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異世界の放浪記   作者: owl
79/121

幕間 セリアの決意

冬季は街道がところどころしまっている上に

道には雪が残り、

さらに厄介な狼の魔物も数多く出現する。

旅人や行商人の観点からすれば進むどころの話ではない。


セリアは人が音連れることのない絶対不可侵領域と呼ばれる『極北』の地。

そこへの人間の客はほぼ皆無。


セリアはエリスに見繕ってもらったドレスを着てその場所にやってきていた。

その姿はまるで人形のようである。


「なるほど辺境に来る前の記憶がほとんど欠落しておる」


「欠落…」


「どうも意図的に消されている可能性が高いのう。

人の記憶を操作出来る者はそれほどいないはずじゃが…」

ゲヘルはあらゆる可能性を思案する。


「セリア殿、記憶を覗かせてもらってすまなかったの。

正直女性相手にこういうのはあまり取りたくないんじゃがな」

ゲヘルが指を鳴らすと目の前にお茶のセットが現れる。


「いえ。これも必要なことだと思いますから」


「わしに協力してくれたお礼と言ってはなんじゃが、

わしのできることなら何でも一つ叶えるとしよう」

魔神の一柱が願いを聞き入れるということは

ほぼすべてが可能だと言っても過言でない。

神話級の道具を手にすることも、一国すら滅ぼすことも可能であろう。


「ゲヘルさん、その前にいくつか質問をさせていただいてよろしいでしょうか?」

セリアはゲヘルの入れてくれたお茶を手に質問する。


「かまわんよ」


「学校…とはどんなものでしょうか?」


「ほう、学校か」

年相応の少女の問いかけに少しだけゲヘルの空気が柔らかくなる。


「ユウに入るように薦められているのですが私にはそれの必要性が

全く分かりません。ゲヘルさんならばご存じではないでしょうか」


「学校とは学びを得る場所じゃ。

学びと言うのは良いモノじゃ。知ることにより世界がより広がる。

知識は光でもある、知ることにより正しい選択もできよう。

また友を得ることにより、競い合い、さまざまな世界の一端に触れることができる。

ユウ殿がお主を学校に入れようとしているのはそう言った意味があるのではないかな?」

ゲヘルの言葉にセリアは困ったような表情を浮かべる。


「…ユウが私を大切にしてくれてるのはわかります。

けど私は今の仲間と、ユウと一緒に旅を続けたいのです。

ユウは私を外の世界に連れ出してくれた。…ずっと感謝してます」


「…」


「もう一つ質問させていただいてもよろしいですか?」


「かまわんよ?茶の」


「ゲヘルさん、ユウは一体何を隠しているのですか?」

セリアの周囲の温度が二三度下がったような印象を受ける。


「…なぜそう思った?」

ゲヘルの声色には全く変化が見られない。


「短いつきあいですが、私にもそのぐらいわかります。

あの人は何か大きな隠し事をしている。

あの人は強情な人です。けどその強情さゆえに一人でなんでも抱え込んでしまう。

それも自分のためではなく、私たちのために。

ここに来たのはそれを知るためでもあります。

…ゲヘルさん、よろしければ教えていただけませんか?」

セリアはゲヘルの前で深々と頭を下げる。


「一応、口止めをされておるのじゃがな…」


「ユウは私を想ってしてくれているのでしょう。

ですが、それは私には不要です。

私は知らないで後で苦しむより知ってあの人の苦しみを分かち合いたい」


「…分かち合う類のモノでなくてもか?」


「知らない場所で安穏としているより、知らないことで後悔したくありません」


「…知れば引き返せなくなるぞ」


「それはもちろん覚悟の上です」

強い意志を湛えるエメラルドの瞳がこちらを見つめている。

二人の間にしばしの沈黙が流れる。


「やれやれ、ユウ殿と同じく強情な御仁じゃな」

ゲヘルは負けたと言わんばかりに一際大きなため息をつき語りだす。


「…ユウ殿は女神を倒したことにより女神の力の一部を得た。

それは神力と呼ぶものじゃ。ユウ殿の種族は魔族、魔力が生命力の源泉になる。

神力と魔力は似て非なるモノ。

二つは反発しあい、ユウ殿の体を絶えず蝕み続けておる」


「魔力を使い続ければ…」


「間違いなく…」

ゲヘルは最後まで言わなかった。

その先は誰にでも想像できる。


「…なんであの人は一人で…」

セリアは唇を噛みしめ、血が出るほど手を握りしめる。



「ゲヘルさんはかつて邪竜戦争の際、名をはせた高名な魔法使いとエリスから聞きました」

覚悟を決めた表情でセリアはゲヘルに向き合う。


「うむ」


「…ゲヘルさん、そこで私からの願いがあります。

どうか私をあなたの弟子にしていただけませんか?」

セリアはゲヘルに頭を深く下げる。


「…」


「私は強くなってあの人の力になりたい。もし力を得られるならならば何だってします。

だからお願いです。私を弟子にしてください」

地面に膝をつき頭を下げセリアはゲヘルに乞う。


「フム…わしの弟子になりたいと申すか…。

ハイエルフであるお主には神すらその身にとどめる巨大な器がある。

じゃが、その精神は普通の人間とさほど変わらぬ」


エルフは神に似せて作られている。

現界した際にその神の膨大な神力を受け止める器にするためだ。

精神は廃棄するモノとして作られている。

ゆえに精神は人間とさほど差はない。


「わしの身はすでに人の理から外れておる。

人の精神でありながら人外であるわしからの教えを受けることは

死よりもつらいやもしれんぞ」


「…ここに来る前に覚悟はしてます」

ゲヘルとセリアは見つめ合う。

どれほど時間が経ったか。口を開いたのはゲヘルが先だった。


「…強い意志、面白い。よかろう。

十六人目の弟子としてお主にわしの持つすべてを教えるとしよう」

こうしてセリアはゲヘルに弟子入りすることになる。

ゲヘルはセリアのエメラルドの瞳に何を見たのか。


このことが世界に大きな影響を与えることになるとは

当のセリア本人は知る由もなかった。

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