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異世界の放浪記   作者: owl
65/121

使徒の襲撃です

扉から入ってきたのは一人の男だった。

黒の帽子を着け、片手には本が握られている。

飾りっ気のない黒のローブはまるで牧師を連想させた。


蒸せるような血の臭いが辺りに立ち込める。

つまりこの男は衛兵たちの警護を強引に城を突破してきたのだ。

玉座の間までに一国の誇る守備を。それも全くの無傷で。

幾らなんでも非常識すぎる。


俺たちはその男の顔に見覚えがあった。

道中で一度馬車の中から見かけた男だ。


「私の名はカルナッハ・パルピィラオ。女神教第六神官の一人。

協力者の願いを聞き届けるために神の代行としてやってまいりました」

やうやうしく帽子を取り一礼する。

にこやかな笑みを浮かべているが、それが不気味さを際立たせる。


「曲者だ」


「これはこれは騒がしいですね」

背後からやってきた衛兵数名が巨人にでも踏みつけられたように

頭からぐしゃりとつぶされる。


早い。動作から発動までの時間差がほとんどない。

ただの人間では死んだという事実さえ知らないに違いない。


「カルナッハ…『災害』のカルナッハ」

エリスが顔をしかめながらそれを口にする。


「エリス、オズマ、武器だ」

収納の指輪の中にある武器をエリスとオズマの手元に出現させる。

俺も『天月』を手元に出し構える。

エドワルドとダーシュが見ているがこの場合仕方がない。


「かの悪名高き使徒殿を招いた覚えはないが?」

この状況なのにエドワルドは余裕を崩すことない。

王としてのプライドか?


「招く?我が女神が作りしこの世界に我が物顔で居座る人間風情が、消えよ」

カルナッハが手をかざすと歪みが手の先から放たれた。

空間の歪みが周囲を破壊しながら、こちらに向かってくる。

波の通り過ぎた城の石畳はべきべきに破壊されている。


「風絶」

クラスタの前に風の壁が出現する。

クラスタの扱う魔力は風であり、大気を司るものだという。

クラスタの魔力が歪みに炸裂し、部屋に暴風が吹き荒れた。


大気が壁となり攻撃が防がれた。

空間を操る力にどうして風が反応したのか、その時の俺は理解してない。


後で聞いた話だが、魔力と御使いの神力は反発しあうという。

この場合カルナッハの使った空間の力にではなくそれを構成する神力が

クラスタの魔力に反応し爆発を引き起こしたというのが正しいらしい。


「ほう…魔族ですか」

カルナッハは目を細める。


「フフフ…ハッハッハッハッハ。どうやら俺の悪運もまだ尽きてはいないようだ」

エドワルドの場違いな笑い声が周囲に響き渡った。


王様なんか急に笑い出したぞ?


「おい、ユウ殿」

エドワルドの声に俺は驚く。


「先ほどの契約通り、私を守ってみせよ」

真顔でエドワルドが言う。


「は?」

展開についていけず俺は間の抜けた声を上げる。


「守る?この私から?悪い冗談を…おや…一名足りませんね…」

カルナッハが顔をしかめると彼の頭上から黒い塊が落ちる。


頭上からオズマがカルナッハ向けて天井を蹴って勢いよく降下したのだ。


先ほどの爆風の最中、オズマは天井に跳躍していたらしい。

オズマは槍を天上に突き刺し、息を殺し、タイミングを見計らっていた。

人間をはるかに超えた一撃がカルナッハの頭上に振り下ろされる。


オズマの槍は男にあたることなく空を切り地面に小さなクレーターを作った。


オズマの槍が外れた?

いやオズマが狙いを外すことはありえない。

それにオズマの槍の軌道は確実にあの男を捉えていたはずだ。

男は躱した素振りも見せなかった。

…これは何らかの能力で外されたと考えたほうがいい。


すかさずオズマは手にした槍でカルナッハに突きを放つ。

槍はカルナッハに届くことなく、カルナッハの手前で静止していた。


「これはこれは物騒ですね」

カルナッハは手をオズマに向ける。


「去りなさい」

カルナッハがその言葉を口にするとオズマは背後に吹き飛ばされた。


「オズマっ」

一直線に飛ばされながらオズマは微笑む。

「突き刺せ千槍」

オズマがそう言うと、カルナッハの背後の影から黒槍が十数本現れ、

カルナッハの体を背後から突き刺した。

そのままオズマは背後の柱に激突する。


「やったのか…?」

相手が攻撃するタイミングならば、いかなるものであろうとそれを見切ることは困難だ。

それも背後からの攻撃である。どんな存在だろうとは意識外からの攻撃には弱い。

歴戦の勇であるオズマによる巧みな攻撃。

どんな戦士であろうとそれを防ぐのは困難だろう。


十数本の槍に突き刺されながらも、カルナッハは変わらず涼しげな表情を見せる。


「このような不浄な攻撃が私に通じるとでも?」

カルナッハがそう言うと影から彼を突き刺していたはずの黒槍が音を立てて砕け散った。

俺はオズマの魔力を使った攻撃が軽々と破壊されたことに驚きを隠せない。


「うおおおお」

オズマは雄たけびを上げ立ち上がる。鎧はぼろぼろであり、体は傷だらけだ。

だが眼光にはいささかの衰えも感じられなかった。

オズマの体の周囲には見えるぐらいの濃く黒い魔力が纏わりつく。

エドワルドやダーシュなどの一般人がいる中で魔力を解放することにためらっていない。

いつものオズマならばあり得ない。なりふり構っていないと言った様子だ。

一緒に二か月近くいるがこんなオズマは初めてである。


「ほう…今のを食らって生きていますか。フフフ…かなり高位の魔族ですね…おや」

床をすべるようにカルナッハは移動する。

カルナッハの姿が引き伸ばされたように見えた。

これは早いというだけでは説明がつかない。


「これはこれは『先祖返り』ですか」

カルナッハは上からセリアの顔を覗き込む。

セリアは震え硬直している。


「おい、セリアから離れろ」

俺とカルナッハの距離はおよそ三歩ほど。

俺はカルナッハに飛びかかる。


「贄は多いほうがいいですね」

カルナッハが手をセリアに向けるとセリアは糸が切れたように意識を失う。

意識のないセリアをカルナッハが抱える。


俺はセリアを取り返そうと手を伸ばすもその手は空を切る。

カルナッハは先ほどいた場所まで移動していた。


俺ですら触れることすらできないとか、幾らなんでも早過ぎる。

これは空間そのものを歪めている?


「セリアに何をした」

セリアに密着されているこの状況では手にした『天月』を振るうわけにもいかない。

俺はカルナッハを睨みつける。


「安心してください、眠ってもらっただけです。…素体は大切に扱わなければ」


「素体…何を言っている?」

聞き捨てならない台詞に俺は眉をひそめる。


「四百年ぶりに私を知っている方と出会えたというのに、

私も多忙でして…少しつらいのですが…」

カルナッハは帽子を取りこちらに向けて一礼する。


「お別れです」

その瞬間、カルナッハのいる景色が割れた。

大爆発が玉座の間で引き起こされる。



彼女は道端の喫茶店で珈琲を飲んでいた。

大通りに面した場所で日傘に覆われている、

その奇妙な風体に周囲からは奇異の目が向けられている。


「日蝕まであと二時間…そろそろか」

白いローブの女性の視線の先には王宮があった。


「なあ、香水つけすぎだぜ。鼻が麻痺しちまうよ」

白い狐の姿をした精霊が服の下から文句を言ってくる。


「安心して、これから退屈はさせないわ」

空を引き裂くような閃光と耳をつんざくような爆音が王都カーラーンを襲う。

人々は混乱し、その元である王宮に視線を向けていた。


「城から煙が上がっているぞ」

「一体何が」

王都カーラーン中が騒然としている。まるで戦争でも始まったかのようだ。


「王宮からの狼煙…始まったわね…」

白いローブを翻しその女性は立ち上がり姿を消した。


建国以来始まって以来の王都カーラーンの王宮、

それも玉座の間にて爆発が引き起こされる。

後の歴史家は言う、これはこの事変のはじまりにすぎなかったのだと。

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