買い物に出かけましょう
それは年越しも迫るある日の話である。
俺は朝食も終わり、屋敷の広間で一人立っていた。
今日はセリアたちと一緒に買い出しに行く予定である。
外は極寒だというのに城の中はほんのり暖かい。
ここにいるもともとの使用人が暖を取っているためだ。
居心地の良さにどうしてもぼんやりしてしまう。
最近は女神の呪いの痛みもある程度はコントロールできるようになってきている。
前世でも年越しとかあったな。アメ横とか行ってたっけ。
こたつでみかんを食べながら年末過ごしてたな。
俺は立ちながらくだらないことを考えていた。
「おう、大将。暇そうだな。俺と一勝負やらねえ?」
ぼーと突っ立っているとクラスタが声をかけてきた。
クラスタの申し出は正直ありがたい。
俺はローファンという魔族との戦いの後から力の調整をしたかったのだ。
女神の呪いにより基本的な力が弱まっている感じがする。
それにどうも左腕の調子がしっくりこない。
「クラスタには少し聞きたいこともあったしな」
「ユウ、どうしたの」
丁度良くセリアが部屋から出てきた。
一瞬その姿に目を奪われる。
出かける用にこの間買ったドレスを着ていた。
人形のように完成された美しさ。
着飾ったセリアの見てくれは本当に天使だと思う。
そう見かけだけは。
「せ、セリア、ちょっといいか?」
「何よ?」
「クラスタと午前中訓練したいんだが…、午前中少し外しても大丈夫か?」
「なんだそっちか…。仕方ないわね。行ってきていいわよ。
午後に例の喫茶店でおちあいましょ」
「わかった」
何か条件でも付けられるかと思ってちょっと身構えていたが
セリアはあっさりと二つ返事で了承してくれた。
一番の関門をちょっと安心する。
俺はクラスタを連れ立って郊外の森に向かった。
ユウが出て行ったあと入れ替わるようにエリスが広間にやってくる。
「ユ、ユウ殿は?」
少し遅れてやってきたエリスがセリアに声をかける。
荷物持ちとして買い物に行くときはいつも着いてくるはずである。
そもそも収納の指輪を使えるのはユウだけしかいない。
冬のカーラーンは冷えるので少し服も厚い。
「クラスタと話があるって、さっき出て行ったわ。午後から来るって」
「そうか」
エリスは少し残念そうにする。
「エリス、午前中は女性二人でいろいろ見て回りましょ」
「それもいいな」
セリアはエリスに法術の指導をしてもらっている。その上、歳も一回り離れている。
本来ならば敬語でやり取りするはずだが、
二人の間でお互いに教える場以外は敬語とかはなしでという取り決めは自然にできた。
セリアは料理から裁縫、オシャレという女性に必要な要素をすべて兼ね備えていた。
エリスの知らない世界であり、見習わなくてはならないと
勇者と言う役を外れた今、強く思うようになった。
今まで剣や法術の研鑽を積んできたエリスにとってセリアはいい見本でもあった。
生真面目なエリスは一緒にいてそれらを見習いたいとも思っている。
「それにしても…今日のセリアの姿は可憐だな」
「ふふふ、ありがと。…本当はあいつからその言葉を聞きたかったんだけどね」
「ははは…まあ…わかるな」
先祖返りの特徴であるエルフに似た容姿、
彼女はそれらの特徴をすべて兼ね備えていた。
幼さは残るが成熟すれば見るモノすべてを惹きつける
さらにドレスのを着て着飾っている。
普段は最低限のオシャレしかしていなくても目立つセリアが着飾れば
鬼に金棒並みの破壊力である。
どこぞの貴族の令嬢と言われても違和感がない。
「エリスが私服とか初めて見る。すごい新鮮ね」
にこやかにセリア。
上半身はゆったりとしたブラウスを身に着け、
ボトムは体にぴったりと合ったパンツスーツを着用していた。
同性から見てもため息の出るようなスタイルの良さである。
「私だって人間だ。私服ぐらい着る」
口をとがらせてエリス。
「スカートも似合うんじゃない?今」
「あ、あれは足元がスースーして好かん」
「…にしても今までエリスの私服なんて見たことなかったのにどういう心境の変化?」
「う…」
セリアの問いにエリスは言葉を詰まらせる。
「帰ってきてからユウとも視線を合わせようともしないよね」
にこやかに畳み掛けるセリア。
「…」
エリスは視線を泳がせる。
「ユウの話題になるとエリスの表情が明るくなる気がするんだけど?」
「…」
セリアの指摘にエリスは顔を真っ赤にし、冷や汗をかいている。
「怪しいなぁ」
目を細めセリアはエリスを見る。
エリスは蛇に睨まれた蛙のようである。
ゲヘルに師事してからセリアは洞察力を上げている。
日常生活でもそれはいかんなく発揮され、
最年少なのだが、セリアに口答えできる人間は現在のパーティにはいない。
このパーティの実質的な支配者でもある。
「まあいいわ時間はたくさんあることだし」
「…っ」
エリスは声にならない叫び声を上げる。
「今日じっくりそこんとこ聞かせてもらうわね」
満面の笑みでセリア。
エリスはその笑みに内心青ざめさせていた。
「それじゃ、行きましょ。騎士様、エスコートよろしくね」
「ああ」
エリスはセリアの一言に微笑み頷く。
二人は買い物に向かう。
そこで予想もしない出会いが待ち受けていることに二人はまだ知らない。




