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異世界の放浪記   作者: owl
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老将と話しました

「その話、了承した。イーファベルドは返上しよう」

バルハルグは王からもたらされた書簡を読むと俺たちにそう返事した。

いきなり終わった。もっとこじれるかと思った。


猛将バルハルグは好々爺と言うような表情をしている。

重そうな甲冑に身を包み、豊かな髭を蓄えている。

その体つきからは大きな岩を連想させ、余計な贅肉は見られない。

老いてはいるがまだまだ現役でいけそうな感じである。


バルハルグの周囲には三人の取り巻きの男たちがいる。


一人はエファルス・イエルトーダ。

バルハルグの従弟である。

見た感じ五十代。剣の腕はそれほど噂にはならないが、この領地経営を任されている。

目つきが鋭く、表情を崩さない。服装は整っており、しわ一つ見られない。


ノールト・イエルトーダ。歳はこの中でも一番若い騎士である。

十代半ばあたりだろうか。まだ顔つきに幼さを残している。

バルハルグの後継と言われているがまだ若く、ボルドスに弟子入りしているという。


ボルドス・ラッペルス。

バルハルグを父と仰ぎ、武術大会でも何度も優勝し続けるサルアきっての剣士だという。

大臣派から何度も誘いを受けるが、バルハルグへの忠誠を誓っているために

バルハルグの元に一人残り続けた男だ。


ちなみにこれらは後で知る情報だ。

この中で俺とボルドスとノールトとは後にちょっとした関わりを持つことになる。


「本当にそれでよろしいのですか」

エファルスが声を上げる。


正式な返還請求。

これはエドワルド王に従うか、それとも従わないかの踏み絵でもある。

万が一にでも従わない場合は暴力に訴える選択もありうる。


「わしが自身の領地に引きこもったのはのは国が乱れることを憂慮してのことだ。

大臣派が消えた今その心配もなくなった」

バルハルグは清々しい笑みを浮かべる。

そもそも大臣派が女神教に走るという凶行に及んだのも

このサルアの軍を牛耳るバルハルグの支持が取り付けられなかったためだという。


「わしはエドワルド王の人柄は存じておる。性格には一癖あるが

あの方ならばこの国をきっと正しい道に導いてくださると信じておる」


俺はそのバルハルグの意見には同意する。

エドワルドは性格的には多少の問題はあるが私心はなく、

民のことを第一に考えられる王だと思う。


「…おそれながらイーファベルドは国の武力の象徴。我々がもつことに意味があるかと」

横からバルハルグの傍らのエファルスが声を上げる。


「エファルス、口を慎め」

バルハルグの一喝にエファルスは黙る。


「イーファベルグは先代から託された剣。

わしらがいつまでも持っていていい代物ではない。王に返す時が来たのだ」

諭すような口調でバルハルグ。

バルハルグは元軍属だけあって潔い。


「…親父殿の考えに賛同する」


「私もです」

ボルドスとノールスが賛同する。

エファルスだけが苦い表情を作っていた。


「客人、見苦しいところをお見せしたな」


「いえ」

俺は万が一には実力行使という選択肢を考えていたために

その選択肢が消えてくれたことに胸をなでおろす。

何事も無ければそれが一番なのだ。


「そなたたちを歓迎しよう。今日はこの屋敷でゆるりとしていくがよい。

…ところでそちらの黒騎士は七星騎士団のオズマ殿とお見受けするが」

バルハルグの一言に取り巻きの三人が顔色を変える。


「元だがな」

オズマは表情を変えることなく言い切る。


「あの…現行最強と名高い…」


「なぜこの国に…」

取り巻きの三人は驚き、目を見開く。

オズマさん、どれだけ有名なんだよ…。


「はっはっは、一度だけ式典において見かけたことがあるが、全く容姿が変わらぬな」


「容姿がどうあろうと私は私だ」

オズマは全くぶれない。

魔族であることがばれるかもしれないと一瞬頭をよぎったが杞憂のようだ。


「はっはっは、その通りじゃ。これは愉快」

膝を叩きバルハルグは豪快に笑う。


「…ユウ殿、一つ願いを聞き入れてはくださらんか?」

バルハルグは笑うのをやめ、真顔で俺に向き合う。


「何でしょう」


「バルハルグはそこのオズマ殿と一騎討ちを所望したい」

バルハルグの提案に俺は少しだけ驚く。


「どうか、この老兵きっての最期の願いだ。

七星騎士団最強、ひいては大陸最強とまで言われたオズマ殿と最期に戦ってみたい。

どうかこの老兵に最後の戦いの場を与えてはくださらんか」

バルハルグは椅子から離れ、平伏し頭を下げる。


「わしの体はすでに病魔に侵されておる。もって一年と言ったところじゃろう。

…病床で死ぬぐらいならば戦いの中で死にたいのだ」

バルハルグの告白にその場が静まり返る。


「俺からもお願いする。どうか親父の頼みを聞いてやっちゃくれないか?」


「私からもお願いします」

ボルドスとノールトも頭を下げる。


「主殿…どうします?」

このバルハルグの提案にオズマは困ったようで俺の方を向いて判断を仰いでくる。

その場にいる視線がすべて俺に向けられる。


「指名されたのはオズマだ。オズマのしたいようにすればいい」

エドワルドからはイーファベルドを持ってくるようにとしか言われていない。

決闘を受けることには問題はない。


「…手加減はできないぞ」

オズマはバルハルグを見つめる。


「すまぬ。わしの我儘に着き合わせてしまって」

にやりと口端を上げてバルハルグ。


「かまわない」

オズマは表情一つ動かすことなく承諾する。


元よりこんな簡単にことが済むとは思っていなかった。

オズマが応じると言ったのだからそれを拒否するつもりはない。

一応主と呼ばれているのだからぐらいの度量は持っていたい。


それに気になることもある。

かくて明日、バルハルグとオズマの一騎打ちが決まる。

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