紹介させられました
「結構料理できるじゃない。少しだけ見直したわ」
骨付き肉を片手に偉そうにアネッサ。
これでむさい男だったら強引にでもお引き取り願うところだが
外見はかわいらしい女の子だ。
あまり手荒な対応もできず、ずるずると家まで着いてこられてしまった。
完全にストーカーである。
オズマとクラスタは今日は騎士たちと忘年会だそうだ。
鉢合わせしなくて良かったと思う。
オズマが目にすればアネッサの態度にキレていたかもしれない。
「それで私に魔法大学への口利きをしてもらいたいと?」
「ああ」
カロリング魔法大学に入るためには魔法使いの推薦があったほうがいいという。
一般の人間が入ろうとすれば審査に時間がかかってしまうとのこと。
それも遅い場合は審査だけで数年かかってしまうというケースもあるらしい。
アネッサはセリアをちらりと見る。
「態度は別として、実力はあるみたいだし私的には構わないけどさぁ」
アネッサは乗り気ではなさそうだ。
相変わらずセリアとアネッサの仲は悪い。
「先ずはあんたの師と会わせなさい。いろいろと非常識すぎる。
あの魔道具と言い、やり過ぎ。
たしかにすごいのは認めるけど私の知る限り七つの規則や法令に抵触してる。
それにあんなのが出回った日にゃ魔道具屋はみんな廃業よ」
あの後俺の収納の指輪をしつこく何度も問われ、
セリアの師からもらったと白状してしまった。
「それにあれ何?生活魔法と普通の魔法じゃ修得に思いっきり差があるの。
簡易結界も上級学生でも使える魔法使いなんて一握りしかいないんだから。
それに二階梯まで無詠唱とか頭おかしいんじゃないの?
基礎はないがしろにしていないのは少しは評価するけど、
二か月足らずでどうしたらそこまで覚えられるのよ。
はっきり言って異常よ、異常。一発がつんと言ってやるんだから」
そんなわけで急遽ゲヘルとアネッサを会わせることになった。
セリアは食事の後片付けがあり、エリスにはほぼ無関係の話である。
面倒事を全部俺に押し付けられた形である。
「…?誰もいないみたいだけど?」
横から部屋を覗き込みアネッサは言う。
「本人に許可を取るから少しそこで待ってろ」
「まさか…私のカラダ目的なのっ」
「誰がお子様に手を出すか!」
「お子様って何よ、レディにむかって失礼ね」
面倒になってきたので俺は部屋に一人入りゲヘルを呼び出すことにする。
俺は一人で部屋の中に入ると鏡を三回叩いて呼び鈴を鳴らす。
「ユウ殿か」
「ゲヘル、お前に会いたがってる奴がいてな。連れて行ってもいいか」
「…いいじゃろう。連れてきなされ」
とにかくゲヘルの許可は取れた。
「許可が取れた。目を瞑ってくれないか」
部屋を出てアネッサに言う。
「私を騙す気でしょ」
アネッサには警戒感がにじみ出ていた。
「いいから目を瞑れ」
「手以外触ったらひっぱたくからねっ」
「何もしないっての」
俺はそんなやり取りの後、アネッサの手を引いて鏡の中に入る。
「目を開けてもいいぞ」
「ここは…」
アネッサを連れてきたのは魔族たちの城の応接室らしき場所である。
アネッサはきょろきょろと周囲を見回しゲヘルの姿を目に留める。
「ま、魔族…」
ゲヘルの姿を見て腰を抜かした模様。
「お主か、わしに会いたいという者は。
わしの名はゲヘル・カロリング。極北の地で魔族をやっておる」
ゲヘルという言葉にアネッサは口を開けっ放しになる
「ゲヘル…ま、まさか、カロリング魔導国を作り上げた伝説の祖
ゲヘル・カロリング様であらせられますか?」
「うむ。まあ、あの国は勝手に弟子たちが作った国じゃがな」
アネッサはそれを聞いて平伏した。
「太祖ゲヘル様…こ、このたびは…」
アネッサは地面に頭をこすりつけていた。
ゲヘルの素性を知ると尊大だったアネッサの態度が一変する。
「わ、私の名はアネッサ・サリウ。カロリング魔法大学百九十二期卒業生でして、
現在サルア王国の王都カーラーンで魔法道具屋をやっております」
「魔法大学の…なるほど、どこの宗派かの?」
「ライオル一門」
「ホッホッホ、ロッツ一門の分派じゃな」
大学には派閥争いとかある様子。
「あの太祖ゲヘル様がまさか魔族であったとは…」
「元は人間じゃよ。わしが人間を辞めたのは五百年前も前になる。
…してお主がわしに会いたい目的はなんじゃ?」
「一つはあのセリアと言う魔法使いの卵についてです」
「フム」
「教えて二か月ほどで無詠唱二階梯魔法など幾らなんでも早すぎです。
他にも簡易結界なども使えるみたいですし、
基本も教わったばかりのただの小娘にやりすぎではないでしょうか。」
「速度は速いがそれは今だけじゃ。
高度な魔法になればなるほどその修得には時間がかかるようになる
まして六階梯以降の魔法となれば一つ修得するまでに早いモノでも半年以上かかる」
「…ですがそれは基礎があってのことです」
そう、上位の魔法になるにつれその修得速度は遅くなる傾向にあるという。
必要となるのは複雑な魔法式。それは魔力の調節一つでダメになるものも存在する。
それも個人で制御するにはあまりに巨大すぎるためである。
もし制御に失敗する代償はあまりに大きい。
その代償に腕を失った者、魔法を使えなくなった者、最悪の場合命を失うケースもある。
そのために魔法大学では基礎に多くの時間を割くのが一般的である。
そうするのが普通であり、そうしなくてはならないのだ。
「それに驚くべきことだが、生活魔法を扱う段階でセリアは魔法の基礎は
ほとんど出来ておった」
「…う、嘘」
生活魔法には魔法の基礎のようなものは確かに含まれるがあくまで断片的なものだ。
信じられないことだがそれを掬い上げ、魔法体系を作り上げていたことになる。
それも年端もいかない子供がである。
「…怪物」
アネッサはそれ以外の形容詞が思い当たらない。
それも今までの常識をすべて覆すほどの。同時にアネッサは打ち震える。
あの魔法使いならば自分たちの知らない領域にまで至れるのかもしれないと。
「アレを覚えてもらうのだから早いことに越したことはない」
小さな声でゲヘル。
「もう一つ、この者のもつ魔法道具は一体なんでしょう。
咄嗟に思いつくだけでも七つ以上の規則や法令に抵触しております。
太祖ゲヘル様が自らその禁を破るのはいかがかと存じます」
「規則は売買行為を目的に行う場合や営利目的に限られているはずじゃよ。
わしは私的に譲渡したに過ぎん。それにそれらを世に流通させるつもりは毛頭ない」
ゲヘルの言うのは屁理屈の様な気もする。
実際、かなり役立っているし、助かってはいるが。
「…ではゲヘル様はその技術を広めようとは思わないのですか?」
「その選択肢はない。理由は理解できるな」
「…戦争の道具になりかねないからですか」
「そうじゃ。人が行き過ぎた力を持った場合、世界は不安定化し、
多くの犠牲を生み出し、均衡に至るまでに世界の大半が焦土と化すであろう。
そうなる前に魔族であるわしらが直接手を下さねばならぬ。
歴史上そうした事案もいくつか知っておろう。
この世界は人間たちだけが生きている場所ではない」
ゲヘルの最後の台詞が胸に響いた。
「…人間の敵はあくまで人間だと言いたいわけですか」
「そうじゃ。わしら魔族はただの監視者。
この世界の絶対の暴力装置にして、この世界の均衡を保つ存在」
俺はその暴力装置に殺されそうになったわけですがね。
「…ではどうしてその監視者が一介の旅人の肩をもつのでしょうか?」
「ユウ殿はわしらが王と認めたお方。王に献上するのは当然のことじゃ」
「…魔族の…王…」
アネッサが俺を見る目が変わっている。
「王に認められても、王になるとは言ってないんだけどな」
「ま、そういうことじゃな」
あっさりとそれを認めるゲヘル。
「さて、私からお主に一つ頼みがある。
セリアをお主の名で魔法大学に入学させてはくれまいか。
わしの名を出してもよいがさすがに信用するまい」
「私の名でですか…」
「私の名でセリアを魔法大学に入学させると少しばかり面倒になる。
それに少したるんだ今の上層に喝をいれたいしのぅ」
「なるほど。さすが太祖ゲヘル様。今の魔法大学の在り方に問題を抱き、
直弟子を魔法大学に送り込むということですか」
アネッサは感激し、頬を高揚させている。
「…まあ、そんなとこじゃな。引き受けてくれるか?」
「…私も今の魔法大学の体制には疑問を持っておりました。
それをどうにかできるというのならばセリアを私の弟子ということで入学させましょう」
「助かる」
「いえ、とんでもない。太祖ゲヘル様のお力になれ、
私の心は歓喜に満ちております」
「わしの願いを聞いてくれたのじゃ。わしのできることならば力になろう」
その言葉にアネッサは一瞬顔をにやけさせる。
「でしたら私は太祖ゲヘル様の修業を一度受けてみたく思います」
それは多くの魔法使いの夢でもあるらしい。
太祖ゲヘルから魔法を教えられること。
例え魔族になっていようとそれは変わることはない。
「ほう、お主はわしの修業を受けたいと申すか?」
「是非」
アネッサは二つ返事で了承した。
後日ゲヘルの修業をアネッサに尋ねると、
あんなのは修業とは言わない…あんなのは修業とは言わない…
などとぶつぶつと独り言を繰り返し教えてくれなかった。
今後彼女は二度とゲヘルの修業を受けることは無くなったという。
ともあれゲヘルとアネッサの交流は続けているらしい。
ゲヘルも人間界への新しい伝を手に入れまんざらでもない様子。
一体セリアはどんな修業をしているのか。謎が一つできた。




