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異世界の放浪記   作者: owl
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神殺しになりました

女神の放った攻撃は閃光花火のようにしばらくその場で輝き続けた。

直撃だ。体は全身血まみれである。

相当なダメージは負ったが体はまだ動く。

オズマ達の負った傷はこんなものじゃなかったはずだ。


「無駄な贅肉が取れてすっきりしたな」

俺は女神パールファダを見据える。

女神の体はほぼ人間と変わらないぐらいまで小さくなっていた。

ところどころ肌の色が違う。張りぼての人形を連想させる躰。

場所によっては皮膚がなく、筋肉が露出している。


背後の頭の上には光輪があり、小さいが力が凝縮されているのがわかる。

間違いない。アレが女神の核だ。


「わしがここまでされるとは…。貴様…本当にただの魔族か…」

女神はこちらを睨む。


「はっ、そのただの魔族にあんたは殺される」

俺は『天月』を構える。次が正真正銘の最後だ。


「…よかろう魔族よ。わしもお主を敵として認めよう」

怖ろしいまでの力が女神の眼前に集まっていく。


「顕現せよ。我が権能『光炉』」

女神の右手に太陽が現れる。

近くにあった山の表面が煙を上げ溶け出した。


距離があるはずが、皮膚が焼けるように熱い。

女神の出した力はこの大陸いや、この星を包み込むほど。

その力の前ではゲヘルのメギドすらかわいく見える。

この忌々しいくそ女神はさっきやった以上の大規模攻撃で俺ごと地上ごと焼き払うつもりらしい。

あんなのをもらえば一国ですら焦土になるだろう。


先手を取って攻撃したいが、女神との距離も先ほどの攻撃でかなり離されている。


こちらが有効な攻撃手段は『天月』による斬撃のみ。

それ以外投石等は女神の障壁『断界』に阻まれる。


俺は息を大きく吸い込むと、覚悟を決めて女神に向かっていく。


「玉砕覚悟で突っ込んでくるか。それもよかろう」

女神はその手にした光の玉を俺に向ける。

するとその光の玉は一回り大きくなった。


「神の光に焼かれるがいい…」


「ドン」

『天の目』からの光線が女神の後頭部に炸裂した。

さすがの女神も真上からの攻撃は想定していなかったようだ。


「なにっ」


ネイアさんからもらった『ルート』で操作できる『天の目』にはいくつかの能力がある。

透視能力、学習能力、記憶能力、そして攻撃能力。

天井からの予想だにしない攻撃を受け、女神は少しだけ怯み、空を見上げる。

だがそこには透き通るような青い空が広がっているだけだ。

視界にとらえられるわけがない。

『天の目』はこの星の衛星軌道上、高度数千メートルにあるのだから。

意味が解らず女神は一瞬動揺する。


そのわずかな時間に俺は全力で女神との距離を詰める。


「消し飛ぶがいい」

女神は手にした巨大な光球を俺に向け放つ。

俺はすべての魔力を『天月』の切先に込め、光の球に向かっていく。


俺が光の球に呑み込まれていくのを見て女神は勝利を確信し、微笑んだ。


俺は光球を貫き、俺は黒い閃光となり一直線に女神の眼前に現れる。

全身焼け焦げている。人間だったら即死ものだ。

もちろんこれには女神も驚いたようで一瞬の硬直し反応に遅れる。

そしてそれが勝負を決めることになった。


「うおおおおおおおおおお」

俺の持った『天月』が女神を貫いた。

衝撃が背後に突き抜ける。

女神は糸の切れた人形のようにだらんとなった。


「我が権能すら…そうか、わしはここで負けるのじゃな」

女神パールファダは剣を受けたまま、穏やかな表情を浮かべていた。

この女神は敗北を受け入れている。

その女神の表情に俺は勝利を確信する。

そして、いつの間にか憎しみの感情が嘘のように消えていた。


「わしは選ばれなかったというわけか…くやしいのう…」

パールファダは先ほどまでの死闘が嘘のように泣きかけの子供のような表情になり、俺は言葉を失う。

後味の悪さに少しだけ罪悪感がちくりと胸によぎる。


ひょっとしたらもっと別の方法があったのではないか。

もっと別の選択が取れていたのではないか。

激情に身を任せてしまったことを今更後悔する。


「女神、お前は…」


「おい、魔族。貴様の名はなんという?」

こちらが言い終える前にパールファダは声をかけてくる。


「ユウ・カヤノ」


「わしを倒せし魔族ユウ・カヤノよ。覚悟せよ、貴様はこれより呪われる」

パールファダはそう言い残すと光の粒子となり消え去った。


「オズマ、クラスタ、カタキはとったよ」

後に残ったのは達成感ではなく喪失感。

もう彼らは戻ってこない。

…とにかく終わったのだ。


パールファダが消えたことで緊張の糸がとけた。そのまま地上に落下していく。

どうも体に力が入らない。力を使い過ぎたようだ。

このままだと地面に激突するな…などと他人事のように思っていると、何者かに抱き留められた。


「本当にユウ殿は本当に無茶をしますな」

ゲヘルが俺を抱きながら語りかける。


面を上げると六人の魔族がそこにいた。

ゲヘル、ラーベ、ネイア、ヴィズン、ゼロス、クベルツンだ。


「さすがに私もこれは予想外だったよ」

腕を組み虚空に腰かけるようにしてラーベ。


「さすがユウ様ですわ」

ネイアはひたすらに感激している様子。


「がっはっはっは、わしのやった剣で女神を倒してしまうとは」

巨大な鎚を片手にヴィズンは豪快な笑い声を上げる。


「ククク…これだから面白い」

ゼロスは子供の姿で本当の子供の用に笑っている。


「…王…さすが…」

クベルツンはふよふよしていて全く感情が読めない。


そこにいるのは極北にいるはずの魔族の六柱。

女神からは魔神とまで言われていた存在。


「どうしてここに…」

ゲヘルに抱きかかえられたまま俺は目を白黒させる。


「女神が復活したと連絡が入っての。わしら総出で倒しに来たのじゃよ。

まさかユウ殿が先に倒してしまうとはの」


「倒しに来た?」

俺はゲヘルに連絡を入れていない。

エリスもセリアもアタもゲヘルと連絡を取る手段は持っていないはずだ。

ゲヘルの使い魔か何かか?


「ユウ殿には言っておらなかったが、奴らはわしらの敵じゃ。

女神連中は自身の目的のために世界の理を捻じ曲げる存在じゃ。

そんな存在が現界したのであればこの世界のためにも即倒さねばならぬ」

ゲヘルは言い切る。


「私たち魔族は世界の監視役。導き手の役である彼女らとは根本から役割が違うのですよ。

…導き手としての役割も最近は果たしておりませんがね」

ラーベは困ったようなしぐさをする。


「悪く思われようが常に公正な判断をするには厄介者のほうがいろいろと都合がいい」

ゼロスは俺を見ながらわざとらしく肩を竦める。


「そうじゃな。我々は人間と馴れ合いをするつもりはないしなぁ」

自身の髭をいじくりながらヴィズン。


「ヴィズンは自分の趣味に没頭するためでしょ」

ネイアがヴィズンに横からツッコミを入れる。


「はっはっは、まあそういうのもいるがな」

ヴィズンは笑ってごまかす。ヴィズンの酒と鍛冶か。

なるほど、好き勝手できるのが魔族ということらしい。

少しだけこの世界での魔族の在り方が見えた気がした。



ここで言っておかなくてはならないことがある。

俺は思い切って声を上げる。


「ゲヘル、ラーベ、ネイアさん」

俺の声に三人が振り向く。


「すまない。…俺はあいつらを守れなかった」

俺は三人に頭を下げる。


「奴等とは…」

ゲヘルが首をかしげる。


「オズマとクラスタなんだが…」


「奴らは生きておるよ」


「ん?」

ゲヘルの一言に俺の思考が停止する。


「生きてる?そんなわけが…」

戦っていた場所には何もなかったはずだ。

女神の攻撃が大臣邸を焼き払った後、魔族である第六感を使い全力でその魔力の痕跡をたどった。

少なくとも王都カーラーンとその周辺には彼らの魔力は感知できなかった。

それが生きているという。

俺はわけがわからなかった。


「ちなみに連絡をくれたのも奴等じゃ」


「オズマたちは本当に生きている?そんな…どうやって…」

言っている意味が解らない。

あの状況でどうやって生きていたというのか。


「見たほうが早いじゃろ」

ゲヘルが指先で円を描くと丸くその場だけ別の風景になる。


「主殿、御無事でしたか」

「大将無事か?」

オズマとクラスタの姿が現れ、声が聞こえてきた。テレビ電話の様なものらしい。

生きて動いている姿を目の当たりにし、俺は声も出ずにだた胸をなでおろす。

よかった、生きていてくれた。


「白のローブの女性に助けられたそうじゃ。その白ローブの転移魔法によってな」

転移魔法と言う言葉に一瞬ラーベの表情が強張る。

白ローブの女性?

確かにさっき離脱するときに転移魔法を使っていた。

考えられない話ではない。


「すみません。転移した先がカーラーンよりかなり離れておりまして。

連絡するのが遅れました」

画面のオズマが頭を下げてくる。

オズマの背後にリーブラの城壁が遠くに見えた。

リーブラ付近まで飛ばされてるんじゃ感知しようがない。


「それで女神は…」


「ユウ殿がわしらが駆けつけたときにはもう倒しておったわ」

ゲヘルの一言にあまりの衝撃に画面の向こうで二人が凄い顔をして固まっている。


「…クックック」

二人の驚いた顔にラーベが笑いを押し殺している。

確かにオズマがあんな顔をしているのは初めて見る。


「二人とも生きてたんなら…まあよかったけどさ…」

俺は顔をそむける。

オズマ達が死んだと勘違いしてキレてたなんてかなりの赤面ものだ。

思い返してみればなんか中二っぽい台詞を吐いていた気がする。


「興奮しちゃった。本当にすごかった」

ネイアさん…体押し付けてくるのやめて。

ある意味嬉しいけど全身やけどしてて痛いし、人前では社会的にまずいです。


…あの本当にすごかった?

ネイアさんの聞き捨てならない台詞を耳にして俺は固まる。


…ま、待てよ…ネイアさんたちも『天の目』持ってるんだよな…。『天の目』って確か…


ひどく嫌な予感がした。

ちなみに拭い去れない黒歴史が誕生したことを知ったのはもう少し後になる。

『天の目』の最後の一つの機能によって、ネイアさんに公開処刑されるのはもうちょっと先の話だ。


戦いが終わって気が抜けたためか、オズマ達が無事で安心したためか解らないが

突然睡魔に襲われる。瞼が重くて開けていられない。


アレ?…だんだんと意識が遠のいて…。

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