表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の放浪記   作者: owl
69/121

蝕の始まり(sideセリア)

「カルナッハ様」

その声に意識が呼びさまされた。どうやら誰かに担がれているらしい。

周囲には数人の人の気配がある。

私は目を開けることなく気絶しているフリを続けた。


「侵入者ですか」

この声の主には聞き覚えがあった。


ここはどこだろう。私は今までの状況を頭で整理する。

サリア王国の王宮に招かれ、エドワルド王に出会いにいった


カルナッハと呼ばれる男に出会い、

いきなり目の前に現れ手をかざしたまでは覚えているがそれ以降の記憶がない。

私がここにいるということはユウたちを振り切ってやってきたということだろう。

あのユウのことだから死ぬことはないと思うが…。


『災厄』のカルナッハとクラスタが背後でつぶやくのを聞いたのを思い出す。

カルナッハ…おとぎ話でその名は聞いたことがある。

私の記憶違いでなければカルナッハとは二つの王国と七つの街を滅ぼした狂信者、

あるいは人類史上類を見ない殺戮者の名前のはずだ。

神の名の元に刃向う者たちすべてを血祭りにあげ、

殺した人の数は一つの国ほどいると言われている。

五百年前の人物だが、どうもその男らしい。


よりにもよって王宮というこの国で最大の警備を誇るところに一人でやってくるとか。

そんな存在が何人もいてたまるか。


私がオズマさんでも倒せなかったカルナッハと戦えるとは思えない。


侵入者とカルナッハは言っていた。

侵入者というのはユウたちしか考えられない。


「警備の者を雇ったと聞いていましたが…。やれやれ仕方がありませんね。

私が行きましょう。他の者は引き続き儀式の準備を続けていてください」

カルナッハの気配が部屋から消える。

侵入者を排除しに向かったのだ。

カルナッハが立ち去った今が逃げるチャンスだ。


「早くその贄を水槽の中にいれろ。もうすぐ儀式の時間だ」

「わかった」

私を担いでいるどこかに落とそうとしているらしい。

階段らしきものを上がっていく。


薄めで周囲を確認する。足元には巨大な水槽がある。

中に何があるのかは濁っていて見えない。


男が私を水槽の中に落そうとした瞬間、私は暴れ、担いでいた男から自由になる。

「こいつ起きて…」

私は落ちるなり、私を担いでいた信者の背後に回り込むとそのまま蹴り飛ばした。

私の蹴りを受けて男はバランスを崩し、水槽の中に落下する。


「ぐあああああ」

私の代わりに水槽に落ちた信者が体がみるみる溶け、骨だけになった。

変わり果てた男を見て、私も少し間違えればああなっていたのかと思い寒気が走った。

男には同情はしない。もう少しで私もああなっていたのだから。

周囲を囲まれる前に私は階段を下り、その場から移動する。


私を捕まえようと背後から複数の信者たちが追ってくる。

子供だと思って服をつかみかけてきた信徒を追ってきた信徒に投げつける。

相手は追ってきた数人の信徒たちを巻き込み倒れた。


「こいつ…ただの子供じゃないぞ」

大の大人が怪力で投げ飛ばされたことにより信徒たちは少し及び腰になった。


もちろんはったりである。

習いかけだが法術を使っているために普通の人間以上の力は出せる。

掴んできた信徒を投げた腕が痛い、法力を使ったために体がだるい。

やはり使えるのはもちろんほんの一回だけらしい。


だが信徒たちには効果的で、私の反撃を警戒しはじめた。

改めてエリスに法術を習っておいて良かったと思う。


私と信徒たちはにらみ合い、お互いに膠着状態に陥った。

この状況はこっちとしては願ったりだ。

ユウならば必ず私を助けに来てくれると私には確信があった。


ふと周囲をみわたせば、逃げるのに必死な上に薄暗がりで気づかなかったが、

水槽を取り囲む台の上にずらりと信徒たちが並んで何やら唱えている。

この場所は異様とも呼べる空間だった。


この人たちは一体何をしているのか。理解が追いつかない。

とにかく一刻も早くこんな場所から逃げ出したほうがいいだろう。


「お前たち何をしている。子供一人などとっとと捕まえてしまえ」

いきなりやってきた身なりのいい男が私の捕縛を周囲に命じる。

すると一斉に私めがけて信徒たちが襲いかかってきた。


もうだめかと思った時、私の前に銀の騎士が空から降りてきた。

私を捕まえようとしてきた男たちが銀の騎士に一蹴される。


「無事か、セリア」

銀の騎士、エリスは見事ともいえる体術で男たちを倒した後、

私を気遣う言葉を投げかけてくれた。


「エリス」

私は安堵の声を上げる。

どうやら私は助かったようだ。

エリスが来てくれたことで安堵したのか、男を投げた腕に痛みが戻ってくる。


「大丈夫か?」

エリスが私を心配し、声をかけてくれる。


「平気」

痛みにより生きていることを実感させられる。


私は台の上にいる信徒たちに目を向ける。

台の上にいる信徒たちは表情を変えることなくずっと何かを唱え続けている。

私は背筋が凍りつくような悪寒を覚えた。


「おい、これは一体何をやっている」

エリスは身なりのいい男の胸倉をつかみ問いただす。


「…神にふさわしいモノだけが溶かされることなく残る。そしてそれが神の憑代となるのだ」

エリスに追及された男の目は焦点があっていない。


神の憑代?


「『聖別の檻』か。文献では読んだことがあるが、本当に存在しているとはな。

女神復活も出まかせでは無いようだ」

エリスの表情は険しい。


女神復活?エリスは何を言っている?


「早くここを出ましょう。ここの空気、何かおかしい。それに何かものすごく悪い予感がする」

私はエリスの手を引いて、この建物から出て行こうとする。


見れば屋敷の外は闇に包まれていった


日蝕が始まったのだ。

部屋の中の声が一際大きくったような気がする。

まるで異界にでも迷い込んだ気分だ。

空気が重い。息をするのも困難なほどに。

視界の端で水槽の中で何かが巨大な影が蠢くのを捉え、私は振り返る。

水槽の中には何もいない。


気持ちが悪い。

気持ちが悪い。

気持ちが悪い。

気持ちが悪い。

気持ちが悪い。

気持ちが悪い。

全身が泡立つ。

まるで巨大な生物の臓腑の中にいるような感覚。

全身をなめまわされるような感覚。

それは根源からくる恐怖。


バシャ


その音に全身に電撃が走ったような衝撃を受ける。

水槽で水が跳ねただけのはず。それだけなのに体全体が総毛立つ思いがした。

心臓が飛び出るように鼓動を早くしている。


目を向けてはダメ。

目を向けてはダメ。

目を向けてはダメ。

目を向けてはダメ。

私はひたすらそう念じ、ずっと下をうつむく。

気が付けば私の手を握りているエリスの足が止まっていた。

私は顔を上げエリスの表情を覗く。

エリスは顔をゆがめ、ただ水槽の方をじっと見つめていた。

それにつられ私は再び水槽に目を向けてしまう。


そして、それはゆっくりと水槽の中から姿を現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ