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異世界の放浪記   作者: owl
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帰還しました

なんだかんだ言って四日ほど、帰還が遅れてしまった。

原因はローファンが虐殺した二千におよぶ死体の処理だ。

このまま放置しておくと付近の動物たちが人の味を覚えて厄介なことになるという。

人を襲うようになるとのことで話し合った結果、穴を掘って埋葬することになった。


二日放置していたが幸い、死体の腐乱は少ない。

動物に食べられた様子もない。

冬の時期で助かった。

屋敷の人だけではなく近隣住民からも応援を借り、三日かかった。

武器防具はそれなりに金になるらしいので結構いい稼ぎになるとのこと。

亡くなった方には埋葬料だと思って我慢してもらうことにする。


ちなみにエファルスは終始顔を青ざめさせていた。

こいつらを手引きしたのはエファルスだろう。

罪を問うつもりもないが反省してほしい。


俺たちが帰るころには雪もちらつき始めていた。

もうじき冬がやってくる。


帰りの行程は予想以上に順調だった。

カルザックの二千の兵が一人残らず全滅したことが付近の貴族に知れ渡り、

貴族共は皆、手を出すことに萎縮してしまったのだ。

ただ、帰りの馬車の中は誰も一言もしゃべらず気まずい状況だった。


俺たちは帰還するなり、玉座の間に招かれた。

玉座の間は未だぼろぼろ。あくまで形式的なものだろう。


「やれやれ、こんな玉座では格好がつかないな」

堂々とその玉座に座りながらエドワルド。

天井のない玉座の間にはゆっくりと雪が降り始めている。


「動いたのはカルザックだったか…」

この口ぶりだとどうもこの王様、貴族が動くことは予測済みだったようだ。


「その上でローファンと言う魔族の襲撃…。

つくづくお前たちは厄介事に好かれているな」

エドワルドの茶化すような言葉に俺はほっとけと心の中で言う。


「こちらがイーファベルドでございます」

俺は無視して収納の指輪からその大剣を取り出す。


「フム、ずいぶんと重いな。どうやら私には扱えそうにはない」

王はそう言ってイーファベルドをしげしげと見つめる。


「だがそれでいい。私の役割は殺し合いをすることではない」

エドワルドは不敵に笑い、イーファベルドを傍の従者に渡す。


「イーファベルドは多重結界を張った地下金庫へ」


「はっ」

イーファベルドは長い間、日の目をみることはなくなるだろう。

武器としてはラーファンに渡ったほうがその機能は十分に果たせただろうが。


十分暴れたことだし、平和の礎になるのも悪くないんじゃないか?

俺は遠ざかるイーファベルドに向かい心の中でつぶやいた。


「白金大金貨五枚をここへ」

エドワルドがそう言うと配下の者が台座を持ってくる。

ずしりと重そうな五枚の金貨が台座の上に置かれていた。


「大義であった」

エドワルドはそう言ってその場を立つ。

寒いだろうがそんなそぶりをつゆも見せないところは立派である。

拍手を送りたい。


「時にオズマ殿」

すれ違い際に王が足を止めオズマに語りかける。


「バルハルグは手ごわかっただろう」


「ああ」

オズマの一言に王は少しだけ口元を緩める。


「当然だ。私が唯一憧れた騎士だったのだからな」

王はそう言い残し玉座の間を出て行った。

もう少し嫌な奴だったら良かったのになと俺は心の底から思う。


この後、一カ月の後バルハルグ・イエルトーダが病死したと発表される。

葬儀は身内ののみでしめやかに行われることになったという。


イエルトーダ家はそのまま存続という形になる。

国を代表するような人材を輩出していくのだが、それは後の話。


あの決闘の様子は百年後、エファルス・イエルトーダが手記にとどめており、

後の子孫により明らかにされることになる。

ただ、それは歴史学者たちは彼の創作と言われるようになる。


サルアの王都カーラーンはゆっくりと雪に埋もれ始めていた。




テラスで星空を見上げながら、セリアにこれまでのことを話していた。

手にはココアのような暖かな飲み物がある。

セリアは厚めのカーディガンを着た上で簡易結界を使っていた。

ゲヘルから魔法を習っているので簡単なものは使えるようになったという。

元々セリアは生活魔法は使えていたし、この時の俺は違和感を感じなかった。


「うーん、イーファベルドの正式な返還請求する必要があったのかな?」

一連のできごとを聞いたセリアから出てきた言葉は予想もしない一言だった。


「どういう意味だ?」


「バルハルグはエドワルド王側の人間だったんでしょ?

だったらそんな公式に大々的にやるんじゃなくて書簡を送るだけでも

イーファベルグを戻してもらえたんじゃないかな?」


「だとしたら…一体なぜ、蜂の巣をつつくようなまねをエドワルドは行ったんだ?」


「王様の考えは単に不満分子をあぶりだしたかったような気がする。

それでバルハルグに最後の戦場を与えたかったんじゃないかな。

まあ、想像でしかないけど。

かといってもう大臣派は求心力失って死に体だったし

そんな大規模な戦を仕掛けることはなかっただろうし」

セリアの解釈が最もしっくりくる。


「…だが、バルハルグが選んだのはオズマだったぞ」

バルハルグはオズマとの決闘を選んだ。


「バルハルグにしてみれば数百の兵士たちよりもオズマさん一人の方が魅力的だもの。

目の前に極上のステーキがあるのにそれを選ばないわけないわよね」

そのセリアの言葉に俺は納得する。


「…」


「それに君とエリスがいたでしょう?

差し向けられた兵士はローファンとかいう魔族が倒したみたいだけどね。

…すべては私の推察の域を出ないけれど」

結果だけを見ればすべては誰の思惑からも外れていたというわけか。

全く人間相手は本当に一筋縄ではいかないようだ。


俺はそのままセリアと星を見続ける。



周囲は雪が吹雪いている。

一人の男がは木の上からカーラーンを見下ろしていた。


「オズマ…彼が傍にいる限りこれ以上の接近はひかえたほうが良いか」

オズマにこの場が嗅ぎつけられれば、戦闘になる可能性があるためだ。


ローファンはオズマを評価している。

外に自らの価値を見出す自身と対極であるが、その本質はある意味で酷似しているためだ。

オズマの在り方は常に自らの研鑽であり、それ故に北を飛び出した。

人間界において自身を徹底的に磨き上げた。

その武器を十全に愛でるために自身を成長させるというあり方だ。

手にした武器に合うだけの自身で在りたいというあり方。

良くも悪くも使い方を究めればそこまでだ。

ただし、上位魔族であるローファンは魔神に及ばないまでも相当強い。


オズマのように徹底的に武という一点を追及しているわけではない。

戦闘になれば手数は上だがどうなるかわからない。

二百年前、一応序列は自身の方が上だったが。


「ふむ。イーファベルドは王城の奥か。これ以上しでかせばあの方が黙ってはいまい。

名残惜しいがまた百年待つことにしよう。待つことも貴族の嗜みだ」

男は手にした双眼鏡らしきものを収納の指輪にしまった。


二百年前ちょっとした事件を引き起こしてしまったために、

王族関連に関わることをローファンは極力避けていた。


それに強奪というのは彼の矜持に反している。

彼が手出しできるのは所有物の持ち主がわからないときのみ。

そう言う意味では今回は彼にとって都合が良かった。


「それにしてもあの魔族は一体…。

この私が名も知らない魔族となれば齢百にも満たない若い魔族か。

それまで無名な魔族だが…」


脳裏に自分の前に立ちふさがった男の姿が浮かぶ。


衝撃的だった。


黒霜剣カルフィスタの攻撃を耐え、

紅貫弓パルミッサの必殺の一撃を相殺し、自身に一撃を加えた魔族。

かつて上位魔族の一角であった自分にである。

自身の力が昔よりも劣っているわけではない。

その上、発していた魔力には神力も交じっていた気がする。

考えれば考えるほど彼はその興味を掻き立てられた。


「調べる…か。よい余興になりそうだ」

彼はそうつぶやき雪の中に消えて行った。

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