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異世界の放浪記   作者: owl
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夜空を眺めながら

テラスで一人で空を眺めていた。

女神の呪いのせいで痛みで眠れないのだ。


外の風はひんやりと冷たい。

人間ならばとても外に出ていられる寒さではないのだろうが、

魔族である俺ならば耐えられないわけではない。


季節は冬であり、空気は澄んでいて星に手が届きそうだ。

星を見るには最高の体になったというべきか。

あと何回こんな景色を眺められるのかと思うとちょっとだけ寂しくなった。


そんな中、オズマがやってきた。


「オズマも眠れないのか?」


「主がこちらにいるのを見かけまして。…引き受けてしまってすみません」

オズマは俺に謝りに来たようだ。


「すみませんも何も、オズマに選択を任せたのは俺だ」

その件で責められるとすれば俺だ。

オズマをどうこうするつもりは微塵もない。


オズマはそのまま俺の横にやってきた。


「…あの老将を見て少しだけ昔を思い出しました。

私が人間の社会に入るきっかけを作った男を」


「オズマが騎士団に入ったのはその男の影響か…」


「はい」

オズマは命令がなければ集団行動をしない気がする。

その関心のほぼすべてが内に向かっているのだ。

オズマは常に研鑽を続け、自らの頂点を究めようとするだろう。

誰にも従うことなくただ一人、頂点を目指す。

それは孤高ともいえる在り方。

短い付き合いだがオズマはそう言う男だと理解している。


「どんな男だったんだ」

オズマの在り方を変えた男に少しだけ興味が湧いた。


「不器用な男でした。ずぼらで、あけすけで、仲間から顰蹙を買うこともしばしば。

ですがその男の周りには不思議と人が集まりました。

想えば私も奴に引き寄せられた一人だったのかもしれません」

語っているオズマの顔はどことなく柔らかく感じた。


「オズマが昔のことをしゃべるのは珍しいな」


「失礼。出過ぎたマネをしました」


「いいや。うれしいよ。オズマは自分からは自分のことを語ってくれて」

初めてのような気がする。

それだけ気を許してくれたと思ってもよいのだろうか。


「主殿」


「…こんな体になってしまったけどオズマはまだ俺を主を認めてくれているんだな」

オズマにはすでに話してある。

女神との戦いにおいて『女神の呪い』を受けてしまったこと。

そして、俺が自身の先がもう長くないことも。


「ラーベとの約束はもういい。

こんな命の残りカスに最後まで付き合わなくてもいいんだぞ」

正直これ以上いたらかなり無様な様をオズマにさらしてしまう。

俺には痛みとともに命が削られていく中でいつまでも正気でいられる自信がなかった。


「…たしかに始めは命令からあなたに従いました。

ですが今は違います。私は自らのぞんでこの場にいる」

ちょっとオズマの言葉に驚く。

オズマは俺は一人の男として評価している。

寡黙で自分に厳しく、不器用な面はあるが一人の男として尊敬もできる。

本来ならば俺なんかが部下にするとかとんでもない話だ。

そんな男に慕われる要素などない気がするんだが。


「腕だけではありません。あの女神に立ち向かった勇気。

人間であろうと魔族であろうと分け隔てなく接する優しさ。

さらに死を前にしてのその変わらぬ胆力。

…今はあなたの配下であることが誇らしい」


「オズマ、いくらなんでも買いかぶり過ぎだ」

オズマの言葉に聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた。

俺は何も持っていないただの魔族だ。

それなのに魔族たちは何故俺に対する評価がこうも高いのか。


「いえ。買いかぶってなどおりませんよ」

にこやかにオズマ。

もうやめてください。

褒め殺しという言葉があるが、それが今の俺にはぴったり当てはまる。


「…主殿はまだこちらに?」


「俺はもう少し星を見てから戻るよ」

部屋に戻るのは顔のほてりを冷ましてからにしよう。


「わかりました。私は槍の手入れをしてから寝ましょう。では」


オズマにここまで言わせてしまっては

最期まで主らしくしていないといけないらしい。

体が女神の呪いで壊れかけている状況で。


「…もう少し楽に終わるつもりだったんだがな。腹を決めるか…」

最期は一人でひっそりと死を迎えるつもりだったのだが、

世の中本当にままならない。


星を見ていると『ルート』から通信が入る。

どうやらネズミがかかったようだ。


夜間、この屋敷周辺から人が出ることがあれば連絡が入るように設定しておいた。

なんだかんだ言ってネイアからもらった『天の目』は便利である。

いかに俺が魔族であろうと第六感を使い監視を途切れなくするのは困難。

魔族も一応生物ではある。

剣と魔法の世界に人工衛星とか…オーバーテクノロジー万歳。


屋敷から出た人影を拡大する。夕食で見かけた屋敷のメイドで間違いない。

そのメイドは屋敷の外に出て不審な男と落ち合っている。

恋人の逢瀬か、どこかの貴族の間諜か。

前者ならば特に問題はないが、後者ならば面倒事のタネになる

状況から考えるに後者の方が可能性は限りなく高い。

一応男に『天の目』の監視をつけておく。

離れていても監視をつけておけば何処にいるのかすぐにわかるのだ。

どうもきな臭くなってきた。面倒事は重なるらしい。


捕まえて吐かせるか。このまま泳がせて様子をみるか。

そんなことを考えていると不意に背後からの声がかかった。


「ユウ殿ここにおられましたか」

声の主はバルハルグである。酒が入っているのか顔が赤い。


「少し星を見ていました。ここは星に手が届くように思える」


「オズマ殿との決闘の件、感謝したします。

私は幸せ者だ。こうして最期を戦士として迎えられる」


「それならばよかった」

その価値観は全く理解できないが、満足してくれたのならそれ以上は何も言うまい。


「…あなたには話しておかなくてはならないでしょうな。エドワルド王との密約を」

バルハルグはそう言って話を切り出す。

密約と聞いて穏やかではない。


「実は私は一度エドワルド王に軍の力を使うことを進言しました」


「ですがエドワルド王はそれを拒絶し、私が自身の領地に引きこもることを提案なされた。

あの当時、大臣派は貴族の大多数を締めておった。

軍の指示を得られたとして国が二分しての争いになっていたでしょう」


「戦火を逃れるためにエドワルドはあえて軍を遠ざけたのか」

俺の言葉にバルハルグは頷く。


「あの方は真にこの国のことを一番に考えていらっしゃる。

だが、現在のこの国はあまりにも脆弱過ぎる。

春になる前に軍を整えておかなければ他国からの侵略もあるやもしれん。

…ユウ殿、出来る限りあの方の力になってはもらえないでしょうか」


「悪いがそれはできない。こっちにも事情がある」

俺は魔族である。

魔族と手を組む行為は国家間で決められているらしい。

つまりあまりおおっぴらな協力をしていれば、ばれたときに大きな反動がある。

サルアの立場は相当悪いものになるだろう。


「…だが、俺たちのできる範囲で助力しよう」

あくまで俺たちができる範囲でだ。

それ以上は国が滅ぼうが関与するべきではないと思っている。

人間社会に深く関わるつもりはない。


「感謝する」

バルハルグが深く頭を下げるさまを見て、

忠臣とはこういう男をいうのだろうなと一人思った。

この男は心から国を想っているのだ。人がついていくのもわかる気がする。


「それと風邪で明日戦えないというのは無しだぞ」


「はっはっは、もっともですな。折角大陸屈指の強者と戦えるのです。

戦士としてこれ以上の誉はありませんな。ユウ殿と陛下にこれ以上ない感謝を」

バルハルグに言われて俺ははっとなった。

エドワルドがバルハルグの元に俺と一緒にオズマを向かわせたのは

こういった思惑もあったのかもしれない。


「…従弟のエファルスは大臣派ともつながりがある。気をつけられよ」

去り際にバルハルグ。


「身内を他人に売るようなまねをしていいのか?

これはあなた自身が裁くべき問題だろう」


「…私は奴を責められぬ。

軍務につく傍らで領地の経営を任せっぱなしにしてきたのだ。

もし何かあれば…わしの代わりに頼む」


「…どうなっても化けて出るなよ」


「…ユウ殿、何から何まですまぬ…」


「俺のことは別にいい、あんたは明日のことだけ考えてろ」

そう言って俺はバルハルグを追い返す。

不器用な男だと思った。


面倒事が増える気配がでてきた。

なんだかんだ言ってこの国は嫌いじゃない。

勝手に処理させてもらうことにする。

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