表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の放浪記   作者: owl
80/121

復興しましょう

女神との戦いの後、俺はギルドを通して復興に協力していた。

相変わらず体は痛むが何かをしていたほうが気がまぎれるのもある。

少ない支払いだが、人手が圧倒的に足りていない

行こうと思っていた王立図書館に行くのはもう少し先になりそうだ。


「おう、兄ちゃん、今日も来てくれたか。助かるぜ」

受付をしているギルド職員が俺に声をかけてくる。

毎日通ううちにすっかり顔なじみになってしまった。


「今日はエリスちゃんもか」

受付のギルド職員がエリスの顔を見てにやりと笑う。


「二人とも力持ちだもんな。今日もあっちで資材班に回ってくれ」


「おう」

魔族の俺は常人の数倍の力がある。

そんなわけで資材運びなどで重宝がられている。

女神の呪いで体は痛むが何もしないよりずっとマシだ。


「エリスはこっちで良かったのか?」

オズマ、クラスタは軍の訓練に行っている。

エリスも軍の訓練に付き合うこともあるが今日は俺と一緒に復興の手伝いに来ている。


「民の助けになるのも騎士の大事な役目だ」

胸を張ってエリス。


「それならいいけどさ」

エリスが来る日に限って妙にここの騎士団から参加者を多く見かけるのは気のせいだろうか。


「それにしても数日前来た時よりもずいぶんと復興してきているな」

エリスは復興仕掛けている街を見て微笑む。


「そりゃみんな頑張っているからな」

王都の復興も順調である。

あの焼き払われた場所が道になるらしい。

かなりの人間が犠牲になったという。

それでも前を向いて復興しよう

天災とでも皆受け取っているのか、近づいてくる冬の気配に急いでいるのか、



エドワルドは玉座の間の復旧は来年以降とし

女神に破壊された家屋の復旧等を優先させたためでもある。

それもここの冬は厳しく、冬になれば壊れた家屋では越せないためだそうである。

一部の貴族からはパフォーマンスだと言われているが。

あの男エドワルドは民のことを考えていると思う。


「よう、色男」

資材班に向かっている最中に横から声がかかる。


「あ、ウーガンさん…色男って」

声をかけてきたのは以前に酒場で一緒に飲んだことのあるウーガンさんである。

彼はここカーラーンを束ねる冒険者ギルドのギルドマスターだったらしい。

世話好きな性格で皆から慕われている。


ちなみにいつも違う女性を傍らに侍らせているとのことで彼からは色男と呼ばれている。

飛んだ濡れ衣である。遊んだことないのに色男とか。

…というかセリアが怖くて色街に行ったことすらないのに。


「何言ってやがる。今日は白銀の姫騎士連れ歩きやがって。

周りからすげえ目で見られてるぜ」


「そりゃ、彼女とは同じパーティ組んでますし」

たしかにウーガンの言うとおり、エリスと一緒に街を巡っていると視線を多く集める。

中には殺気めいたものも混じっている。


「七星騎士団のオズマにデリスの勇者エリスとか。お前のパーティどうなってるんだ?

どちらか一方だけでも単独でうちのトップギルドのパーティ倒せそうなんだが」

そこは否定しない。

オズマとエリスは人間の中でも最強クラスと断言できる。

オズマは人間ではなく魔族だが。


「ユウ殿とも今度一緒に魔物狩りに行きてえもんだ。噂の投石スキルを見てみたいしな」

ウーガンはにこやかに笑う。


俺は眼の端で一人の男を捉える。

俺を見るとその男は怯えたように目をそらした。


「お前がいるとあの暴れん坊のバルッツが何やらおとなしいんだが、何かしたか?」

ウーガンは怪訝そうな表情で俺を見る。

バルッツというのは大臣邸で俺に向かってきた冒険者である。

あの騒動で大臣邸が焼き払われる中、奇跡的に外に出ていて無事だったらしい。

何でもけがをして病院に直行したのがよかったのだとか。

大臣邸でバルッツの槍を見せしめに折ってしまったために

詫びに何回か酒に誘ったが怯えるようにして断られてしまっている。


「今度あの時の酒場のねーちゃん、紹介してくれよ」

ウーガンのいう酒場のねーちゃんとはネイアさんのことを言っている。

ここで顔を合わせるようになってから何度も聞かれている。

ちなみにネイアさんは魔族の六柱の一人で魔神とか言われる存在である。

以前俺と一緒にいたのを見て一目ぼれしたそうだ。


「あの人、またどっかに出かけたっぽいんで」

嘘は言っていない。

ネイアさんは現在、北の彼方、

人間からは絶対不可侵領域とか言われている場所にいる。


「あんな女一生に一度でも抱けたらなぁ」

やめときなさい。本当の意味で昇天しますよ。

そうこぼしながらウーガンさんは歩いて行った。


「酒場の女?…ひょっとしてネイアさんのことか?」

横から俺とウーガンの話を聞いていたエリスが聞いてくる。


「ああ」


「…知らぬが仏とはこのことだな」

エリスは乾いた笑い声を上げる。


「だよな」

エリスはあのネイアさんの規格外っぷりを肌で感じている。

彼女の中では女神パールファダに次ぐランクの怪物なのだろうな。

ちなみに俺が女神を倒したことはエリスたちには言っていない。

それを知っているのはオズマとクラスタ、一部の魔族たちだけだ。

と言うか言っても信じられないだろうな。

俺は傍らにいるエリスを見る。


「それとな、俺とあまり一緒にいるとエリスも俺の女扱いされるぞ」

エリスは聖剣に選ばれた元勇者でもある。

魔族である俺の女扱いされるのは彼女にとって不本意だろう。


「…私は一向に問題はないというか…むしろ…いいというか」

もじもじとエリス。


「ん?」

エリスの意外な態度に意味が解らず俺は首をかしげる。


「と、とにかくだ、早く今日の仕事を片付けるぞ」


「おう」

そんなこんなで今日の復興作業がはじまる。



それは昼休憩の終わってしばらくしてからのことだ。

エリスと仕事を続けていると男が男を運んできた。

その男の担いでいる男の腕があらぬ方向に曲がっている。


「仕事で丸太に手をはさんじまったらしい。

エリスさん、頼む。仲間を治してやってくれないか」


エリスはそっとけがをしている者に手を当てる。

みるみる傷がふさがっていく。エリスの使う法術だ。


「応急処置はした。医者に連れて行ってくれ」

男たちは感謝するとその場を離れていった。


「エリス、少し休憩しようか」

法術を使うとエリスはお腹がすくらしい。

俺たちは周囲に断って休ませてもらうことにした。


「法術ってすごいな」

俺はエリスにセリアが作ったおやつをエリスに差し出す。

こういう時に空間収納は便利である。


「治癒を促進して血を止めただけだ。骨も完全には治っていない。

自己治癒能力を促進しただけの応急処置程度だ。

あまり治癒を促進し過ぎるといろいろと弊害が出てくる。

日を置いて継続的にやるのがもっとも良い」


法術ではカルシウムや鉄分等の不足分は補えないってことね。

ゲヘルも言っていたが魔法で回復を行えるのはこの世界数人しかいないという。

それぞれの術には得手不得手があり、どれも万能ではないらしいということらしい。


「…法術って門外不出の能力じゃないのか?」

法術とはデリス聖王国発祥の術であり、その体系はデリス聖王国が独占している。

本格的な教育機関が聖王国にしかないためだ。


「ああもちろんだ。聖騎士やすぐれた法術師はデリス聖王国に管理される。

そして彼らは理由なく国外に出ることは禁止されている」


「…そういうエリスは?」


「あの方の遺言でもあったからな。反対する奴はぶんなぐってきた。

こう見えてあの国では五指に入るほどの聖騎士であり法術師だったからな」

得意気にエリス。やっぱりボディランゲージか。

捕捉しておくが、この会話で出てきたあの方というのは聖王カルナのことである。

エリスの上司にして、デリス聖王国のかつての王である。

エリスのつながりでちょっとした関係を持った。


「そんなに使いやすい法術ならなぜ他の国に広まらなかったんだ?」

法術のことを聞けばメリットが多いように感じられる。

それだけのモノならば周辺諸国に広まってもおかしくはない。


「要はコストの問題だな」

エリスは当たり前のように言う。


「軍事利用を目的とするならば魔石を用いた魔法の方がよっぽどよいし、

法術は人間の生命力を基にしているために

魔素の結晶体である魔石があれば無尽蔵に扱える魔法には劣る。

まあ、価値の高い魔石を使うぐらいならば傭兵を雇った方が効率的ではある」


力のある聖騎士を作るより、かえのきく傭兵を多く雇った方がいいという発想ね。

本末転倒な話である。


「その上、法力使いは子供のころから訓練しないとなれない。

教育にかなりの金がかかるらしくてな、金のある貴族連中でしかなれない。

また貴族の連中も法術を教えることに関しては閉鎖的でな。

国外からの来訪者たちに教えるのはあくまで表面的なものだ。

私は養父から教えて貰った点で恵まれていたな…」

エリスの養父は先々代の勇者である。

エリスは子供のころ勇者に引き取られた孤児である。


以前エリスから聞いた法術研究所や聖騎士養成所と言うのはそのための施設だろう。

この世界の教育とは金のかかるものだと改めて実感する。


「それに法術は万能じゃない。法術では病気等は治せないんだ。

出来て延命措置ぐらいだろう。簡単な外傷は治せるんだがな」


ウイルス系の病気等は自己治癒力を高める法術では無理だろう。

特にインフルエンザにかかっているものの

自己治癒能力を高めたらのなら大変なことになりそうである。


俺は病気という言葉に俺は自身にかけられた呪いのことについて思い出す。


「…エリスは呪いについては知らないか」

呪いと言う言葉にエリスは少しだけ表情を曇らせる。


「嫌なら別に…」


「…呪術は人体やその魂を媒介にするものだ。

魂に着いた想いが強ければ強いほどその力を発揮する。

さらに多くの人間を生贄にするモノがより力を持つと言われている。

…その存在自体、私たちの間では忌み嫌われている」

人を代償にするものが呪術らしい。


「大陸の東側にそれを扱う国があるという。ユウ殿は呪術に興味があるのか?」


「…いいや、少し耳に入れただけだ。すまないな嫌なことを語らせた」

それが人の想いを代償にするものならば…、強い想いを使うのならば…

いいや、そこから先は想像したくない。

俺の想像通りのモノならば呪術はこの世に存在してはならないものだ。


最上級クラスの神の呪いが俺にはかけられている。

もし解くならばその代償として百万単位の人間が必要になるだろう。

俺一人のためにそこまでするつもりはない。


…俺も心のどこかで『生』を諦められていないということか。


「さて、仕事にもどろうか」

俺はおもむろに立ち上がる。

エリスもそれに同調し、立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ