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異世界の放浪記   作者: owl
67/121

決戦のはじまりです

城を出た俺たちは王都の屋根伝いに大臣邸に向かっていた。

道を使うよりも障害物がなくてこっちの方が早いのだ。

目的地まで一直線に向かえるというのもいい。


空を見上げれば月と太陽はもうかなり近づいている。

日蝕まであと三十分もないだろう。視界に小さく大臣邸が見えてくる。


「…カルナッハの他に使徒がいる可能性は?」

俺は一つの可能性に思い当たりオズマに尋ねる。

女神の使徒カルナッハ一人ではない。

他の使徒は知らないがカルナッハクラスを複数同時に相手にするのは無謀である。


「…低いですね。パールファダの使徒はカルナッハただ一人のはず。

カルナッハは特にその強過ぎる力ゆえに単独行動を好む傾向にあると聞きます。

他の信徒たちは強くてもただの人の域でしょう」

人の域ならばそれほど問題にはならない。


「私もそれには同意だ。使徒はどうも縦割りらしくてな。

同盟は組むが、共闘はしないと聞いたことがある」

エリスの話を聞いて俺は今後の作戦を決めた。


「エリス、アタと一緒にセリアの救出に向かってくれ。

カルナッハの入っていった建物は大臣邸の東側にある大きなドーム状の建物だ」

『天の目』からみた光景の詳細をエリスに伝える。


「私もですか?」

俺たちの近くを飛んでいるアタが声をあげる。


「多分そこにはかなりの確率でカルナッハもいる。

もし遭遇したらエリスだとしてもカルナッハはきついだろう。

アタがエリスの目になってカルナッハとの遭遇を回避してくれ」

それにできることならばセリアと離れた場所で戦いたかった。

カルナッハとの戦いはかなり派手なものになる。

それにセリアが人質に使われるのは何としても避けたい。

また近くにいれば戦いのとばっちりを受ける可能性もある。

それだけは絶対避けたかった。


「ユウ殿たちは?」


「俺たちは囮になる」


「いえ、主殿もエリス殿とセリア殿の救出に向かってください」


「だめだ。カルナッハとは俺も戦う」

オズマの提案を俺は拒む。

あのカルナッハの加護は反則だ。

カルナッハはオズマとクラスタだけでは戦いにならない。

それは二人を死地に送るようなものだ。そんなことは絶対に許容できない。


ふと脳裏に最悪の状況がよぎる。カルナッハはセリアを贄にすると言っていた。

俺がたどり着いたとき、セリアがすでに贄にされてしまった後だったら…。


「ユウ殿大丈夫だ」

こちらの不安を呼んだかのようにエリス。


「セリア殿には法力の手ほどきをしてある。

ほんの数日の付け焼刃だが、意識が戻ればただの一般人相手ならば少しはもつはずだ。

作戦は必ずうまくいくさ」


「ああ、すまないな。エリス」

エリスに励まされてしまった。

大臣邸の門の前で俺たちは別れた。



俺たちはそのまま真っ直ぐ門に向かって歩いていく。

大臣の屋敷は高い塀に囲まれている。

普通の人間ならば飛び越えることなど考えもつかないだろうが、

エリスならばこのぐらい問題はなさそうだ。


俺たちはきっちり囮役をさせてもらうことにしよう。

「さて、俺たちは派手にいくとするか」

俺の言葉にオズマとクラスタが頷く。


「何者だ」

「お前らここがジルコック首席大臣の屋敷と知ってのことか?」


二人の門番が引き止めにくるも、俺たちは無視してそのまま門の前に行く。

俺は門の手前で足を後ろに振り上げた。


ドン

俺が思い切り蹴飛ばすと派手な音を立て門が歪な形に変形になり、吹っ飛んでいく。

百メートルぐらい吹き飛んだだろうか。

本当にこの魔族の体の力は凄まじい。


「…」

門が吹き飛んだのを見た二人の門番は口を大きく開き唖然としている。

俺たちは我が物顔で大臣邸に足を踏み入れた。


「侵入者だ」

屋敷の邸内に足を踏み入れると俺たちは警備兵と番犬たちに囲まれる。

ここにいるのは大臣邸の警護兵だろう。

警備兵まで雇ってるのは後ろめたいことをしていると自覚しているためか。


番犬はオズマが一睨みすると一目散に逃げ出していく。

本能でオズマには敵わないと悟ったのだろう。


「な、なんだ番犬たちが…」

残ったのは数名の警備兵たちだけだった。


「どけ、俺がやる」

衛兵たちとは違った恰好の男たちが目の前の人を押しのけ俺たちの前に姿を現す。


「久しぶりに歯ごたえのありそうな連中だな。ここ最近なまってたんだ」

中でも一際大きな体躯の男がそう言ってにやりと笑う。

出てきた一団は武器なども使い込まれ、手入れがなされている。

明らかにそこいらにいる警備兵とは違い、場馴れしているようす。


「俺は冒険者チーム『雪竜の大牙』のバルッツ様だ」

大層な名前である。ジルコック首席大臣が警備としてギルドから雇ったのか。

ここは手っ取り早く一番強そうなのを潰してしまおう。

力差を見せつければちょっかいをかけてこないだろう。 

だだ冒険者を名乗っているし、殺さないほうがいいか。


「オズマいいよ。ここは俺がやる」

前に出て行こうとするオズマを制して俺が進み出る。


「おいおい、お前、そんなちっこい体で俺と戦おうってのか」

バルッツはこちらを嘲る。


「前置きはいい、時間がないんだ。早く来いよ木偶」

俺が挑発するとバルッツが青筋を立てて槍を俺に向け突きを放った

俺はその攻撃を難なく躱し、俺に向けられた槍の頭を手でつかむ。

俺がその槍をつかむとぴたりと動かなくなった。

しばらくその膠着状態が続く。


「おいおい、カッツ何やってるんだ?」

バルッツの仲間たちが訝しむ。


「な、なんだこりゃ…動かねえ」

押しても引いても動かない槍にバルッツの男の顔がみるみる変わっていく。


「離すんじゃないぞ」

巨漢の足が地面から少しだけ離れる。

俺は木偶ごと槍を振り回し、周囲にいた連中を薙いだ。

十人を巻き込んだあたりで槍が折れた。


「なんだ脆いな」

俺はそう言って手にしていた槍の先を無造作に投げ捨てた。

ドスッという重い音を立てて槍の頭が地面に突き刺さる。


バルッツは仲間を下敷きにして泡を吹いて伸びていた。

多分死んではいないだろうが、骨は何本か折れているだろう。

死んでいないだけましだと思ってもらいたい。


それを見て警備兵たちが顔を青くしている。


「人間じゃねえ」

「化け物かよ…」

バルッツと言う男には悪いが良い見せしめになってくれたようだ。

冒険者のようだし、どこかであったら酒でも奢ることにしよう。


「次、俺たちの進行を邪魔したい奴はいるか?」

感情を押し殺した声で俺が言うと自然と道が開いた。

だれもこんなところで命などかけたくないというのが本音だろう。

狙い通り相手は戦意喪失してくれたようだ。

俺たちは棒立ちになっている男たちを素通りして歩いていく。


カルナッハの向かった建物の方角へ足を進める。

後からやってきた男たちが俺たちの周りを遠巻きに包囲し、向け弓矢を構える。


「動くな、撃つぞ」

俺はその警告を無視する。

男を無視して足を止めない俺たちに、司令官らしき男の顔がみるみる赤くなっていく。


「や、矢を放て」

その掛け声とともに一斉に俺たちに向けてやが放たれる

矢がこちらに向けて雨のように向かってくる。


「クラスタ」

「あいよ」

クラスタが指を鳴らすとクラスタの魔力『矢じり返し』を使った。

俺たちの周囲を突風が吹き荒れる。

放たれた矢は風により反転し、放った相手にそのまま向かっていく。


「ぐあ」

弓兵たちは全員肩や腕に矢を受けた。


「な、なんだ…」

「魔法か?」

矢を返され、相手は動揺していた。


「次は頭に返すからな」

クラスタが頭を人差し指で撃つしぐさを見せると弓兵たちは凍りつく。


「追撃しますか?」

「これ以上はジルコック様に立ち入るなと言われているんだぞ」

内もめをはじめた様子。こちらを追いかけてくる気配はない。

このまま進ませてもらうことにしよう。


空の上では月と太陽が重なる手前だ。

もうそろそろ皆既日蝕がはじまる。


「これじゃ、張り合いねえな」

クラスタが愚痴をこぼす。


「気を抜くな。そろそろくるぞ」

オズマが場を引き締める。

そう、まだ肝心の奴が出てきていない。


「上だ」

空間の歪みが空から俺たちめがけて見えない歪みが降ってくる。

人間ならば気付かないだろうが、俺は魔族の六感のようなものでそれを感じ取れる。

俺たちは別れて飛びのきそれを躱した。


ズズズズ…


カルナッハの攻撃は俺たちのいた地面をえぐっていく。

底が見えないような穴が地面にぽっかりと空いた。

どうも空間と言う属性上、障害物にその威力は左右されないらしい。

カルナッハが宮廷で近衛兵たちをいきなりぺしゃんこにしたのを考えると

まともに喰らえば魔族であろうと骨すらも残らないだろう。

『災害』扱いされるだけあってとんでもない能力である。


「なかなか素早い反応です。私の不意打ちを完璧に躱した者たちは久しぶりですよ」

カルナッハは道の真ん中に立ち拍手をしていた。


「おや、まだ生きていましたか?」

涼しげな声でカルナッハ。


「あいにくな」

これがカルナッハと俺たちの二度目の対峙となった。

カルナッハをおびき出すことには成功した。

どうにか作戦の前提条件はクリアしたようだ。

後はエリスにまかせてカルナッハを倒すことに集中することにする。


さあ、戦闘開始だ。

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