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異世界の放浪記   作者: owl
73/121

青く澄んだ空の下で

女神パールファダは西に向かって進んでいた。

空には雲一つ見られない。青い空がどこまでも続いている。


女神の進路に人影があった。女神はその前で止まる。

白いローブを身に着け、大きな杖を手にしている。

複数の目がその小さな存在に向けられる。

その化け物と対峙するにはあまりにか細く、頼りない。


「小童が、神の進行方向に立つことの意味を知らないわけではないな」


「神…フフフフフ…そうね。今ここにいるあなたが私の一番嫌いなあなたで安心したわ」

白ローブの女はそう言って不敵に笑う。


「?」

どう考えてもこちらを知っている素振りである。

パールファダはすぐに考えるのをやめる。

出会ったことがあったとしても虫ごとき矮小な存在など記憶に留めないからだ。


「エルフの体を集めるという発想自体はこの状況では悪くない。

けれど元になる根源が多数存在しているために存在が安定しない。現界する手段としては下の下ね」

女の一言にパールファダの表情がピクリと動く。


「あなたの持っている能力は三つ。そのうちの一つである『空間』はその転生体じゃ使用は困難。

もう一つはあまりに不安定であるために現状では封印せざる得ない」


「…」

図星を言い当てられパールファダの表情が固まる。

その情報を知っている人間はいないはずだった。


「…じり貧ね。現状であなたが満足に扱える能力は実質一つ。

憐れね。そんな様で神を名乗るとか…私なら恥ずかしくてとてもできないわ」

白ローブの女のエメラルドの瞳をみてパールファダは思い出す。


「…ハイエルフか。素体としては極上じゃな。取り込んでくれよう」

パールファダの腕の一つが女の前に現れ、女のいた場所を掴む。

『空間』の能力を使用したのだ。


「そう。ならば取り込んで腹を下さないようにしたほうがいいわよ?

ああ、その前に取り込めたらだけど」

掴んだはずの白ローブの女はパールファダの背後にいた。

パールファダの体の周囲に複数の黒い塊が現れる。


「小賢しい」

パールファダは体から閃光を放つ。

黒い力場が周囲に発生し、女神の光線を巻き取り爆発する。


「読めてるわ」

白ローブのこちらの手を知り尽くしているかのような戦い。

それをみてパールファダは先ほどの言葉がはったりでないと確信する。

確かに能力は三つあるが、そのうち二つはまだ人には知られてはいないはずだ。


それを知っているのは三人だけ。

一人はもういない。二人は決して口にすることはない。


「なぜ…現界した神とハイエルフ如きがわしの能力を知っている」


「さあ、何ででしょうね」

白いローブの女は挑発の笑みを浮かべる。


「あなたを倒すのは私じゃない。けれどあなたはここで削らせてもらう。

最後に私のとっておきの魔法をあげる。マジックキャンセラー解除」

そう言うと白のローブの女性の背後に二つの巨大な魔法式が現れる。


「我、天元の空に在りし者。祖は永劫の夜への道しるべ。

右手には因果の鍵と左手には虚ろいし時の器。

今一度ここに顕現し、うつろわざるものをかの地に戻さん」


「なぜ…その魔法を。それは…」


「神滅魔法メギド」

彼女が放ったのは邪竜を葬ったとされる世界の魔法の頂点。


光が溢れる。


「ぬああああああああああ」

王都の西の空で太陽が出現し、すぐに消える。

大魔法に包まれたパールファダは無傷だった。


「おのれおのれおのれええええええ…器ごときがぁああああああ。

この私にわずかばかりの恐怖をあたえ、その上わしの能力まで奪うとは、もう容赦はせぬぞ」

現界して初めてパールファダが抱く強い憎しみの感情。

殺気が渦を巻き周囲にまき散らされる。

神のまき散らす殺気、もし人間がそれにさらされれば即死してもおかしくはない。


「『空間』を犠牲にして本体を護ったのね。当然か。

これであなたの『空間』の能力はしばらくは使えない。残りは『光炉』のみ」

パールファダの殺意にさらされても白ローブの女の淡々とした声は変わらない。


「神を愚弄したお主だけは許さぬ。霊体ともども塵にするだけでは飽き足らぬ。

輪廻からはずし、未来永劫、煉獄にて永劫の苦しみを与えてやろう」

パールファダの背後に光の輪が現れる。

俗にいう後光というモノだ。神の力を存分に使いこの敵を葬ることにしたのだ。


「良い顔になったじゃない。その顔のあなたなら相手をしてもよいのだけれど。

どうやら私のここでの役目は終わりのようね」

白ローブの女は杖を降ろした。


「む…」

今来た方角から高速で接近する存在を感知し、パールファダは攻撃を止めた。



東の空からやってきた俺はその状況に困惑していた。

一瞬見えた今の光には見覚えがあった。


ゲヘルが使ったメギドの光。

ゲヘルが来ているのかと思えばそこにいたのは白ローブの女。

状況が全く読めない。一体何がどうなっている。


「あんたは…」

俺はこの女性を知っている。リーブラで出会った占い師の女性。

その女性が女神と対峙していたと考えられる。

にわかには信じられない光景である。


白ローブの女性と目線があう。

そこにあったのはいつも見ている深い森を連想させるエメラルドの瞳。


「ユウ。私のできるのはここまで。後はあなたにまかせるわ」

その女性は俺を見て満足気に微笑む。


「…あんたは?」

俺は困惑していた。魔族ではない。

だがあの魔法は間違いなくゲヘルの使った魔法の光だ。

この女性はゲヘルにも匹敵する魔法使い?彼女は一体?


「ここまで虚仮にされ、わしが逃がすと思うか?」

激昂しパールファダ。

口から放たれた巨大な閃光が白ローブの女に向かう。


「本当に滑稽を通り越して憐れね、パールファダ」

白ローブは嘆息する。そして俺のいる方を一瞬ちらりと見る。


「またね、ユウ」

白ローブは微笑み、そう言い残すとその場から消える。

直後、女神の放った無数の光線は虚空を貫いた。


…空間転移!


「馬鹿な、なぜ失われたはずの転移魔法をハイエルフごときが使える」

俺よりもパールファダの方が驚いている様子。

かなりレアな能力らしい。


白ローブのことは今はどうでもいい。

俺の敵はパールファダなのだから。

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