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異世界の放浪記   作者: owl
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部下と模擬戦です

俺はクラスタと戦闘訓練していた。

俺たちの剣圧に雪しぶきが舞い、木々が揺れる。


ローファンとの戦いから左腕の感覚が全く戻らない。

オズマの訓練も受けてみたが感覚が戻るという兆候は見られない。

頭に響いたバキッという音は俺の核が壊れた音と考えるのが正しそうだ。

核が壊れて失ったものは二度と戻らないと考えたほうが良いだろう。

俺はこれからはずっと失い続けていくだけになるようだ。


クラスタは剣を両手にもつ二刀流のスタイルに変えたらしい。

二本の双剣のまき散らす風が雪を巻き上げる。

手数は多いがどうにか対応できる。

俺は力でクラスタを弾き飛ばす。

魔力を差し引いた力はこちらの方が上のままのようだ。


「魔力を使わせてもらうぜ、大将いいよな」

クラスタの背中に二対の黒い翼が現れる。

魔力による構成物。クラスタの本来の姿。


「ああ」

俺が同意した直後、クラスタの豪雨のような黒い羽根の弾幕が目の前に現れる。

たまらず俺は横に飛び直撃を躱す。

背後にある木々が音を立てて倒れる。


俺は距離を取りながら

ここで引いたままではクラスタの思うつぼである。


ならばどうするか。

とてもではないがクラスタの遠距離攻撃に対する手立てはない。

相手の間合いに入らなければ戦いにすらなりえない。

ローファンとの戦いからずっと考えていたことを試してみることにする。

俺は魔石を収納の指輪から取り出し全力でクラスタに向けて跳躍する。


「あんた自ら来てくれるとはな」

クラスタは俺に向けて一斉に黒い羽根を放つ。

俺は手にした魔石を砕くと魔素が俺の周りに現れる。

魔素を使い俺は身の回りを包む最小限の結界を構成する。


今回の構成した結界は今までとは少し違う。

今までは面で受け止める結界だったが次は三角にして

受け流す結界に変えてある。


体内の魔素を使えばパールファダの呪いの影響で痛みとともに寿命を削る。

体内の魔力が使えなければ外部ものを使えばいい。

セリアの修業を聞いて閃いた戦い方である。

人は魔力を生み出すことはできないので外部のものを使うという。

なら自分もそれができないかと思ったのだ。

幸い、魔石ならばかなりのストックがある。

とはいっても魔石の魔素は体内の魔素と比べれば微々たる量であるが。


黒い羽根を結界が弾き、俺は一直線にクラスタに向かっていく。

結界を三角かつ局所的にしたことで羽から受ける抵抗も少ない。


クラスタも予想外だったようで二本の剣で受けようと剣を前に出す。

俺は鞘付きの『天月』を振りぬく。

クラスタの双剣が弾かれる。

ガードを貫かれ、クラスタは両腕を上げた姿勢になる。


「終わりだ」

クラスタの首下に鞘付きの『天月』を添える。


「参った。降参だ」

クラスタは剣を手放し、両手を上げて降参のポーズをとる。


「まさか魔力を使ってくるとはなぁ」

俺はクラスタに手を差し伸べる。


「魔石を使ったんだ」

クラスタにはパールファダの呪いは話してある。


「結界の形状もああいうのもありなのか」


「イメージしたらできた。受け流すことにすれば結界への負担も軽くなるし、

相手に押し負けることもないかなって」

今のはローファン対策に考え出したものだ。

女神の呪いを受ける前には考えもしなかった戦い方である。


さすが始源魔法である。

試行錯誤でいろいろと試した結果、

こちらのイメージで大抵のことができることが分かった。

もちろん使う魔力量はイメージに比例する。

今更ながら自身の魔力を使えなくなる前にいろいろやってみたかったと思う。


「クラスタは二刀流にしたんだな」


「オズマ師匠にこっちの方が俺らしいっていわれてな。実際その通りだった」

普通剣は両手で握るもので双剣使いはもう少し刃の小さなモノを選ぶのだが、

クラスタは一般の騎士団員が使うような長剣である。

魔族であるために力と言う点では人一倍あるので問題はないだろうが。

ちなみにこの話は復興の最中に冒険ギルドの人たちから聞いた話だ。


「師匠にはお前は手数が多いほうがいいだろうっていわれてな。

始めは人間の作った道具なんかって思っていたんだけどよ。使ってみてしっくりきたよ」

たしかに。俺はそれを聞いて納得した。

重く巨大な一撃より、手数の多い嵐のような攻撃の方がクラスタにはしっくりくる。


「以前のときよりずっと苦戦したよ」

俺は『天月』を収納の指輪に戻す。

クラスタは戦いにおいて駆け引きができるようになってきている。

追いつかれるのももうすぐのような気がする。


「けどそんな俺でもあんたにゃ勝てねえんだぜ」

ちょっと憧れの混じった目でクラスタ。


「…戦ってみて弱くなってると感じたか?」


「うーん、俺と戦った感じで弱くなっているとかは別に感じなかった」


女神の呪い受けてもこの体の純粋な力はどうやら衰えてはいないらしい。

ローファンとの戦いでちょっと不安だったが杞憂だったようだ。


「他のことは全くだが…」

剣術とかはからっきしだ。俺の馬鹿力に対応できる相手がいない。

オズマですら少し打ち合っただけで手がしびれるほどだという。


「肝心の部分の駆け引きが出来るってのは感じゃねえよ。魂に染みついた何かだ」

戦闘については思い出していく感じがしっくりくる。

戦っていくうちにどうすればいいのかわかるのだ。理屈ではない。

ちなみに前世では荒事の経験はない。

始めは魔族もともと持っている何かかと思っていたがそうではないらしい。


「それで俺に聞きたいことってなんだ?」

木に足をかけクラスタ。

クラスタとの戦闘訓練をしたのはそれが聞きたかったためだ。


「ローファンについて詳しく聞きたい」

ゲヘルにローファンについて聞いてみたがどうも要領を得ない。


「なるほどな。ゲヘルもオズマ師匠もあいつのことは語りたがらないってわけか」

何か納得したような顔でクラスタ。


「蒐集家のローファンっていえばラーベさんのところの元四位の男だ。

伯爵っていう貴族位も持ってたっけな。

ただある事件で『北』から追放されている」


「ある事件って?」


「ローファンは人間たちとちょっとした諍いを起こして二百年前に一度国を滅ぼしてる」


「国を?」

俺は聞き違いかと思い聞き返す。


「そう国をだ」

スケールが想像以上に大きい。

あの男、俺以上にすごいことやってやがった。


「命数が百年以上残った国だったし、神の園の連中もかなり怒り気味だったって聞くな」


「神の園?」


「この世界の神やら神獣やら精霊やらのそっち系のお偉いさんが集まる場所。

俗に天界とも言われてる。

俺も詳しくはよく知らないが、この世界の方向性が話し合われてるって話だぜ」


そう言えばパールファダも神の園に転生するとかゲヘル爺が言っていた。

神と言う存在はこの世界の導き手であり、魔族はこの世界の秩序の担い手ということか。

まあ、それには理解はできる。

俺が転生してからめちゃくちゃやっていて、ゲヘルに殺されそうになってるし。


「一度は処分の話も出たらしいが、

奴の実力とその忠誠心からぎりぎり処分は間逃れたって話だ。

今は追放処分を受けて人間界うろついてるって聞いていたが

まさか遭遇するとか…マジで羨ましいぜ」


「…俺としては災難だったんだがな」

羨ましいとか言われてもこっちは残り少ない寿命をかなり削られている。

もう遭遇戦とか本気で勘弁してほしい。


「会ったことはないが、

俺の聞いた話じゃローファンの力はうちら上位魔族の中でも頭一つ抜けてるって話だ。

オズマ師匠でもまともにやって勝てるかどうか…」


「…」

その点については同意する。

ローファンの力はクラスタと比べても別格だった。

手の多さに広さ、その対応力に関してはかなり未知数。

先日の遭遇戦では奴の魔力はほとんど使われていない。


今回は相手が引いてくれてどうにか退けた感じに放ったが。

もし戦うことになれば全力で戦わなくては勝てないと思う。

次に遭遇したのならば、これ以上寿命を削られたくないので逃げたほうがいいだろう。


「大将は今日予定あるのか?」


「俺はこれからセリアたちの荷物持ちだ。クラスタも来るか?」

それを聞いてクラスタは一瞬、あからさまにいやな顔を見せた。

女性の買い物に付き合わされるのは苦手だと話していたっけ。

収納の指輪持ちの俺は強制参加なんだが。


「俺はいい。騎士団の練習に付き合ってくるわ」

無邪気な笑顔でクラスタ。


「なあ、大将、普通の武器じゃすぐに壊れちまう。なんかいい武器とか持ってねえ?」

魔族で人間よりも力があるためだろう。

クラスタの手にある二本の長剣は刃こぼれだらけである。

人間用の武器は魔族の力では消耗が激しいと言うことらしい。


「悪い、無いな」


「そっか、後でヴィズンの親父にでも話してみるか。

それとな大将、そんな恰好で行くのは止めた方がいいぜ」

気が付けば俺の服はクラスタとの模擬戦でぼろぼろだった。


「大丈夫だ」

俺は魔石を砕くと魔法を使って始源魔法を使い服を直してみせる。


「ひゅぅ、さすが」

口笛とともにクラスタ。


「それじゃ、俺は修業してくるわ」

木々の間をムササビのように移動しクラスタは去って行った。


クラスタの去った後、俺は気になったので魔石のストックを確認した。

手持ちの魔石のストックが思ったよりだいぶ減ってきている。

計画的に使わなければすぐに底をつきそうだ。

今度、皆で魔の森に行って魔物を狩ってくるのもいいかもしれない。


そもそも服を直すのと魔石を売るのとどっちが価値があるのか。

俺は少し気になった。

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