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異世界の放浪記   作者: owl
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レッドベア討伐

レッドベアと遭遇したのは次の日の午後だった。


魔物寄せの香を森の開けた中央で俺たちは焚いていた。

誰もが言葉少なになり、小さな物音ですら反応する。

どんな些細な異常でも見落とさない。


初めて経験する異世界の『狩り』だった。


昼過ぎに木陰からがさがさと物音をたてそれが現れた。

木陰から出てきたのは人の身長の二倍はあろう真っ赤な体躯。

腹を空かせているのか口から唾液を垂れ流している。

こちらを威嚇しているのか、低いうなり声をあげている。

完全にこちらを餌としか認識していない様子だ。

こちらを見つけるとそのまま駆け出してきた。


一直線に向かってくる。


「来るぞ」

一斉に武器を構える。


ドン


ルジンの盾にぶつかり大きな音を上げる。

レッドベアは体当たりが止められ一瞬だけ動きが止まる。


「まず足を止めるぞ」

ダールが槍で、ルーカスが短剣でルジンの左右から飛び出し、傷を作っていく。

イアルは遠距離から弓で援護する。


見事なまでの連携だ。

それぞれが役割をこなし、相手に付け入る隙を与えない。


俺とセリアは臭い玉を持ち背後で待機しているだけだった。


しばらくしてさすがに分が悪いと感じたのかレッドベアは反転し走り出した。

執拗な攻撃に右足は使えなくなっているものの、まだ手足の三本は残っていて速度もある。


ここでこの魔物を逃げせばまた被害が出る。

逃がしてはならない。


「セリア、ちょっと行く」

俺の声にセリアは無言で頷いてくれた。


俺は四人に見られないよう回り込むように、木々の間を縫って駆け抜ける。

不思議パワーを使っている俺はレッドベアなどよりもはるかに速い。

すぐに両者を目視で捉える。


ダール達が必死で追っているが距離は徐々に引き離されている様子だ。

俺は先回りし狙撃場所に立ち、足を止める。


石を手に取る。


狙いは左足。


手にある小石を投げつける。

石はレーザーのように直進していき、レッドベアの左足を正確に打ち抜いた。

左足を打ち抜かれたレッドベアはそのまま前方に倒れ込む。


ここで追ってきたダール達がレッドベアに追いついたようだ。


ダールが一瞬怪訝な表情を見せたが気付かれてはいないようだ。


後はもう大丈夫だろう。

俺はそこで引き返す。



俺がセリアと一緒に四人の元に駆けつけるとレッドベアは既に事切れていた。

レッドベアの背中には無数の切り傷と数本の矢が突き刺さっていた。


終わったのだ。


先ほどまでの緊張が嘘のように皆の表情は柔らかい。

「セリア殿はイアルの解体を手伝ってもらえるか?」

「はい」

セリアは包丁を荷物から取り出すとぱたぱたと小走りに駆けていく。


「ユウ殿」

ダールが声をかけてくる。

「左足に何かで射抜かれたような傷があったんだが…」

「さあ?」

俺はとぼける。変な力を持ってると知られるのは隠してはいないが、あまり知られないほうがいいのだ。

「まあいいさ。とにかく終わっ…」

ダールが言いかけると突如、解体をしていたセリアとイアルの背後に巨大な赤い影が現れる。


二匹目のレッドベア。


うそだろう。


レッドベアは二匹いたのだ。


「オオオオオオオオオ」

相方を殺された怒りがこちらまで伝わってくる。

ダール達もこれは予想外だったらしく、声を上げられない。


セリアは目を見開いたままその場に立ち尽くしているだけだ。

セリアに向けてゆっくりとレッドベアの爪が振り下ろされる。


この世界で初めてできたつながりなんだ。

絶対に助ける。

俺は小石をポケットから取り出す。


もっと早く


もっと早く


もっと早く


手にした石をポロリと落してしまう。


嘘だろう…。絶望が全身を駆け巡る。


俺は直視できずに瞳を閉じた。

どのぐらいそうしていたかわからない。


音が途絶えていることに気付く。


恐る恐る目を開くとレッドベアの爪はセリアに届かずにその場に停止していた。


ダールたちも映像のコマを切り取ったかのように止まっている。


見渡すと周囲のものが完全に静止していた。


「なんだ…これ…」


自分は思考を切り替える。

どういう原理が働いたかは知らない。

が、これはセリアを救うチャンスだ。


俺の中から何かが凄い勢いで消えていく感じがある。

意識がだんだん遠のいていく。


俺は石を袋から取り出すと思い切り石をレッドベアの頭部めがけて投げつけた。


熊の頭部に石が達するのを見届けると俺の意識は暗転した。




同時刻、はるか北の城の中。

真っ黒な闇の中、円卓を囲むように六人の異形の者たちが座っていた。


「感じたか?」

恐竜の頭部の骸骨をつけた男が声を上げる。


「もしやと思っていたがこれで確定したな」

次に蝙蝠のような翼をもった男。


「裁定の時ね」

黒い翼を六枚、背中から生やした女性。


「クククククク」

ゆったりとした服を着たグニャグニャした影。


「これはこれで楽しくなってきた」

これは子供の容姿をした者の口は裂けていた。


「見極めねばなるまい。その者を」

腕を組んでいる巨大な体躯をした男。


「我々が動き出す時が来たようだ」

六人が立ち上がると周囲にいた異形の化け物たちも一斉に立ち上がる。


人類の住む北限で人知れず事態は最悪の方向に進行し始めていた


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