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異世界の放浪記   作者: owl
77/121

事の真相が語られます

俺は極北の地にやってきた。

辺りは既に日も暮れ、星が出ていた。

太陽もないというのに降り積もった雪のためにくっきりと見える。

風は不思議なほどにない。まるで時が止まったようにもみえる。


塔の上に立つ人影に俺は声をかける。


「綺麗な場所だな」

何度も来ているがいつも城の中で用事は済ませているため、

城の外に出るのは初めてである。


「ええ」

俺はそのまましばらくゲヘルとともにその銀世界を見つめていた。

沈黙を破ったのはゲヘルのほうだった。


「ユウ殿、寒くはございませぬか?」

そうここはこの世界での極寒のレベル。

昔いた地球でたとえるなら北極か南極だろう。

着ている服は既に凍ってる。

バナナだって一分経たずに凍りつくだろうなと俺は思う。

バナナに該当する果物がこの世界にあるかは知らないが。


「いいや、大丈夫だ。一応これでも魔族のはしくれだぞ」

俺は寒さを感じていないというわけじゃない。

このぐらいは耐えられると思える範疇なのだ。

生物的に見ても人間のころと比べて魔族である今は本当に何でもありだと思う。


「聞きたかったことがある。…俺が倒した女神、パールファダはどうなるんだ?」

自分が殺してしまった女神の末路。

自分はそれを知っておくべきだと思った。


「神が消滅することはこの世界ではほぼあり得ませぬ。神は輪廻を超越している存在。

女神パールファダは百年後、記憶を消され、神々の園で再び再生されることになります」


「それは…」

記憶を消されるのでは死んだと同じ事じゃないのかと言いかけて俺は口を紡ぐ。

パールファダののやったことが正しいとは思えない。

ただそこから目をそむけてはいけないと思う。

自分が殺したのだ、パールファダと言う一人の女神を。

俺はそれを胸に刻む。


この時、ゲヘルも俺も知らなかったのだ。

女神にはもう一つの選択肢があったというとに。

それはこれからの俺の運命を大きく変えていくことになる。


「ユウ殿、お体の方は…」


「痛みが消えないな。気を抜くと痛みで意識が飛びそうになる」

魔力と神力は同時に発生するモノらしい。

さらに魔力と神力は似て非なるモノで、二つが接触すると反発し消え去るという。

魔族の肉体にとってそれは毒以外の何物でもない。

気を抜けばとてつもない痛みが電気のように全身を駆け巡る。

この状況で魔力を使えばどうなるか想像もつかない。


「俺の体のことだ。俺が一番知ってる。…もう長くは無いんだろう」

ゲヘルはこちらを振り向きこちらの顔を覗き込む。

昨日血を吐いた。誰にも見られない場所で幸いだったが。

俺は日々自身の体が壊れ、命が消えていくような感覚を覚えていた。


「はい。…女神からもらたらされた神気がユウ殿の魔族の核である『魔核』を

絶えず削っておりますじゃ」

ゲヘルの言葉にしっくりきた。

俺は自身の置かれたとてつもなく悪い状況を再確認した。


「どのぐらいで俺の魔核は擦り切れるとゲヘルは考えている?

…最期までの時間ぐらいは知っておきたい」


「…もって三年と言ったところじゃろう。

ただし、魔力を使えばその時間はさらに短くなりますじゃ」

長くはないと覚悟はしていたがゲヘルから宣告され、内心ちょっとへこむ。


「三年か…そっか」

パールファダは神の呪いと言っていた。

これは罪なのだろう。

激情に流されるまま、あの女神を殺めてしまったた俺への。


「ゲヘル、正直に話してくれてありがとうな」

俺は精一杯の作り笑いを顔に張りつけ礼を言った。


「何もできず己の無力さだけを痛感しますじゃ…」


「ゲヘルが負い目を感じることはないさ。これは俺が蒔いた種だ。

ところで…話は変わるがいくつか聞いておきたいことがある」


「なんですかな?」


「俺の使っている魔法のようなものは一体なんだ?」

俺の問いにゲヘルは言い澱む。


「もういいだろ。どうせ魔力が使えないから大きなものは使えないのだし」

ゲヘルがあいまいにして俺に隠していたことだ。

何故かこの件に関してはゲヘルは今まで語ろうとしなかった。

今ならばゲヘルも答えてくれる気がした。


「…ユウ殿の使っていたのは始源魔法と呼ばれるものですじゃ」


「始源魔法?」

初めて聞く言葉だ。


「始源魔法は創造主のみが使える魔法ですじゃ。

この世界のあらゆることを上書きできる万能の魔法。

ちなみにユウ殿の話されている言葉も、使う結界もそれが使われております」

ゲヘルの言葉で俺ははっとなった。

会話で俺だけ唇の動きが違うのはそのためか。

俺の使った始源魔法が相手との意思との意思疎通を行っていたらしい。

結界に関しても念じるだけでその通りに動いてくれる。


…まて、昔俺はとんでもないことをしでかさなかったか?

俺は記憶を手繰る。

俺の思考を呼んでかゲヘルが語りかける。


「ユウ殿は一度、始源魔法を使ってこの世界の時間を数秒止めました。

わしらはこれを感じ取り、あなたをこの世界の敵と一時判断しました」

レッドベアを討伐した際、セリアが襲われそうになって使ったアレだ。

前にゲヘルが言ってた言葉を思い出す。確かに危うい。


「それは悪いことをしたな…」


「…いえ。我々もあの判断は早計だと今は思っておりますじゃ。

その詫びとして道具をあなたに与えることにしたのですからの。

ラーベとゼロスとクベルツンはまだのようですが…」


「助かっているよ」

あの道具がなければ女神と戦うことなどできなかっただろう。


どうも肝心なことを聞き逃している気がする。

…そうだアレだ。

「…創造主のみが許される魔法と言ったな」


「はい。始源魔法は文字通りこの世界の黎明期に使われた魔法。

それを持つことが我々の王の資格となりえますじゃ。

もっともワレワレは資格だけをもった卑しき者などを断じて王と認めませぬ。

あなたを王にと言ったのは他ならぬ我々の総意ですじゃ」


だから以前俺を試したらしい。王の資格を持った俺を。


「…だが俺は創造主ではないし、創造主など会ったこともないぞ」


「ユウ殿、誰かからそれを託された記憶はありませんかな?」


「…いいや」

思い当たる節が全くない。

気が付けばこの世界にいたのだし。


「ならばこの話はここまでにしておきましょう」


「そうだな」

俺もこれ以上深入りするつもりはない。

話自体途方もないし、俺が聞いてもどうにもできない。


「それじゃ、次の話だ。パールファダの能力についてだ。

それにどうもパールファダの使った『光炉』は一体どんなものなんだ?」

女神は三つの権能を有しているという。

実質的にパールファダは俺との戦闘で一つの能力しか使っていない気がした。


「ユウ殿は既に関係者。話しても問題は無いでしょうな。

ユウ殿との戦いにおいてパールファダの使っていたのはその『光炉』のみ。

疑似太陽ともいえる無尽蔵のエネルギー炉。

まさか奴が『光炉』を創造主から譲り受けているとは思いもしませんでしたじゃ。

警戒はしておったのじゃがな」


無尽蔵のエネルギー炉って…そんなやばいモノだったとは。

長期戦になっていたら完全にアウトだったわけだ。


「パールファダは他の二つはどうなってるんだ」

『空間』と何か。俺がパールファダを倒してしまったことにより、

パールファダの所持している権能は永遠にわからなくなってしまったが。


「残り二つの権能が扱うのが難しい権能だったか、もしくは封じられていたか」

白ローブの女の姿がちらりと脳裏をよぎる。


「女神の能力はすべて知られていないのか?」


「ええ。パールファダの権能『空間』はカルナッハから推測はできましたが、

『光炉』は今回初めて知りましたじゃ。

もう二体の女神の権能は一つはわかるものの残り二つは不明」

残りの女神はミラカルフィとテトラバルビス。


「創造神が女神に与えた九つの権能のうち『光炉』を含めた三つは

世界を滅ぼせるほどの力をもったものですじゃ」


世界を滅ぼせる権能ってどれだけのものなのか…。


「そもそも女神たちは復活して何がしたいんだ?」

女神たちの動機についてわからないことが多すぎる。


「外界に堕ちた創造主の帰還でしょうな」

ゲヘルはつぶやくようにそれを口にする。


「…外界に堕ちた?」


「およそ千年前、この世界の創造主は異界からの侵略者との戦いにおいて

侵略者とともに外の世界に投げだされました。

女神たちは異界との門を開き、その創造主をもう一度この世界に引き入れたいのじゃろう」


「…そんなこと可能なのか」


「無理でしょうな。それこそ砂漠に落とした小石を見つけ出すようなもの。

外界の門を開いたところで創造主が見つかるとは思いませぬ。

外界の門を開いてしまえば閉ざすのは困難。

その上、開いたのを見計らって外界からの侵略者がやってくるじゃろう」


「侵略者?そんなに深刻な存在なのか?」

ゲヘルたちが居ればさほど問題にはならないと感じるが。


「外界にいる者たちは他の世界から追放されたモノたちが数多くおりますじゃ。

他の世界より追放された外界の世界には邪神クラスの者も多く存在しうる。

もしその門を開けば外界よりの邪神が大挙をなしてこの世界にやってくるじゃろう。

最悪の場合この世界そのものが破綻し、無に還るじゃろうな」


「…」


「たしかにわしらにも創造主を助けたいという想いはある。

じゃがそれ以上にわしらは創造主の作ったこの世界を護りたいのじゃよ」


ゲヘルたちの考えは正しい。

同時に女神たちは父である創造主を戻そうとする考えもある意味で正しい。

親子ならば当然のことだ。だがそれは多くのモノを代償にしなければならない。

間違えではないがそれは世界を管理するゲヘルたちから見れば受け入れられない考えだ。


「救われないな」

俺は小さくつぶやいた。


「最後に一つ、女神はセリアをハイエルフって呼んでいたんだが…」


「わしもネイア殿からその話を聞かされた時は驚きましたわ。

ユウ殿と一緒に行動しているのは『先祖返り』と報告を受けていましたからの」

ゲヘルもセリアがハイエルフだとは知らなかった様子。

ネイアがセリアと会った時、セリアをまじまじと見ていたのを思い出す。


「ハイエルフは神の憑代。

太古の昔、ハイエルフは神が現界するための手段として創造神により作られた種族じゃ」

つまりハイエルフは神をこちら側の世界に現界させるためのツールということらしい。


「そのハイエルフには『先祖返り』でもなれるのか?」


「いえ、ハイエルフと言う種族はエルフの上位種。純血のエルフしかなれませぬ」


「ならどうして。カルナッハはエルフはこの世界にはいないと言っていた」


「…はい。エルフは女神共が狂った後、わしの先代が違う世界に隔離しております」


「隔離ってことは行き来できないんだよな。…ならセリアは一体どこから来た?」

セリアの記憶では幼いころ北限の地に連れてこられたと聞いている。

エルフの里がもう一つ存在している?

可能性や推測はいくらでも考えることはできるが、どれも的を得ていないような気がする。


「…出所をみつけねばなりませんな。

その上で残りの二体の女神の復活は何としても阻止しなくてはなりませぬ。

ですから是非ともユウ殿にも協力していただきたい」

女神の復活は可能な限り避けるべきだろう。


「わかった。今度セリアを連れてくるよ」


「聞きたいことは以上ですかな」


「ああ。助かった」


俺はゲヘルと別れ、再び暗い部屋に戻る。

ベットに倒れ込むと痛みが体中を駆け巡る。

痛みが生きていることを教えてくれる。


俺はまだここにいる。


ゲヘルと話して一つ願望ができた。

今あるのは命の残りかす。

俺がこの世界から消える前にセリアが安全に生きられるようにしておきたい。

誰かのために果てるなら悪くない気がした。


俺は窓の外の星空を見つめる。

外の星空がゲヘルと見た星空に重なる。

アレは夢ではなかったと俺に告げるように。

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