城の中も大変です
その日の復興の作業は少し早く終わらせて上がることにした。
エドワルドに届け物があるためである。
オズマとクラスタのところにも顔を出すことにしよう。
『ルート』を使ってみてみるとオズマはクラスタと一緒にいる様子。
位置は城の中だ。
オズマはエドワルドから騎士相手の訓練を頼まれているらしい。
例の『蝕の大事変』において、カルナッハの手により百人以上の近衛兵が殉職したという。
その穴埋めをするために騎士の育成をオズマが任されたのが事の発端である。
その厳しい訓練が評判になり、今ではカーラーン中の騎士たちが
オズマとの訓練を望んでやってくるのだとか。
『七星騎士団』の元『黒獅子』オズマが指導してくれるということで、
はるばるリーブラ等の近隣の都市からも来る者もいるという。
そんなわけで俺はエリスと一緒にカーラーンの市街地を歩いていた。
「エリス。ほら」
収納の指輪から揚げパンを出す。
昼すぎにけがを治したお礼にと貰ったものだ。
「なぜ…」
エリスは微妙な表情を浮かべる。
「お腹すいてると思って」
「ユウ殿は私がそんなに食い意地をはっていると思っておられるのか?」
はい、はってると思います。
エリスがいつも十人前食べるさまは日常風景になっている。
「…なら仕方ないな…。これは俺が食べるか」
俺は残念そうにその揚げパンを口に入れる。
「…いや…だが…」
エリスがえもいわれぬ悲しい表情でこちらを見ている。
「冗談だよ。ほら」
俺は一つ袋から取り出すとエリスに手渡す。
「ユウ殿は私をなんだと思っているのか」
そう言いつつエリスは頬を膨らませ、俺から揚げパンを袋ごと奪うと
あっと言う間に袋は空になった。
…早いよ、エリスさん。気が付けばオズマ達の分まで食べている。
城門前にいる門番に呼び止められる。
「これはエリス殿!…とユウ様」
門番の視線はエリスにしか向いていない。
完全に俺がおまけのように扱われている。
…俺が犯罪者だったとしても素通りできそうだ。
なんでもエリスは騎士たちのあこがれの的だという。
『白銀の姫騎士』と呼ばれ、何でも騎士たちのアイドル化している模様。
その可憐な容姿と流麗な太刀裁きに魅せられるものは数多く、
交際するように断られた者たちの数は数知れず、
貴族から求婚もされているという噂も聞く。
…俺から見ればただの食いしん坊キャラですけどね。
城の中庭でオズマたちは訓練していた。
『蝕の大事変』でカルナッハの奴が国の中枢を預かる近衛兵を大量に殺戮したため
次の近衛兵の選定も兼ねてオズマが訓練することになったとか。
あの事変でカルナッハに近衛兵含む数百名殺されたという。
それも中枢の警備を担うようなエリートがである。
それを補うために新兵育成という名目でオズマに軍の再編が託された。
この間『天の目』からオズマの訓練がどんなものか覗いてみたが、
見ているこっちがドンびく様な内容だった。
オズマのスパルタっぷりはやりすぎなんじゃないかと思う。
「ほら脇が甘いぞ」
オズマの怒声が訓練場にこだまする。
「そんな様で国を護れるなどふざけているのか」
オズマの周りには剣を持った騎士たちが転がっている。
死屍累々のありさまとはこのことでえある。
前世でなんとかブートキャンプというのが重なる。
「ユウ殿」
こちらを見つけオズマが寄ってくる。
「再建できそうか?」
死屍累々の様を見ながら俺はオズマに問う。
オズマはエドワルドから軍の再建を託されている。
他者に再建を頼む姿勢は少しだけ思うところもあるが、
オズマの七星騎士団での功績や人手不足の現状を考えれば仕方ないんじゃないかと思う。
「…見込みのある者が数人いますね。
さすがにサルアの中枢と言ったところでしょうか」
人を褒めることのないオズマが言うのだから間違いはなさそうだ。
「クラスタの奴から剣で一本取った奴も二三人います」
「クラスタから数本かそれはすごいな」
クラスタもオズマと一緒に指導に参加している。
剣の扱いはいまいちだが魔族と言う種族のスペックの高さゆえに
ほぼ負けることはないという。
それを覆すほど技量を持つ人間がいるのだ。
「ユウ殿は城に何か用ですか?」
「王様にちょっとな。こっちにはまた帰りに寄ることにするよ」
もうすぐ日も暮れる。
いつも通りならばあと終わりまで一時間もないだろう。
「エリスはどうする?」
「私もユウ殿と一緒に行こう」
執務室に入るとエドワルドは文字通り書類の山に埋もれていた。
横には補佐のルケルがいる。
既に見慣れた光景である。
「失礼」
「これはユウ殿とエリス殿」
エドワルドの顔はにこやかだが、生気がない。
疲れていてもそれをおくびにも出さないのは王であるが故か。
俺とエリスは目の前のソファに腰かける。
「屋敷は気に入ってくれたか?」
俺たちはエドワルドから食客になるという条件の元、
屋敷を提供されている。
何でもエドワルドが所有している屋敷の一つだそうだ。
「ああ。快適だ」
人目がないのをいいことにため口である。
初めのころは補佐役のルケルに睨まれていたが、もうすでに慣れたものである。
「時にユウ殿。復興に尽力してくれてるのは王宮でも噂になっている。
爵位を欲しくはないか?」
「食客で十分」
魔族である俺が爵位を受けるのはこの国のためにも避けたほうがいい。
エリスからもそう言われていた。魔族とは全人類の敵でもある。
魔族が臣下になったと公に知られれば、
サルア王国が全人類から敵としてみなされる可能性があるという。
つくづく魔族は嫌われてるなと思う。
「だろうと思っていたよ」
それでも会うたびに毎回言われる。すでに定例になりつつある。
俺はゲヘルから渡された小瓶をエドワルドに数本渡す。
魔族の特製の秘薬である。
一度持ってきてからエドワルドにせがまれるようになってしまった。
「助かる。これがあれば三日はぶっ続けで仕事ができる」
こちらがエドワルドの一言にドン引きしている中、
エドワルドはその中の一本を飲み干す。みるみるうちに血色が元に戻っていく。
前世の栄養ドリンクとは比べ物にならないほどに目に見えた効果がある。
「ふう、やはりすごいな。これならまだ仕事ができそうだ」
小瓶を空にした再びエドワルドは書類に向かう。
エドワルドには仕入れ先は聞かないように話を通してある。
「…回復薬多用しなきゃならない職場ってなんなんだ?」
痛々しくてみていられない。ブラック過ぎである。
「担当官が『蝕の大事変』で相当数いなくなったからな。
国の中枢にかかわる仕事だ。下手にまかせるわけにもいかんし、困ったものだ」
頬杖をつきながらエドワルドは書類に目を通す。
「…そうそう対価の酒樽は明日にでも屋敷に届けさせる」
「わかった」
ゲヘルは秘薬の対価として酒を要求してきた。
魔族は大酒飲みが多いのでいくらあっても困らないのだそうだ。
「…ちゃんと寝ろって」
「…まだ今回の臨時予算編成が半分も終わっていない。
城壁の簡易修繕にも早めに着手したいしな」
書類に目を通しながら王様。
ブラックすぎる…。
王になど絶対になるものかと思った。
「が、がんばれ…」
そう言い残し、俺はエドワルドに背を向ける。
「最後に一つ。『蝕の大事変』の際に巨大な化け物が向かった西の空で
巨大な爆発が何度も観測されたんだが…。
その件に関して何か心当たりはないかな」
気が付けばエドワルドはじっとこちらを見ていた。
こちらの反応から何かを引き出すつもりらしい。
「…どうだろうな」
あいまいに俺はぼかす。
「…まあいいさ。ユウ殿、何かこの国で不便があれば言ってくれ。対応しよう」




