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異世界の放浪記   作者: owl
72/121

心の虚(ウロ)を埋めるモノ

両腕にいるエリスとセリアのぬくもりを感じ、俺は安堵する。

どうやら二人を守れたようだ。


「あ、ゴメン」

俺はあわてて二人から手を放す。二人はは顔を真っ赤にしている。


「ユウ…手が…」

セリアが心配そうに俺の手を見る。

結界を張っている俺の手の表から煙が上がっている。

見かけは派手だが、手の表面の皮が焼けただけだ。

魔族である俺からすればこんなのはすぐに回復するし、こんなのはけがのうちに入らない。


問題は手の表面まで女神の放った攻撃は近づいてきていたことだ。

もう少しで結界ごと消し飛ばされるところだった。

俺の結界が耐えられるかどうかは賭けだった。

女神の攻撃よりも俺の全力の結界の強度ほうが辛うじて上だったらしい。

とにかくセリアとエリスを守りきることができてよかった。


「大丈夫だ。このぐらい。それよりオズマ達を探そう」

俺は背後を振り返る。そこで俺の目に入ってきた光景に俺は絶句する。

見渡す限りの焼野原。あらゆる造形物が消し飛び、地面が抉られていた。

俺たちのいる場所だけが不自然に残っている。

大臣邸が存在した痕跡すらも見ることができない。

女神から放たれたのはあらゆるものを呑み込む力の濁流。

その濁流の前にはあらゆる形あるモノが消え去った。


大臣邸は蒸発し、跡形もない。

水槽のあった建物は信徒ごと消えていた。

あの女神の放った火力の前にはどんなモノであろうとその原型をとどめない。

神の前では人間の営み、すべてがゴミに等しいということだ。

まるで悪い夢を見ているような気がする。


「そんな…嘘だろ…。オズマ、クラスタ、聞こえていたら返事をしてくれ」

俺は声を張り上げ、周囲を見渡す。

オズマもクラスタもこの場所でカルナッハと戦っていたはずだ。

もうその痕跡すら見出すことができないが。


全知覚を総動員して何度も周囲に魔力の反応が無いかを探る。

周囲には一切の魔力反応がない。


「オズマさん、クラスタ…」

背後をみればセリアは泣いていた。エリスはうつむいている。

傍から見れば生きていることは絶望的な状況である。


「おい頼むから誰か返事してくれよ」

俺は可能な限りの大声を上げて呼びかける。


「ユウ殿」

アタが俺の名を呼び空から降りてきた。


「アタ、無事だったんだな」


「…パールファダの気配を感じとった段階で私は逃げ出しましたので。

まさかパールファダが現界する場に立ち会うことになるとは…」

逃げ出したアタのことは責められない。

生きていてくれたことに感謝する。


「オズマとクラスタは?」


「…少し飛びましたが…付近一帯人影はみられませんでした」

アタはそう言って沈痛な面持ちを見せる。


ここで俺は現実が少しずつ受け入れられてきた。

ああ、俺はオズマとクラスタを永遠に失ったんだ。


そのことを認めるとまるで胸にぽっかりと穴が開いたようになった。

苦しみや悲しみはなかった。まるですべてが嘘みたいだ。

あいつらはもうこの世界のどこにもいない。

ぽっかりと空いた胸の隙間にどす黒い感情が濁流のように入り込み、

それは空っぽの俺を突き動かす。


「俺…ちょっと行ってくる」


「ユウ殿、まさかあのパールファダと戦うつもりですか?」

アタの声にセリアとエリスが一斉に俺の方を向いた。


「…」


「それこそ自殺しに行くようなものです。アレは創造神直系の三女神。創造神に次ぐ神格を有し、

それでいて至上と言われる能力を三つ有しています。

上位の魔族が束になってすら戦いにすらならないでしょう。

あの女神の加護を受けた人間ですら化け物なのに、現界した神を相手取ろう…」

俺の横顔をみてびくりとアタが言葉を止めた。


(神族の末端とはいえ私が怖れを抱いた…?この魔族は一体…)


「どんな相手だろうとあいつは俺が殺す」

今の俺の表情はきっと醜いだろう。


「…ユウ、行かないで」

セリアが俺の袖を引っ張る。その瞳には涙をためている。

俺はセリアを抱きしめる。


「何でもユウの望むことなら何でもするから。料理だってがんばる。

学校でも何でも行く。私にはあなたしかいないの。…だから行かないで」


セリアはそう言って泣きながら必死にしがみついてくる。

俺はそんなセリアの頭をなだめるように撫でた。

ずっとセリアがそんな風に思っていてくれたことがちょっとうれしかった。


この世界に一人でやってきて、たまに疎外感を感じる時があった。

俺はもう一人ではなかったんだな。


「セリア、俺さ、この世界に来て戸惑ってばかりだったけど、

みんなと旅をしてて凄く楽しかった」

仲間たちと出会い旅をすることで心の何かが埋まった気がした。


オズマにずっと世話になりっぱなしだった。

こんなことならもっと肉串を食べさせてやりたかった。


クラスタとはもっと酒を酌み交わしたかった。


ああ、いつの間にか二人は俺のかけがえのない仲間になっていたんだな。


「ずっとあいつらと旅ができると思ってたんだ。セリアから聞いた場所をみんなで回る。

そこで俺たちは見たこともない世界や街並を見て回るんだ」


「…うん」

セリアは涙を流しながら俺の話を聞いてくれている。

俺の願望は夢と消えてしまった。


「…あいつらがこんな形で終わったことに俺自身が許せない」

激情が形となり俺の周囲に黒い風に変わりまとわりつく。

黒い風が俺とセリアを離した。


「だからこれは俺の我儘だ」

ゆっくりとセリアたちから遠ざかって行く。

泣いて崩れ落ちるセリアをエリスが優しく抱きしめる。


「エリス、セリアを頼む」


「わかった。…だがせめて無事で帰って来ることを私たちに約束してくれ」

セリアを背後から抱きしめながらエリス。


「ああ」


久しぶりに使う飛翔。

竜たちに追われるために使うこと禁じてきたが、あの化け物を殺せるのならばこの際どうでもいい。

王都カーラーン全体を見渡せる高さまで上昇した。

大臣邸があった場所から城壁まで一直線に破壊の跡があった。

女神の放った光は城壁を破壊し、そのまま山を破壊していた。

そのおぞましい破壊力に顔をしかめる。


魔族の感覚を通してカーラーンのあちらこちらから悲鳴が聞こえてくる。

耳にはあの女神の耳障りな笑い声が残っている。

あの女神を野放しにしておくわけにはいかない。


神だろうと悪魔だろうとこんな暴力が許されるわけがない。

許されていいはずがない。

必ず俺から二人を奪った代償を払わせてやる。


俺は奴の消えた西の空に向けて全力で飛翔した。

パールファダ、お前は俺が殺す。

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