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異世界の放浪記   作者: owl
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ばれました

目を開けると天井がそこにあった。

窓を見れば外は暗い。かなりの時間気を失っていたようだ。

上体を起こすのと同時に痛みが全身を駆け巡る。

痛みが左手にだけ全くない。俺は左手の感覚が戻らないことに気づく。


辛うじて動かせるもののもうすぐ動かせなくなるだろう。

死の足音が徐々に近づいてきているのをひしひしと感じた。


「いてて…情けないな」


「情けないじゃない」

気が付けばエリスが目を真っ赤に腫らしてこちらを見ていた。

どうもつきっきりで看病していてくれたらしい。


エリスは何度か何か言いかけて黙るを繰り返した後、頭を下げてきた。


「…すまなかった。気が付けば激情に駆られるまま特攻していた」


「いいよ。エリスだもん」

サルアの騎士たちからは白銀の姫騎士とか呼ばれてるが実際は残念騎士様だ。

泣き虫だし、おもらしするし、皿は割るし。

けどエリスの真っ直ぐなところは嫌いじゃない。


「な、なんだその言い方は。お前は私をなんだと思ってるのだ。

大量の吐血をして私がここまで運んできたのだぞ。感謝するべきだろう」


「ああ、ありがとうな」

俺の感謝の言葉にエリスは不思議な顔になった。


「…お前が吐血して倒れたときは死んだかと思ったのだぞ」

腕を組み真剣な表情でエリス。


「すまない」

言うまでもなく魔力を使ったことが原因だろう。

ローファン・ミリオスは強敵だった。

魔力抜きでの勝機はなかった。


「オズマ殿もこの件に関しては知っている様子だった。

ここまで心配かけてもちろん私にも理由は説明してくれるだろうな」

エリスからはどうやっても追及してくるというのが見て取れる。

エリスに隠せるのはもうここまでだろう。


「わかったよ。だが他言はしないと誓えるか?」


「ああ。誓おう」

俺は嘆息すると語り始めた。

俺が女神を倒した事を知っているのはあの六魔神除けばオズマとクラスタのみ。

それ以外には逃げられたと話してある。

そもそも倒したと言っても信じてはもらえないだろうが。



「かなり出鱈目な男だと思っていたがこれほどとはな」

すべて聞き終えたエリスはため息をつく。

女神を倒したと言ったときにはさすがに驚かれた。


「その時に女神…パールファダから呪いを受けてな。

魔力を使うと神力も同時に出るようになってしまった」


魔力と神力は相反する存在。

そんなものが体に同居している状況であるという。


「ゲヘル様は何と言っていた…」


「ゲヘルはこれが初めての症例と言っていた」

そもそも有史以来、神を討伐した魔族は初めてで症例自体無いとゲヘルは言っていた。

それは治療法自体が皆無であることを意味する。


「…」


「神力が魔族の心臓である核を削り続けているらしい。…もって三年だそうだ」

感覚の無くなった左手を見て、この調子だともっと早いだろうなと思う。


「三年…」

俺の言葉にエリスは青ざめ、絶望的な声を上げる。


「エリス、俺が居なくなった後のセリアを頼んでもいいか?

今回エリスに話せたのはいい機会だったのかもしれないな」


「自分のいなくなった後のことなど語るなっ」

エリスに胸倉をつかまれ、泣き顔で怒られた。


「…すまない」


「…何であなたはそんなに他人事なんだ?自身のことだろう。

あなたは自分が後三年で死ぬとわかっていてどうしてそんなに平静でいられる。

なぜ他人を気遣える?今回の魔族との戦いだってそうだ。

こんなことになるとわかっていて躊躇わなかったのか」


「…」

俺は返す言葉が見つからない。


俺にとってはオズマやエリスたちが誰かに傷つけられる方が怖い。

そのためになら幾らでも自分を犠牲にしてもいいと思っている。

だがそれを言えばエリスにさらに怒られそうなので口にはださない。


「一番つらいのはユウ殿だろう?」

エリスは泣いていた。


「ありがとう。エリス。

ただせめてセリアとあいつらの前では無様な最期は見せたくない」

それは俺のプライドだ。


「本当にあなたという男は…」

不意に胸倉を引っ張られる。

唇と唇が重なる。

どのくらいそうしていたのかわからない。

気が付けばエリスの顔が目の前にあった。


「…次無茶をしたらこんなものじゃ許さないからな」

そう言い残しエリスは逃げるように部屋を走り去っていく。


「…エ、エリスさん?」

思考が完全に停止する。

唇にはエリスの柔らかな感覚が残っている。


コンコン


「お、おう。どうぞ」

俺がそう言うとオズマが部屋に入ってきた。

「今エリスが駆け抜けていきました。主殿、顔が真っ赤ですが…」


「いいや、なんでもない。オズマ、エリスから大体の話は聞いているだろ。

あの男は何者だ?」

俺は強引に話題を変える。


「…魔族のローファン・ミリオネス。かつて上位魔族の最強の一角とまで言われ、

武器の蒐集を生業としており、今では人間界をさまよっている変わり者です」

やっぱりか。と俺は思う。

上位魔族最強の一角というのは伊達ではなく強かった。

魔力を使わなければ勝てないほどに。

なにより奴の対応力はすごかった。

収納の指輪の性能を十全に引き出した長距離、中距離、接近戦。

それに相手はまだその実力を出し切っていない。


『ルート』に監視対象として登録しておかなかったことが悔やまれた。

『ルート』に動く対象を動物として認識する機能はあれど、魔力感知は備わっていない。

消えてしまったローファンを見つけ監視対象にするのは困難。

次に会った時には即、監視対象決定だ。

このぼろぼろの体でもう二度とあんなのとの遭遇戦はごめんである。


「私が行ければ良かったのですが…」


「オズマのせいじゃない。俺は自分の役割を果たしただけだよ。

今回は偶然が重なっただけだ」

オズマの顔は沈んだままだ。


「…それでオズマの方はどうだった?」

俺は話題を変える。


「おかげさまで。イーファベルドです」

俺はオズマから渡された大剣を見せる。


「さすがだな。…バルハルグは強かったか?」


「ええ。久しく血がたぎりました」

オズマのその言葉に命を賭けても悪くなかったなと思える。


「そうか」

少しは主としての役目を果たせただろうか。

俺はイーファベルドを収納の指輪に収納する。


「これで終わりだな」

俺は安心してベッドに体を預ける。

ベッドに横になると眠気が襲ってきた。

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