おかしな魔女に会いました
いつものカフェにやってくると
約束していたカフェで二人の姿を見つけ俺はそのテーブルに向かう。
ちなみにエリスの席には食べ終えた食器が山のように重ねられている。
「すまない。ちょっとクラスタとの訓練が長引いて…」
俺はそう言って俺は二人の前の席に腰かけようとする。
「…それで直したつもりなの?」
セリアの言葉にはっとなって俺は服を見る。
よく見れば直した部分だけがきれいになっている。
魔法できれいなイメージだけが白くなり過ぎている。
始源魔法での修復に欠点があることを今更思い知った。
「…はい」
ここまであっさりとばれるとは思わなかった。
金髪の美少女に説教される二十代半ばの男性。
「魔力は?」
セリアと俺の事情聴取みたいな形になっている。
エリスには女神の呪いのことは話しているが、
セリアには魔力が使えなくなったとだけ伝えている。
「魔石で補てんしました」
「…なるほどね…。その手があったか…。それで使ったのはどのぐらい?」
「一番小さな奴を一つほど…」
「…まあいいわ。それで私たちの服を見て何か言うことはない?」
目の前には女神も逃げ出すぐらいの金と銀の女性が立っていた。
「…きれいです」
俺は思ったままを言うことにする。
「さ、三十点」
真っ赤になりにやける顔を必死に隠そうとしながらセリア。
「そうか。ならよかった」
エリスは顔を赤くしながらぎこちなく微笑む。
二人の種類の異なる破壊力がすごい。
背後から怨嗟のこもった視線をひしひしと感じる。
その日の午後、俺たちはそのまま買い物をすることになった。
別行動になって俺たちを付け回すような視線に気づく。
待ち合わせしたカフェからずっと俺たちから離れない。
エリスに視線を向けると頷く。
どうやらエリスも気付いている様子。
「いつからだ?」
「午前中からだな。害意は感じられなかったから放っておいたが」
やはりエリスも気づいていたらしい。
「俺がちょっと行って言ってくるよ」
こういうのは直接言ってやったほうが早い。
俺は踵を返し、視線の方向へ向かう。
「ユウ殿」
エリスが心配して声を上げる。
エリスが気遣っているのは相手のことではなく俺の体の方だ。
エリスには『女神の呪い』のことを話している。
「大丈夫だ。男としてこのぐらいはさせてくれ」
魔族である俺の体は魔力を使わなくても人が及ばないほどの力を出すことができる。
間違いなくセリアとエリス目当てだろう。
ここ最近では見なくなったが、二人の美貌にひきつけられてやってくる馬鹿が多い。
「そこの奴。あんまりつけてくると…」
俺は着けていた人間を見て押し黙る。
それというのもその人影があまりに小さすぎたためだ。
俺はその女の子としばらく見つめ合う。
しばらくの沈黙の後、動いたのはその子供の方だった。
「ちょっと何よ、この指輪…」
その女の子は俺の手を握って離さない。
「ちょ、何を…」
「効果対象範囲が広すぎる。協会が規定している範囲を明らかに超えてる…。
その上、細かな出現場所の座標指定もできるって…何なのよ」
俺の訴えは全く耳に入っていない様子。
「離してください」
「肝心の容量は…何これ…どれだけの容量があるの…。
村…いや街単位で入るんじゃない?やりようによっては悪用し放題よ」
この女の子、俺の手をつかみ離そうとしない。
「離してくれませんかー」
この体加減がしずらい。相手はどう見ても子供である。
魔族である俺の力はかなり規格外である。
あまり力を込めるとけがを負わせそうでされるがままになっている。
…断っておくが子供に対して欲望を抱くとかそう言う話ではない。
「伝説級…いやこれは神話級クラス…のアーティファクト。
…一国の国家予算分になるわね。というかこれ封印指定物よ。…異常よ、異常だわっ」
規格外だと思ってはいたが面と向かって言われちょっと納得する。
「ん?」
次はイヤリングに関心が向いたようで、俺の腕をよじ登ってくる。
俺はもう注意するつもりもなくされるがままになっている。
「そのイヤリングも効果はわからないけどおそらく指輪と同じぐらい…いや、それ以上?」
その女の子が『ルート』を触ろうとした手がすり抜ける。
「…半物質半霊体?嘘でしょ…なんでこんなものが…」
俺の耳元で勝手に驚かれても困る。
だんだん腹が立ってきた。
俺が頭を振るとポーンと三メートルぐらい真上に吹っ飛ぶ。
俺は空から降ってくる女の子を受け止めた。
「何すんのよ」
涙目でその女の子が大声を出す。
「それはこっちのセリフだ。お前は一体なんなんだ」
「失礼な男ね。相手の名前を聞くならまずは自分からでしょ」
名乗るも名乗らないも勝手に人の体に触ることこそマナー違反じゃないのか。
と喉まで出かかったが面倒になりそうなので俺はそれを押しとどめる。
我ながら環境に毒されてるなと思った。
「はいはい。俺はユウ・カヤノ。一介の冒険者だ」
「私はカロリング魔法大学のアネッサ様と言えばちっとは知られたもんよ」
腕を組んでそのちっこい女の子は腕を組み偉そうに語る。
「発見」
「な、なによ」
俺はそのちっこい子供を捕まえる手に力を込める。
こうして俺はついに魔法大学関係者を捕獲したのだった。
俺たちはアネッサと向かい合うように座っていた。
アネッサの着けているとんがり帽子が前世のハロウィンを思い出させる。
季節的にはもう過ぎていたか。
「そもそもあんたらがうちの店の前でうちの商品をけなすのがいけないんでしょうが」
甘味を頬張りながらアネッサ。
その姿はどう見てもただのお子様である。
「それは悪いことをした」
初めて会った人間の魔法使いに俺はただならぬ興味をひかれていた。
「だめよ、エリス。こういうのに甘い顔したらつけ上がられるの」
セリアがエリスをたしなめる。
こうしてみるともはやどっちが年上だかわからない。
「大通りで話すぐらい別に自由ですよね。
それともあなたの店の前では魔道具の話をしてはいけなかったのですか?」
セリアはガチでやる気満々である。
「…あんたいい性格してるわよね」
青筋を立てながらアネッサ。二人とも臨戦態勢である。
二人の背後に竜と虎が見える。
周囲の客がこちらを覗いている。
店の店員がハラハラしながらこちらを覗いているのが見えた。
「それでその高名な魔法使い様がどうして私たちをつけていたのですか?」
セリアの表情こそにこやかだが、どこか棘がある。
どうもセリアはアネッサに対し冷淡ともいえる姿勢である。
「私の目的はあんた。あんた、どこで魔法倣ったの?魔法使いにモグリはいないわ。
まして無詠唱であれだけの魔法、生まれたときから相当な魔法使いに師事しないとできない」
「…師事してから二か月足らずですが?」
セリアはきっぱりと答える。
「!!!」
セリアの言葉にアネッサが固まる。俺がセリアとゲヘルを仲介した。
セリアがゲヘルに師事してからたしかに二か月経っていないはずだ。
「…と言うことはあんたの師はこのカーラーンの近くにいるってこと?
宮廷魔術師のラオッツ?それとも冒険ギルドのホガンツ?
まさか偏屈屋のマットじゃないわよね」
「ずいぶん知ってるんだな」
アネッサの口から魔法使いの名前がポンポンと出ることに俺は感心する。
「私をなめないでもらいたいわね。この業界は意外と狭いのよ?
こう見えてこの周囲の名のある魔法使いは記憶してるんだから。
…で、そのうちのだれなのよ?」
魔法使いの業界ってあるのか。
「残念だけど全部ハズレです」
セリアの言葉にアネッサは眉をひそめる。
セリアの師は極北の地に住む魔族のゲヘルである。
アネッサがどれほど知識を総動員してもゲヘルには行きつかないだろう。
「どういうこと?まさか…リーブラのノング?
けどあいつは大の女嫌いのはずじゃ…」
「ユウ、こんなのほっといていきましょ。まだ買い物済んでないんだし」
セリアは立ち上がる。
「こら、待ちなさいよ」
「おい、セリア。ちょっと言い方がきつ過ぎだ」
俺はセリアに後ろから声をかける。
将来先輩になるかも知れないんだぞ。とかは辛うじて抑える。
「だってあの人ユウに…馴れ馴れしいんだもん…」
視線を泳がせながらセリア。
「なんだって?」
「なんでもない。ユウ、今日は半日付き合ってよね」
頬を膨らませながら早歩きで去るセリアを俺たちは小走りで追いかける。




