっ、どうしたの?」
「分からない!でもなんか焼けてるような熱さを感じる!ちょっと背中見て!」
「うん!…………えっ?」
どうしたの?咲は答えない。
「ねえ咲!教えて!」
「あっ、ゴメン、でもよく分からなくて」
「仄葉、多分これ燃えてる」
竜がそんな風に言う。
「燃えてるの?!?!咲ぃ、早く消して!!」
「あっ、うん!“スプラッシュ”!」
咲の手から、赤色の液体が出て来てびっくりしたけど、熱さは引いた。
ヒリヒリするけど。
落ち着いて背中に“修復”と“再生”、“回復”を掛ける。
「ふぅ、ありがと。咲」
「どういたしまして。そんなことより、ここ危険よ!あと色々整理し直さないと、訳が分からないよ!」
「うん!早く研究室に行こう!」
私は急ぐ。
今の感じだと、群青色の揺らめきは多分炎。
家の周りで見た炎は黄色だっだけど、たまたま色が近かっただけという風に考えればあり得ない話ではない。
炎は温度で色が変わるし。
その上水は赤色だし、もっと今までの常識を捨てないとこの世界では生きていけない!
そして、本当に群青色の揺らめきが炎なら研究室はやばい!
早くっ、早くしないとっ!
そして私は、研究室があるべき場所に着いて言葉を失った。
なぜなら、そこには何もなかったから。
建物が壊れたなら、瓦礫なり、割れたガラスなり、悪臭がするなりするはずだ。
研究室があるべき場所には、この群青色の炎が魔法陣のように規則正しい図形を描き燃えていた。
何者か、天変地異か、何かによって消されてしまった。
そう、分かってしまった。
もう、お父さんには会えないのだろうと。
溢れる涙を拭い、なぜかあの謎の生物がいない、真っ白なのに暗い空を仰ぎ
「お”どうざんっ!!!!!!」
泣き叫んだ。
えっ、何ですか?
脈絡がないって?
しがない留年した理系大学生にそんなの求めないでください。(T_T)