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異世界の放浪記   作者: owl
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老将と狼

バルハルグ・イエルトーダの功績は数多くあるが強いてあげるとするならば

氾濫寸前の魔の森の鎮圧、

南方からやってきた征服王の撃退、

東方からの騎馬民族の討伐だろうか。

王国最強の名を冠するにふさわしい功績である。


これほどまでに名を轟かすことが出来たのは先代の王との厚い信頼関係があってのことだ。

逆に言えば外敵に脅かされていた時代であったとも言えるわけだが。


先王は秀でた才は特に無かった。

だがそれを悲観することもなかった。

自身よりも優れたものなどいくらでもいる。のであれば、彼らに託せばいい。

国家とは自身一人だけで動かすものではないのだ。

バルハルグはそんな先王に忠義を貫く。

先王の傍らには常にバルハルグがいたという。


先王は貴族らの反対を押し切りサルア国においての象徴であるイーファベルドを貸し与えた。

これは先王にとっての最大の功績とも言えるかもしれない。

(逆に一つ、先王が過ちを犯したとすれば、

王宮でのジルコック首席大臣の専横を野放しにしてしまったことだろう。)


公式記録でイーファベルドが使われたのは三度。

一度目は東方の騎馬民族との戦闘。

騎馬民族はおそった村々を皆殺しにするという残虐なものであった。

騎馬民族の騎馬の移動速度に騎士団はついていけず一方的な展開になっていた。

バルハルグは王からイーファベルドを借り、単身村で待ち受ける。

一カ月の後、騎馬民族の兵士たちがその村を襲う。

バルハルグはイーファベルドとともに騎馬民族と応戦。

千ほどいた騎馬兵をバルハルグがイーファベルドの一撃に薙ぎ払われたという。

騎馬民族の王は以後、サルアには手出ししなくなったという。


二度目はスタンピード寸前の魔の森にての行使。

国境を接する隣国の小国プラナッタにおいて魔の森が暴走しかけた

戦争が多発し、プラナッタの魔の森に割く兵が少なくなったために

魔の森を数か月放置し続けたためである。

暴走すればプラナッタだけではなくサルアまでその余波が及ぶ。

そこで友好国であるサルアが兵を出すことになる。

バルハルグはイーファベルドを使い魔の森の魔物を鎮圧する。


三度目は南方からやってきた征服王バルガーダとの戦いにおいて

征服王バルガーダは他国を占領し、その勢いとともにサルア王国の領地にやってきた。

補給路が長くなり、サルア軍と連合国側はそこを断ち切ることに成功。

征服王バルガーダはファルカッソ砦に籠城することになる。

イーファベルドにより征服王バルガーダの籠城するファルカッソ砦の城壁を破壊する。

これにより征服王バルガーダは敗走し、サルアは辛くも勝利する。

結果、征服王バルガーダはサルアの地から手を引くことになる。


この三つの功績によりバルハルグは救国の英雄とまで言われるようになる。


ただバルハルグ自身も征服王を退けた戦勝パーティの酒の席において

「イーファベルドは本来ならば使われてはならない力だ」

とこぼしている。


また三度振れば英雄になれると心無い貴族たちには揶揄する者もいるが、

バルハルグ以外、その力を満足に引き出せないという。

それどころか死ぬものもいるという。



バルハルグはそのイーファベルドを天高く掲げる。

意志をもった光がバルハルグを包み込む。

イーファベルドの力は生命力を破壊力に変換する能力。

バルハルグのもともとの生命力はたしかに高いがそれだけで力を引き出せるものではない。

生命力は人間という枠組みで見た場合、ほぼ差はない。

ただ、バルハルグは他の人間と一つだけ異なる点があった。


それは天然の法力使いであるという点である。

バルハルグは天然の法力使いのために変換効率が異様に高いのだ。


「オズマ殿、我が最期にして最高の一撃。受けてくださるか」


バルハルグの行うのはイーファベルドの最上の技。

城破壊クラスの極大技である。

古今東西の文献において、人間がこの攻撃を食らい耐えられたという記述はないという。

そもそも個人に放ったなど前代未聞である。

その上バルハルグは自身の全生命エネルギーをイーファベルドに込める。


「最上級破壊技。そんなものを行えば…。オズマさん逃げてくれ」

それを一度見たことのあるボルドスが声を上げる。

ボルドスの記憶ではそれは城壁を切り裂いている。

断じて個人に向けて放つ代物ではない。


オズマはそれを見て同じた気配はない。

それどころかオズマの闘志はさらに増している。


「見事なり人の子よ。よくぞそこまで練り上げた。…我も全霊を持って受けよう」

オズマの目が赤く光る。

槍を構えたオズマから吹き出すのは黒い霧。

黒のオーラが巨大な狼のカタチとなりオズマを包む。


バルハルグの光と対峙するのは黒い闇。


「アレは魔力…」

それを見ていた三人の男たちは驚きの表情を浮かべる。

それは魔族たちが扱うヒトならざる力。

オズマの構える槍の先に黒の霧が集まる。

それはまるで意志をもった生き物のようにオズマにまとわりつく。


「行くぞ。わが命をくれてやる」


「来い、人の子よ。受けて立つ」


イーファベルグとオズマの渾身の一撃同士が交差する。

決闘場において嵐のような爆風が吹き荒れる。



暴風が過ぎ去った後、決闘場の中心に立っていたのはオズマだった。


バルハルグはオズマの前方の闘技場の壁まで吹き飛んでいた。

バルハルグの腹部には大きな穴が開いている。彼は口から大量の血を吐き出した。


「…オ…ズマ殿、わ…しの最期の…願いを聞い…ていた…だき、言…葉も…な…い」

座り込みうつむきながらバルハルグは声を出す。

その表情はどこか晴れ晴れとしている。

命がバルハルグの躰から急速に失われていく。


「血がたぎった。こちらこそ礼を言う」

オズマは黒の槍を手にバルハルグを見下ろす。

鎧はところどころひびが入っており、肌の露出した場所には裂傷や打撲がある。


「イーファ…ベルドは…持っ…て行って…くれ。

本…当は…手渡し…した…かったの…だが…」

バルハルグの足元には血だまりが広がっていく。

オズマは足元にあるイーファベルドを拾い、背を向ける。



「従兄殿。私は一つ謝らねばなりません」


「知って…おった…よ。この…領…地を…維…持す…るためにし…たこと…であ…ろ…?」

バルハルグの言葉にエファルスは号泣する。


「…こ…こ…での…ことは…他言…無…用。

わし…の最…期の…願いだ。…聞いて…くれ…るな…」


「…」

三人は黙って頷いた。


「幾多の戦場を駆けてきて

こん…なに安らか…な気持ちに…なったのはいつ以来だろ…うか。

まさか…わし…がこ…のような…まともな…死に方を…迎え…ると…はな」

瞳から光がゆっくりと消えていく。


「さらばだ。猛き者よ」

オズマはそう言い残し、決闘場をあとにする。



決闘場から出た直後、オズマは跳躍し、主の元に向かう。

全力のオズマの跳躍は屋敷から彼を遠ざけた。


オズマの表情に焦りが現れる。

戦いの途中から臭ってきたのは魔力と血の臭い。

あの体の主が魔力を使うことを判断したのだ。

神の呪いを受けた体で魔力を使うことは自殺行為に近い。

今まで表情に出さなかったのは彼なりのバルハルグへの敬意があったためだ。


「主殿、どうか御無事で」

イーファベルドを片手にオズマは主の元に向かった。

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