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異世界の放浪記   作者: owl
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戦いの前です

早く起きたボルドスは決闘場に向かう。

日の出まではまだ時間がありまだ薄暗い。

決闘場の中心にはボルドスが一人立っていた。

体からは闘気が立ち上っている。


「早く起きちまってな」


「わしもだ」

片手にある酒を飲みながらバルハルグ。

バルハルグの丸太の様な腕が震えていた。


「親父…震えているのか?」


「ああ、昨日からオズマ殿を見てからというもの震えが止まらなんだ」

バルハルグのその言葉にボルドスは怪訝な顔をする。


「確かに歩くさまに軸が全くぶれていない。かなり訓練されているように感じたが…」

ちなみに反対側にいた女の方もである。

もしあの場で戦闘となればかなり厄介なことになるとも感じていた。


「一目見たときから気配が異常だと感じた。

無駄のない身のこなし。それでいて全く隙が見当たらない。

以前見かけたときはそれほどは感じなかったのだが対面してみれば

まるで洗練された大きな獣を目の当たりにしたような感覚を覚えた。

武の化身…武神とはあのような者をいうのだろうな」


ある程度の実力があれば直感が働く。

それは経験や感覚によるものだ。


「武神…」

ボルドスはバルハルグの表現に眉をひそめる。

ボルドスにとってバルハルグ以上の猛き者を知らない。

親父と慕い、今までその背中を追ってきた。

そのバルハルグが神と呼ぶ存在。

ボルドスには想像もつかない。


「武神様に喧嘩を挑んじまったんだ。わしは今日確実に死ぬだろう」

バルハルグは当然のように語る。


「親父、あんたはそれで満足してるのか?」


「覚悟はしておったさ。武人たるもの死は常に身近にある。

…もうわしと同じく入った仲間は皆既に鬼籍だ。

わしだけがなぜかここまで生き残った」

騎士というのは死と隣り合わせだ。

そういう職業であるゆえに皆から尊敬される。


「それでも俺たちは…」

ボルドスが言いかけるとバルハルグに肩を軽く叩かれる。

大きく巌の様な手。

どれだけこの手を頼りにしてきただろう。

どれだけこの手に助けられただろう。

ボルドスはそれを思い返し、目頭が熱くなるのを感じた。


「わしらの時代はすでに終わった。

これからはお主たちのような若者が時代を切り開いていくべきだ。

今日の戦いはわしの人生の集大成と言えるものやもしれんな」

ボルドスは天を仰ぐ。

空は雲一つなく澄み渡っていた。




間もなく決闘が始まろうとしている。

俺は朝食を終えるとエリスとともに決闘場にやってきた。


決闘場では体を温めるためか、バルハルグが素振りをしている。

怖ろしく速く、鋭く。

剣を振る音が離れたこちらまで聞こえてくる。


「あの歳で大剣のキレが半端ないぞ。本当に人間か?」

俺は男の動きを目で追う。

齢六十を超える男が行う素振りとは到底思えない。


「…あれは天然の法力使いだな」

法力とは生命力を力に変換する技術だ。

エリスは女ながらも法力を使って

物理法則を超える常人の何倍に相当する力を使える。

食事の量が常人の数倍になるという欠点もあるが。


「そんなの存在するのか?」


「ああ。そのうち何人かは見たことがある。

武芸に通じたものが無意識に法力を使いこなすんだ。

その誰もが達人と呼ぶ人たちだった」

エリスが敬意を払っているのがわかる。

思い返せば昨日の夕食の席でバルハルグは人一倍飯を食っていたと思う。


「これならばあのオズマ殿と互角に渡り合えるかもしれんな」

元勇者のエリスと比べてもオズマは頭一つ抜けている。

魔族と言うポテンシャルの高さに甘んじることなく、

技量を追及している様はエリスから見てシャレにならないという。


「邪魔をしないようにしたいものだな」

これはオズマが自ら選んだことでもある。

邪魔はしないし、させるつもりもない。


『ルート』から警戒音が脳裏に響く。

『天の目』を使って昨日から半径三キロの人の出入りはチェックしている。

かなりの大人数がやってきた様子。俺はその場所の映像に切り替える。

拡大すると武装した兵士たちがこちらに向かってくる最中だった。


「エリス、こんな時にお客さんのようだ」


「規模は?」

エリスの顔色が変わる。


「北東方向から歩兵二千。武装した兵だ」

『ルート』を通して正確な数が送られてくる。

相手の進行速度、到達時時間、予想ルートまで。

俺のいた世界の○ーグルに近い。

軍事転用したら一国が世界征服できる代物だと改めて思い知る。


「主殿」

オズマもこちらのしぐさから何かを感じ取った様子。


「オズマ、心配するな。お前はバルハルグどのとの戦いに専念しろ」

俺はオズマの肩を軽く叩く。


「…わかりました。御無理はなさらぬよう」

オズマはそう言って一礼する。


「エリス、俺たちでつゆ払いといこう」


「ああ」

人間相手に魔力を使う必要はない。

『ルート』で見たところ指揮官らしき人間もいるし、そいつを捕らえてお引き取り願おう。

ただの人間には無理な作戦だが俺とエリスならできると思う。


「オズマ殿とバルハルグ殿の戦いを見られないのは少し残念だな」


「その点なら心配するな」

ちょっと惜しいので俺は二人の戦いを『天の目』で録画しておくことにする。

上空からの視点でちょっとアレだが。


「用事が出来たのでな。俺たちは少し席を外す」

そう言って俺はエリスと共に屋敷の外に向かう。


「待て、それなら俺も」

ボルドスはどうやら察した様子だ。

剣を手に取りこちらに駆け寄ってこようとする。

昨日一緒に飲んだが気取らないいい男である。


「ボルドスは俺たちの代わりにも二人の戦いを見届けてくれ。

こっちは俺たちだけで十分だ」

俺はボルドスに微笑む。

親父と呼ぶぐらいの人の最期の決闘だ。

それを見られないのは親の死に目に会えないのと同じである。


それにもう一つ、エファルスが気になる。

昨日聞いた話だと彼は大臣派だという。

さらにイーファベルドの返還にも反対していた。

試合中、試合が終わった後、何か仕掛けて来るとも限らない。

ボルドスは昨日話してみたが、バルハルグよりである。

保険という意味でも残しておくべきだと思う。

…まあ、オズマだし返り討ちにするとは思うが。


「…すまない。恩に着る」

ボルドスは俺たちに向かい頭を下げた。

この男の義侠的なところは結構好きだ。


俺とエリスは決闘場を後にする。

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