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異世界の放浪記   作者: owl
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宴会です

「かんぱーい」

ドルトバの酒場で俺たちは杯を交わす。

俺とセリアはレッドベア討伐の祝勝会ということで半ば強引に飲みに付き合わされている。


「しっかし驚いたわ。

レッドベアが出てきたと思ったら頭が無くなってるわ。

気が付けばユウが倒れてるわ」

ルーカスがこちらの首に腕を回してくる。

「し、しまってますって」

俺はルーカスの手をタップする。

全然力が弱まりません。

タップと言うものが存在しない

「改めて礼を言わせてくれ。おかげで誰一人欠けることなく任務が終わらせられた」

ダールが頭を下げてくる。


「いえ、こっちは寝ていただけですから」

というかルーカスさん、いい加減にホールドを解いてほしい。


森の中で倒れた俺をダールさんがかついで村まで連れてきてくれたという。

本当にこの人には頭が上がらない。


「ほんと大変だったんだからよ」

既に酔っているルーカスが頭に拳をぐりぐり押し付けてくる。

「やめてくださいってば」



あの後、俺は実に半日の間、意識を失っていたという。

「ユウ」

目を覚ますといきなりセリアが抱き着いてきた。


セリアは俺が倒れ混乱する中、ずっと寄り添っていてくれたのだという。


俺の希望もありその日のうちにドルトバに戻ってきた。


あの二匹はどうやら番だったらしく、巣にいた子供は処分されたという。

あのまま放っておけば人間に害をなすからだという。

非難はできない。ここにはここでのやり方がある。


レッドベア討伐をギルドへの報告を終えると俺たちはそのまま酒場へ連行された。



「それにしてもすごいな。投石か。あれは」

レッドベアの頭がふき飛んでいたらしい。

後から聞いたが我ながらとんでもない威力だと思う。

ちなみにあれでも本気ではない。


「あれなら魔物を倒しても納得よね。ねえ、他にどんな魔物を倒したの?」

イアルが興味津々と言った感じで聞いてくる。


「アルミラージとかグランボアですねぇ」

木イチゴのジュースを飲みながらセリア。

グランボアというのは少し大きめのイノシシのことを言うらしい。


酒を飲んでいた三人が一斉に噴き出す。

ほらやっぱりこういう反応。


「そう言えばあのシチューに入ってた肉は…」

一日目の晩に出した肉のことだ。


「それですね。悪くなるので」


「うわ、アレ、高級食材だったなんて…。肉の味が思い出せねえ」

ルーカスが目の前を手で覆いながら嘆いている。


「もう少し味わって食っておくべきだった」

目を閉じて思い出すようにルジン。


「投石で…信じられん」

ダールは投石で倒したことを心底驚いている様子。


「今日から狩人になれるわ。いや、なりなさい。私が手取り足取り教えてあげるわ」

次はイアルに頭をがっちりホールドされる。

ふくよかな胸が頬にあたる。

これはこれで悪くないかも…。

それを見たセリアがこちらの左腕に抱き着いてくる。


「ユウは私とカーラーンにいく約束をしてるんです。渡しません」

セリアから腕を引っ張られる。


セリアさん、アルコールは飲んでいないはずなんだが…場酔いしているのか?


「よう、ユウ。もてもてじゃないか」

声の方に視線を向けるとラクターがいた。

ラクターは当然のようにダールの隣に座ってくる。


「ラクター、お前ん所のギルド忙しいんじゃないのか?」


「魔物騒動は一服したよ。昨日からぱったり報告もなくなった」


「それなら俺たちも定常業務に戻れそうだ」

ラクターの声にダールは肩を落とす。

もともとダール達はここドルトバの警備兵なのだ。


「その前に休暇だな。もう一週間ぐらいのんびり釣りでもしてえ」

ルーカスは釣りの真似事をする。

「あんたはそのまま帰ってこなくてもいいよ」

ジョッキを片手にイアル。

ちなみに俺は未だにイアルに頭をホールドされたままだ。

「おう、なんだ?おれとやるってか」

ルーカスとイアルがにらみ合う。

店内では二人をはやし立てる。


「それでユウはどうだった?」

ラクターの問いにここまでの経緯をダールが話す。


「すごいな。レッドベアの頭部を一発か。俺の評価もまんざらでもないらしい。

『投石のユウ』とでも名をつけようか」

つまみを口に入れながらラクター。


「嫌ですよ。そんなかっこ悪い二つ名。それよりギルドカードは?」


「大体できてる。明後日取りに来い。報酬もそんときだ」

ラクターは豪快に笑う。


「報酬?」


「アルミラージの魔石の分と今回のレッドベアの討伐の分だな」


「支払いはきっちりがお前のところじゃなかったのか?」

ダールは口をとがらせる。


「手持ちがねえんだよ。連日の魔物騒動でギルドの金庫もからっぽだ。

領主のところの支払いはこれからだし、魔物騒動で魔石の商人もマルフィーナ街道の途中で足踏みしてら」

ラクターはお手あげと言ったポーズをした。


「お、葡萄酒が来たな」

ここでラクターの分の葡萄酒がジョッキで運ばれてくる。


「それじゃ、仕切り直しだ。かんぱーい」

再び乾杯の声が店内に響いた。

まだまだドルトバの夜は始まったばかりだ。



昨日を境に森から魔物は消え去った。

そして、そのことがこれから始まる未曽有の騒動の幕開けになることを

この時、ここにいる者たちは誰一人として知らなかったのだ。

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