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異世界の放浪記   作者: owl
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領地に行きましょう

そこはとある南方の国。

その庭園には大きな池があり、木々が青々と茂っている。


二人の男がテーブルをはさみ向かい合って座り、剣を手に取っていた。

一人は腹の出た小太り気味の商人風の男。

もう一人は片眼鏡をつけた痩せたスーツを着た男である。

それぞれが手にした剣に魅入っている。


「この刀剣の目の冴えるような銀は見ていて飽きませんな」

片眼鏡をつけた男がうっとりとした表情でそう漏らす。


「…これほどの逸品。なかなかのものをお持ちで」

太った男が嘆息とともにつぶやく。

二人はなめまわすように剣を見た後、互いに剣を鞘に納める。


「そちらの一品もなかなかでした」


「手にしている無仙ブルフェンと交換ではいかがかな?」

小太り気味の男が男の顔色をうかがいながら質問する。


「これは私のお気に入りだ。交換に出すつもりはない」

片眼鏡の男はにこやかに拒絶する。


「それは残念ですな」

小太り気味の男は残念そうに肩を竦める。


小さな蝙蝠がやってきて片眼鏡の男の肩に止まる。

すると男はすっと立ち上がった。

「探し物が見つかったようなのでね。私はお暇させていただくよ」

そう言って男は横の椅子に置かれたシルクハットをかぶり、ステッキを手にする。


「いやはや眼福でした。ローファン殿と語らうことができた時間は

夢のようなひと時だった。また同じコレクターとして語り合いたい」

小太りの男は満足そうに言う。


「何、こちらこそ。良いものを持っていらっしゃる。

またここに立ち寄った際には寄らせてもらうことにしよう」

片眼鏡の男はそれにまんざらでもなさそうに微笑みで応じ、

テーブルに置かれた剣をしまう。


「それはありがたい。…ところで探し物とやらをを聞かせてもらってもよろしいか。

さぞかし名の売れた逸品なのでしょう」


「『国落し』の大剣イーファベルド」

その一言に小太りの男の表情がピクリと動かす。

片手に持ったステッキを回しながらその男は去っていく。


男のすぐ後ろに立っていた男が近寄ってくる。

頬に切り傷がついており雰囲気からしても明らかに堅気ではない。


「あの男、兄貴好みの刀剣ばかり持ってたな。どうする?殺して奪うか?」

頬に切り傷をつけた男は小太りの男の耳元でささやく。


「やめておけ。あの男はわしらの手に余る」

動じることなく小太りの男。


「どういう意味だそりゃ?」


「二百年前に東にあった王国の話をしよう。

他国の軍に攻められたわけでもなく、クーデターが起きた様子もない。

国の中枢である王宮が何者かによって一夜にしてすべて破壊しつくされたという。

一節には魔族が関与しているとか言う話も上がったが、目撃者は誰もいない」


「…知ってるぜ。確かその名は『ラバッドの大破壊』。

隕石でも堕ちたとか言われているやつだな。今でも多くの謎が残っているやつだ」


「ほう、良く知っているな」


「兄貴がそれを俺に話したのは十じゃきかないぜ」

頬に傷をつけた男はやれやれというしぐさを見せる。


「ちなみにこの話には続きがあってな。

前日その王国に出入りしていた商人がいたという。

その者は古美術商で王宮にはある武器の鑑定を依頼されてやってきたという。

なんでもその国の王族が片眼鏡をした男と

ある剣の真贋を巡ってトラブルを起こしていたらしい。

鑑定した結果、男の持っている武器はすべて本物だとわかった。

顔に泥を塗られた王族がその後どうしたかは想像に難くない」


「…おいおい兄貴、冗談きついぜ。まさか一人の人間が一国を落とすなんて…」

頬に切り傷をつけた男は鼻で笑う。


「それ以降、わしら蒐集家の間では暗黙の了解が出来上がった。

片眼鏡を着けた男には手をだすなと。

…彼の者の背格好も彼の持っているコレクションもそれに合致する」


「おいおい、その話は二百年前の話だろう?そんな男がまだ生きているわけが…」


「それにイーファベルドと言えばここからずっと北のサルア王国にゆかりのある代物だ。

…もう冬だというのに北限に近いサルアまでどうやって移動するという?」

頬に傷をつけた男はその言葉に押し黙る。

ここでそう言った存在が存在することに思い至ったためだ。

それは人類と決して相容れない者達。


「わしらの社会にもルールはある。

そしてそのルールを守っているからこそ生きられる。

ルールとはしきたりであり、生き伸びる秘訣でもある。

…あの男と出会う前までは私もただの伝説だと思っていたよ。

まさかその伝説をこの目で目にすることになろうとはな」


小太りの男は片眼鏡の去った方角をいつまでも見つめていた。



俺たちは馬車の中にいた。


雪がまだ降っていないのが唯一の救いだ。

今回派遣されたのは俺とオズマとエリス

国の使者ということで服装もエリスに燕尾服を古着屋で見繕ってもらった。

ちなみにオズマとエリスはいつもと同じ甲冑姿である。

俺だけってのはちょっとだけ納得がいかない。

正式な使者は俺だけだし、仕方がなくはあるが。

もっとも二人とも経験者であり、着こなしてしまうのだが。


カーラーンに残してきたセリアとクラスタとアタはというと…。


クラスタとアタはサリア近衛兵の鍛練をオズマから任されている。

今ではすっかり仲良くなっていて俺たちがいない間は寮に泊まるとのこと。

また一緒に酒飲みに行くとか言っていた。

オズマに腕がなまったら特別訓練してやると脅されていた。


セリアはゲヘルのところで泊まり込みで魔法の修業をするという。

ゲヘルの元だったら『先祖返り』のセリアを安心して任せられる。

ゲヘルによればセリアの魔法の筋はかなり良いらしく、

基本からみっちりたたき込まれている様子。

魔法学校に行く前に基本ぐらいは抑えておいた方がいいと思う。


二人は大丈夫だろう。目の前の仕事に今は集中しよう。

先ずは情報集めだ。


「これから向かうイエルトーダの家はどんな家なのか知ってるか?」

馬車の中で俺は二人に尋ねる。


「イエルトーダ家はサルア王国の軍人の家系です。

バルハルグ・イエルトーダは生粋の軍属ですね。

さらに忠臣であったために先王から今回のイーファベルドを託されたとのこと」

オズマが答えてくれる。

兵士たちと関わりのあるオズマはその辺詳しい。


「王党派と大臣派で争っていた際にどちらの陣営からも誘いがあったらしい。

バルハルク殿は軍属の中心的な人物。

彼は国が乱れることを恐れ、どちらの陣営にもつかず

国宝のイーファベルドを手に自国の領地に引きこもった」

エリスの話にオズマが頷く。


「軍のトップが消えたことにより軍は指導者を失いました。

その伝説的な功績と彼の人柄から

彼が自身の領地に引きこもった後も彼を信奉する人間は多く、

最近までエドワルドも大臣派を警戒して満足に軍を動かせなかったといいます」


リバルフィードでダーシュが軍を派手に動かせないとか言っていたが

どうもこのことだったらしい。

たしかに軍のトップが自領に引きこもっていては軍は動かせまい。

無理をして動かせば反発を食う恐れもある。

今思うとサルア王国は内戦一歩手前だったのだなと思う。


「バルハルクという武人は先王の忠臣と呼ばれた男。

私見ですがイーファベルドを国から奪おうなどという不埒な輩とは

どうもイメージがかけ離れている気がします」

それは俺も感じていたことだ。

バルハルグは簒奪者になるような男だとは思えない。

もしそうならば大臣派のいなくなった現在兵をあげていてもおかしくはない。

大臣派が消えた今、時間が経てば経つほどエドワルドが力を増すことになるのだ。


「…一度会ってみないとな」

憶測はできるが今は口に出すべきではない。


「そのイーファベルドは一体どういう魔剣なんだ?

そこまで重要な魔剣なのか?」

俺は二人に聞いてみる。

白金大金貨五枚という破格の金額を提示されるのは力だけではない気がする。


「たしかに魔剣の力もすごいのだろうが問題はそこではありません。

イーファベルドはサリアの建国にも深く関わっている魔剣らしく、

イーファベルドを持つことはサリア王家の正当性にもつながってきます」

オズマが答えてくれる。

なるほど、エドワルドが白金金貨五枚と言ったのはそれも込みということだろう。

手にしてサリア王家に高値で売るのもよし、武器としてその破格の性能を使うのもよし。


昔いた世界の某ゲームで殺して剣を奪うイベントがあったのを思い出す。

俺には『天月』という剣があるし、もちろんそこまでする理由も必要も感じない。

むしろ犯罪者として国に目をつけられることのほうがはるかに問題である。

それにそれなりのお金を貰えるのだから金に換えてしまった方がいいだろう。

白金大金貨五枚はかなりおいしい。


「今回のカムギムラン・コレクションにおいてはそれの奪い合いになり

内戦にまで発展したケースが何度かあると言ったのを覚えているか?

イーファベルドという魔剣本来のの性能に加え、

今回のように王権の正当性まで関わってくるのだから価値ならば国を傾けるほどだろう。

価値にすれば白金大金貨五枚どころではないだろうな」

エリスはさらりと怖いことをいう。

そんなに金を持っていても使わないし、今のサルア王国からはぶんどりたいとも思わない。


「俺にはそんなに必要じゃないし、不自由もしていない。

身の丈にあった金さえあればいいと思ってる」

バルマから金を巻き上げたことからの教訓である。

そもそもそんなもの持っていても使い道がないのだ。

それを聞いたエリスが目を丸くしてこちらを見ていた。


「なんだよ」

居心地の悪さに俺はエリスを睨む。


「…ずいぶんとユウ殿の答えが予想外だったものでな…」


「悪かったな貧乏性で」


「…気分を害してしまったならすまない。私からすればむしろ好ましいとすら思う」

エリスは無防備に微笑んだ。少しだけエリスの笑みにちょっと見とれる。


「…コホン…話を戻すとしよう。今は大臣を支持していた諸侯が動揺している。

イーファベルドという餌があればそれに群がってくる可能性もなくはない」


エドワルド王との交渉の手段にも使える上に

最悪イーファベルドを旗印にして反乱しようとする輩も出てくるだろう。

イーファベルドは元大臣派が喉から手が出るほど欲していると言っても過言ではない。


「となると今回は国内の反乱分子のあぶり出しだと思った方がいいか」

エリスの一言にエリスとオズマは頷く。

あの王様もなかなかえげつないことを考えてくるもんだ。


「この時期ならぎりぎり兵も動かせます」

外を見ながらオズマ。

今年は雪が降るのが遅れているらしい。


「私たちなら万以上の規模の大軍でない限り負けることはまずないな」

エリスは得意気に言う。

俺もオズマも魔族であり、エリスには法力と魔剣レヴィアがある。

数万人規模の軍隊でも退ける自信はある。

ただし、今後魔族認定され、人間界で活動しにくくなる可能性は高い。

もっともそれは最終手段である。

そんな兵を差し向けられたら逃げ出すのが正解だろう。


「…まあ。別に失敗してもいいし、気楽に行こう」


白金大金貨五枚は魅力的だが、金銭的に困ってはいない。

エドワルドに悪いが、命がけで行う仕事でもない。

仕事を請け負ったのも食客という立場もあったためだ。

こちらが気負う必要は全くない。


この時俺たちは知らなかった。

イーファベルドに引き寄せられている者が人間だけではないことを。

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