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異世界の放浪記   作者: owl
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変なのに目をつけられました(side:アネッサ)

私の名はアネッサ・ホブルサリウは店番をしていた。

よく子供と間違われるが、これでもカロリング魔法大学を出たエリートである。

身長は低いのは私の血筋にドワーフの血が流れているからだという。

こう見えて百九十二期首席であり、カロリング魔法大学においてはそれなりの地位にある。


一般にカロリング魔法大学と呼ばれているが、正式名称カロリング国立大学院という。

現存する唯一の魔法の教育機関であり、世界最高峰の学校である。


魔法使いという職業の希少性と有用性のためだ。


魔法使いというのは二通りある。

カロリング大学を出たか、もしくはある魔法使いに師事するか。


後者は偏りが大きく、また小間使いとして使われる場合もある。

さらに名を語った詐欺もあり世間的な評価としては低い。

そのためもぐりの魔法使いと揶揄されることもしばしば。

実力のある者もいるがそれはほんの一握りである。


一方でカロリング魔法大学を卒業したという経歴は絶大である。

成績の良い者は国から直に宮廷魔術師の招待を受けることもある。

成績の悪い者でも商人の方から出資するのを願い出てくるほどである。


彼女は魔法大学卒業後、生まれ育ったカーラーンに魔道具店を構えた。

魔法道具を取り扱うことになったのは彼女の資質が大きい。

ドワーフの血が流れているせいか細かい装飾が昔から得意だった。

幾つか王宮から招待も受けていたが、私はかたっ苦しいことが苦手であった。


私は卒業後仲間からの出資を受け、すぐにカーラーンにて店を開く。

しばらくすると王党派と大臣派の対立が激化し、内戦も近そうだったので

私は店を閉めてしばらくカロリング魔導国へ引き上げていた。


なぜ戻ってきたかと言うと

女神教だとか、『災害』のカルナッハとか、巨大な怪獣がカーラーンで大暴れしたという

とんでもない噂話を聞きつたからだ。

小さくてもカーラーンに出した店には愛着もある。

何せ自身が初めて開いた店なのだから。

一度戻って現状を確認したかった。

自身の開いた店が心配で、自身のしていた研究を切り上げ戻ってきた。

それで戻ってきてみればこの通り。

店は無事であり、荒らされた形跡もない。

王都に爪痕は残ってはいたがそのあとはほぼ修復されていた。

世の中の人々は想像以上にたくましい。


少し前に起きた事件は世間的には『蝕の大事変』とか呼ばれているらしい。

王宮の近衛兵が軒並みカルナッハに殺されたとか。

化け物が大臣邸を破壊して西の空に消えて行ったとか。


実際にそれは起きたのだろう。

集めた情報によれば王宮で多くの兵が失われたと聞くし、化け物の破壊した痕跡もある。

誰が、どうして、何のために行ったのか知ろうとするのは無意味だ。

その破壊は人の領域の話ではない。

もし知ってしまったとしても個人にはどうすることもできないのだ。

文字通り『災害』なのだ。


ま、しかしある意味で彼女は感謝していた。

こんなことがなければカーラーンの研究室にずるずると居続けたかもしれない。

サルア王国の次の国王エドワルドは民衆からの支持も厚く、賢王との呼び声も高い。

これからカーラーンは発展していくだろう。

ここでもう一度、本業に立ち返るのも悪くない。



自分の作った魔法道具を磨いていると

店先でショーウィンドウを除いている二人の若い女性が目に入った。

顔は見えないがその身なりからかなり裕福であることがわかる。

見事な金髪ととんがっている耳が見えた。外にいるのは先祖返りらしい。

先祖返りと言えば、裏ではかなりの高額で取引されている存在だ。

ちょっと前までは出歩くこともできなかっただろう。

ずいぶんとカーラーンの治安も回復しているのだなと思う。


暇なので簡単な魔法を使って二人の会話を盗み聞くことにした。


「エリス何見ているの?」


「それだ」


「収納の指輪?」


私は二人の会話を聞いてほくそ笑む。

この店の収入としては一週間で一個売れでもすれば十分食べていける。


「前に戦った奴が収納の指輪を使って武器の出し入れをしていたんだ。

私も収納の指輪があれば戦いの幅が広がるんじゃないかと思ってな」


収納の指輪は人気の商品である。たまに作るが飛ぶように売れる。

それもそのはず冒険者にとって武器は命綱でもあり、商人にとって金は生命線である。

強盗や盗賊に出会ったとしても奪われる危険は少ないし、

いつでも自身の大切なものを手元に置いておける。

これ以上に魅力的な商品は無い。


冒険者や商人にとって収納の指輪というのは

ある程度稼げるようになったのならば一番に手にしたい魔法道具であり、

それを持つことはある種のステータスになる。


「だめよ。この宝石にこの魔法式だとせいぜい武器二三本ってところ。

しかも出し入れがはっきり魔法式に組み込まれていないし、

エリスの望むタイミングでは出せないと思うわ」


(…ん?)

先祖返りの指摘はある意味で正しい。

だがあまりにハードルが高過ぎる気もしないではない。

収納の指輪の相場は重い武器が一本ほど入ればいいし、

二本入れるものはあまりない。

ショーウィンドウに飾られている物の品質自体は悪くないはずである。


「ならそれはどうだ?」

隣にある剣を指さす。アレは私が数年前に火の魔法を付与した物だ。

一度に二回は火球を撃てる。もちろん魔石の魔力チャージは必要だが。

下位の魔物ならばそれを見て怯むし、当てることができれば黒焦げである。

ほどほどに自信はある。


「こっちもだめ。付与されている魔法も実戦レベルには程遠いわ。

もし付与するのならばせめて魔法式をもう三倍はないと」


(何を想定した実戦よ?ドラゴンとでも戦おうっての?)

先祖返りの言葉にアネッサはちょっとカチンときた。


「ならそっちのネックレスはどうだ?」

ネックレスにも自信があった。

貴族用に作ったもので身代わりになり、数回攻撃を無効化できる。

前に一度暗殺を怯える貴族から注文を受けたものである。


「んー。護身用なんだろうけど、ちょっと魔法式が雑かな。触媒はいいけど」


(…何?あいつ、私に喧嘩売ってるの?)

アネッサは徐々に怒りが込み上げてきた。


「ならあっちのイヤリングはどうだ?」


「アレは話にならないわね」


(この小娘がぁ)

私はその言葉にキレた。

私は文句をつけるべく店を出ると二人組を探す。


例の二人組は数人の男どもに囲まれていた。

よく見れば二人とも相当な…いや、めちゃくちゃな美人である。


一人は『先祖返り』

まだ幼さが目立つがあと三年もすれば

傾国のとか絶世のとか形容詞がついてもおかしくはない。

もし奴隷として売るとするならば一財産になるだろう。


もう一人は銀の髪をした女性。

身長も高く、スタイルも整っていて、端正な顔立ちで

同姓であるこちらが引け目を覚えてしまうほどである。


(ざまあないわね。先祖返りがふらふら出歩くからよ。

少し痛い目見た後なら助けてあげないでもないけど…)

私は野次馬に混じり、腕を組みつつその状況を見ることにした。


「命知らずだ…」


「馬鹿がいる」

野次馬から聞こえてきた声に私は耳を疑った。

…ん?周囲から聞こえてくる言葉が私の思っていた反応と違う。


「そこをどいてもらえますか?」

金髪の先祖返りが声を上げる。


「俺たちと一緒に来てくれるんならな」

下衆な笑みを浮かべ、先祖返りの手に触れる。


直後、先祖返りの前に巨大な火柱が上がる。

三階立てにも届きそうだ。

男の前髪が燃え、男は腰を抜かした。


「あち、あち、な、なんだ」

あまりに突然のことに男は混乱している。

先祖返りの瞳には動揺は全く見られない。


(あの先祖返り、無詠唱で二階梯魔法を放った)


嘘でしょう?私の知るレベルの二階梯じゃない。

それも人を燃やし尽くすほどの火力でである。

あそこまで自在に操れるのは大学でも数人いるかどうか。

それを何であんな年端もいかない『先祖返り』がどうしてあそこまでの魔法を使えるのか。

あんなに目立つ容姿であれほどの使い手なら、

自身の耳に入ってきてもおかしくはないはずである。

(…あんな魔法使いがいることがおかしい)


「ひい、こいつ、魔法使いだ」

男たちは腰の抜けた男を残し逃げ始める。


「忘れ物だ」

腰を抜かした男が銀色の髪の女性にベルトをつかまれ、ひょいと片手で持ち上げられる。

それも大の男がまるで猫のようにである。


その女性は無造作に男を放り投げる。

綺麗な放物線を描き十数メートル離れた逃げる男たちに直撃した。

何故か通りにいた観客たちから歓声と拍手が巻き起こる。


(…物理法則がおかしい)

女性の腕力ではない。


「やっぱり自動迎撃炎魔法セルフバーニングかけておこうかしら?

『先祖返り』だからって狙ってくる輩多いのよね」

大真面目に先祖返りが言う。


「炎だと火事になるだろう。そこは氷か雷じゃないのか?」

銀色の髪の女性が話しかける。


「雷でも発火する可能性があるし、氷だと動けなくなってかえって邪魔にならない?」


「うーん、それもそうだな…」


(…こいつら、論点がおかしい)



「こら、何をしている」

ここの警備兵が駆けつけてくる。

こんな騒ぎを起こしたのだ。当然だろう。


「あ、エリスさん」

数人いた警備兵たちは一瞬で態度を豹変させる。


「私服姿もお美しい」

目を輝かせ背の高い銀色の髪の方へ群がる。


「ああ、なんという…目に焼き付けておかねば」


「あ、ああ、ありがとな」

警備兵の様子に少し引き気味で銀色の髪の女性。

(…何で警備兵が咎めることもなく、褒めちぎってるの)


「少し面倒な輩に絡まれてしまってな。警備中すまない」


「いいえ。今後そういった輩が出ないように警備します」

警備兵たちは敬礼するとそのまま引き上げていった。

一斉に人も引いていく。


(…この国はどうなってしまったのだろう)


少し前の内戦前と言われていた時が懐かしく思えた。

私は生まれ育った街は私がしばらく帰らないうちに

とんでもない魔窟になっているような気がした。

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