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異世界の放浪記   作者: owl
89/121

6-10 魔族が現れた

俺たちは木々の上を飛ぶように移動していた。

どこぞの忍者漫画の様な感じである。

ただし、そう都合よく足場となる枝があるわけがないのでちょいと大変だが。

地面を駆けるよりもこちらの方が早いのだ。

幸いエリスもついてきてくれる。


反応の会った場所に近づいてきたので『ルート』の画面を見る。


「そろそろだが…どうしたユウ殿?」

エリスが俺の表情を見て不審がる。


「二千人いた兵士の反応が消えている…」

俺の周囲三キロの範囲以内に二千の兵士の反応はきれいさっぱり消えていた。

狐につままれたような感覚を覚える。

決闘場を出る前に上空から映像として二千の兵士を確認していた。


移動を開始してからまだ数分しかたっていない。

この数分で三キロ以上移動したことになる。

騎兵もいたが、重い鉄の甲冑を着ている歩兵もいたのだ。

それらすべてを数分で三キロ移動するなど不可能だ。


とするならば『ルート』の誤作動?

反応のあった距離もかなり近づいてきている。

画面を変えるよりも直に見たほうが早いだろう。


「とにかく反応のあった場所はもうすぐだ。エリス、油断はするなよ」


「ああ」

視界が開ける。道に出たのだ。

俺たちはその光景を見て息を飲む。


血の臭いが辺り一帯を包んでいる。

地面は血の海で兵士たちは全員倒れていた。

地面に倒れた兵士たちは誰一人として息をしていない。


一人のシルクハットをかぶった者だけが立っている。

間違いない。この男がやったのだ。


ジェノサイド。

この男が二千人いたはずの兵士たちを虐殺した。

それも俺たちがこの場所に駆けつけるわずかな時間に。


「この時代の兵士も大したことないものだな」

嘆息交じりにその男はつぶやく。


「お前がこれをやったのか」

エリスから放たれているのはかつて感じたこともないような怒気。


「そうだが?」


「お前がぁ」

魔剣レヴィアを抜刀するとそのままエリスは一直線に向かっていく。

魔剣レヴィアの力によりエリスの進む場所に風が吹き荒れる。


魔剣レヴィア、それは大気を支配する。

刃ならば大気を凝縮させ、その刀身を延長させることもできる。

魔物との戦いの中でも何度か使っている。


「やめろ、エリス」

俺は大声を出してエリスを止める。


ここで使ったのは面としてだ。

空気抵抗を受けないエリスは怖ろしいまでの速度でその男に接敵し、

剣を突き立てる。


エリスの攻撃を受け止めると男の周囲が衝撃で破壊される。

エリスの所持する魔剣『レヴィア』による衝撃波である。

エリスの法力を使った全力と魔剣『レヴィア』を足した攻撃。


だがそれは男のステッキに受け止められた。


それをやすやすと受け止める辺り、この男の力はエリスを凌いでいる。

嫌な予感がする。


「エリスっ」

俺の声にエリスはぴくりとも反応をしめさない。

多くの人間の死体を見てエリスは感情の抑制が飛んでしまっているようだ。


「これはなかなか。『無仙ブルフェン』の防御フィールドを突破してこの威力。

…まさかそれは魔剣『レヴィア』?なぜそれを人間ごときが手にしている」

魔族の表情に動揺が走る。


「お前がぁ」

エリスは自我を失うほどに激昂している。


「会話にならんな。まさに獣だ。少し頭を冷やすといい」

そう言うと男はエリスを斜め上に蹴飛ばす。

直後、男の手にしたステッキが消え、

代わりに真っ赤な弓が出現する。男はその弓を引き絞る。

それには見覚えがあった。


(収納の指輪!)


男は弓を引き絞るとエリスに向けてその矢を放つ。

俺はすかさずエリスの前方に結界を張る。


「ぐっ」

瞬間、魔力を使用したことにより、体を焼けつくような痛みが走った。

簡易な結界であったため、一瞬で吹き飛んだ。だが矢の威力はだいぶ殺せたようだ。


エリスは矢を剣で受け止めるが、エリスの全体重でもその威力は殺しきれていない。

幾らエリスに力があろうと地面と足が接していなけれはその力は出せないのだ。

矢ごとエリスの体は木にぶつかり止まる。


「エリス」

エリスは脳震盪でも起こしたのか、気を失っている。


「ほう、死んではいないようだ。これからどうするかまでは考えていないがね」

赤い弓を手にこちらを見ながら男。


「紹介が遅れてしまったな。私の名はローファン。ただの蒐集家だ」

恭しく男は帽子を取り頭を下げる。


「フム、その身から若干だが魔力を感じる。君もどうやら魔族の末席のようだな。

そこを引いてはもらえないだろうか?イーファベルドが私を待っているのだ」


「イーファベルドが目的か?」


「そうだ、アレはカムギムラン・コレクションの頂点の一本。

人間には過ぎた代物だ。魔族である私ならばその性能を十二分に引き出せる」


「ローファンさん、そちらこそ引いてはもらえないか?」

ここで虐殺をしたのは許せない。

だが、戦えばこっちも無事ですまない。

何より俺は今の状態では魔力を満足に扱えない。


「私に引けと?私はこの時を百年以上待っていたのだぞ?」

ローファンはこちらに向けて殺気を放つ。

まともな人間なら怯むのだろうが、

こっちはこんな殺気が可愛く見える連中と何度か戦っている。


「ほう、これで怯まないとは。愚か者か大物か。

それに…その手にしているものは私のものとよく似ているな」


「収納の指輪か…」

男の手に付けているのは収納の指輪。


「これはかつて私が崇拝する魔神の一柱より頂いた収納の指輪。

君の持つそれとは性能の桁が違う」


…魔神の一柱…?ゲヘルのことかな?


「…その魔神って…」


「私の前に立ったのだ。試させてもらうぞ。紅貫弓パルミッサ」

言い終わる前にローファンは矢を放つ。

俺は森の中に走り来む。


赤い閃光が数本の木ごと貫いてこちらの方向へ向かってくる。


俺は体勢を崩しつつそれを躱す。

着地したところにまた矢が向かってくる。

今はとにかくエリスと離れた場所にこいつを導くのが先だ。

気絶しているエリスは人と変わらない。

巻き添えを食えばひとたまりもないだろう。


次弾がこちらめがけて進んでくる。俺は体を捻ってそれを躱す。

しかも次の矢を発射する間隔がほとんどない。


精度、貫通力、連撃性能。

そのどれをとっても俺の投石の比じゃない。

俺は投石による攻撃を諦める。

距離を取っての戦いでは戦闘にすらならない。

戦いに持ち込むためには距離を詰める必要がある。


「これはカムギムラン・コレクションの紅貫弓パルミッサ。

この弓の持ち主はこれを使い戦場においてあまたの大将首を取ったという」


ローファンは矢を放ちながら得意気に語る。

相手の間合いに入りさえすれば…。


俺は弾丸の様な矢を躱しつつ、ローファンとの距離を詰めていく。

俺はローファンが自身の間合いに入ったのを確認し、鞘のついた『天月』を振りかぶる。


「お見事」

ローファンは一瞬で武器を持ち変える。

手には剣ほどの大きさの鉈が握られていた。

収納の指輪を使った隙のない武器交換。


俺はその一薙ぎを『天月』で受けるが俺ごと吹き飛ばされる。

周囲の木々が一緒に薙ぎ払われる。

見えない巨大な刃といったところだろうか。

かなりの力技な武器である。


「カムギムラン・コレクション黄嵐鉈エルドバッハ。

人間が使えばそれほどではないが、

この魔族であるこの私が使えば威力は見ての通りのものになる」


俺はその爆風にされるがままに吹き飛ばされる。

相手との距離が一気に開いてしまった。

これでは間合いが詰められない。


「カムギムラン・コレクション蒼円閃ドバルサン」


次にローファンが手にしたのは巨大な丸い円形の形をした武器。

ローファンはそれをフリスビーのように片手で投擲する。

ローファンの手から離れるとそれは十倍ほどに巨大化する。

空中では身動きが取れず俺はそれを『天月』で受けつつ、後方に押しやられる。


振り出しに戻った感じである。この距離からまた接近する正直痛い。

同時にこういう戦い方もあるのだと心の片隅で感心していた。

ふとローファンに目を向けるとその姿が消えていた。


見失った。俺は焦る。


「こちらです」

ローファンの声に見上げると上空にローファンが黒い剣をもって頭上にいた。


「カムギムラン・コレクション黒霜剣カルフィスタ」

ローファンがそう言って黒い剣を横に振ると何千何万という黒い棘が上空に出現する。

俺はそれを見て固まる。


「かつてこれを持った人間は数千の大軍を一人で相手取ったという。

キミは私に感謝しなくてはならない。この素晴らしい作品たちの手で死ねるのだから」


ローファンが剣を縦に振るとそれらはすべて俺めがけて降ってきた。

俺の視界が黒く染まった。

一際大きな豪音が森の中に響き渡る。

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