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異世界の放浪記   作者: owl
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王様のお誘いです

国王エドワルドのいきなりの提案にセリアの対応は冷静なものだった。

「非常にありがたい申し出ですが、お断りさせていただきます」


「断る理由を聞かせてもらえるか?」


「私は平民出身であり、宮廷内の作法について全く存じておりません。

このような無学な平民が陛下のおそばにいることは

間違いなく陛下の名を汚すことになるであろうからです」

セリアの透き通るような声が玉座の間に響く。


「ふむ。だがそんなものではわしの権威は傷けられんよ。それでも貴公を望むと言ったら」

エドワルドは不敵に笑う。

気まずい沈黙が玉座の間によぎる。

「私には…」


「冗談だ。すまなかったな」

エドワルドの豹変ぶりに俺は眉をひそめる。

ここでエドワルドに試されていたことに気付く。


「この者らとは込み入った話がしたい。警護の者たちを下がらせよ」


「王」

王の左に立つ男が抗議の声を上げる。


「部下たちにこの国でこの者が行ってきたことを洗わせた。

その上で信頼に足ると私が判断した。その私の決定に異を唱えるつもりか?」

エドワルドにそこまで言われ、そこにいた男はしぶしぶ引き下がった。


「貴公らとは腹を割って話がしたい。堅苦しいのはお互い苦手だろう?」

そう言ってエドワルドは挑発的な視線を俺に向ける。


「もともと俺は妾の子でな。ああいう態度をしてると肩が凝る」

苦笑いを浮かべながらエドワルド。

先ほどのまでの威厳は嘘のように消えている。

どうやら本当に俺たちとの話を望んでいる様子だ。


「本当にセリアに対して手は出さないんだな」

俺の言葉にエドワルドはにやりと笑う。


「フフフ…ああ、誓ってもいい。

女一人のために一軍に匹敵するほどの者たちと事を構えるほど愚かではない。

それにそこの『先祖返り』はかわいらしいとは思うがそれだけだ。

もう三年経っていれば違っていたかもしれないが。

俺には『先祖返り』よりもそちらの黒と銀の騎士の方に興味がある」

エドワルドは俺の背後に目を向ける。


「デリスの勇者が行方不明になったと聞いたが…ここで見ることになるとはな」


「…」


「半信半疑だった。国交もない国にデリスが勇者を派遣するのは異例だし、

今デリスは聖王崩御で権力闘争の真っ最中だ。

四人の聖騎士の身柄とリーブラの魔物の群れ討伐がなければいまだに信じられなかっただろうな」


「…そうそう貴公らには四人の聖騎士に関し礼を言っておく。

おかげで国交のないデリスに貸しができた」


腐っても聖騎士だ。それも貴族である。

国と国との交渉材料として使われる可能性は十分にあった。

あの場ではここの法で裁かれるとオズマが脅していたが、

釈放されるであろうことは後で話してくれている。


「それに七星騎士団のオズマ。いや元だったか。俺は未だに貴公がここにいるのが信じられない。

七星騎士団の要であり、英雄として十分な功績をあげていた貴公が、

プラナッタ王国においてアウラ姫に見初められ、小国とはいえ国王にすら手が届く位置にいた貴公が、

なぜそれらを蹴ってまで個人を護衛しているのか?」


「…」


「それにそこの男。クラスタと言ったかお前ははぐれ魔族だな」

その言葉に俺は



「別に罰したりするつもりはない。手綱はしっかり握られているみたいだしな」


クラスタの件で暗に脅してくるならばこっちもそれなりの対応をさせてもらったが。

それでも知られてしまっていることに変わりはないので安心はできないが。


「もちろんユウ殿の武勇も素晴らしいものだ。レッドベアの討伐。

『魔猿』の魔の森にはかなりの功績を上げたみたいだな」


俺への評価がぞんざいなのはオズマ、エリスがいる為か。

俺は自分の評価なんか気にしていないし、個人的に評価は低ければ低いほうがいい。


「まるで人材の見本市でもみているかのようだ。

正直すべて入ってきた情報が真実ならばここにいる者たちだけで

少なく見積もっても小国の軍事力ほどはあるだろう。

そんな連中と事を構えるほど俺は暗愚な王ではないつもりだ」


「手駒になら加えたいと?」


「臣下になるのであれば領地であれ、金であれ望むものを差し出すつもりだが?」


「それは謹んで辞退させてもらう」

領地管理も面白そうだが、今はこの世界を見て回りたい。

それに俺は魔族であり、人間とは違い歳を取らない存在らしい。

魔族と言うのがばれれば厄介ごとのタネにもなる。

魔族と言うことがばれないためにも、

人間社会の一地域に長くとどまることは避けたほうがいい。


「…まったく。この国での動向から見る限り、金、女、権力。

そんなものではお前たちを動かせはしないのはわかっていた。

手に入らないものほどなるほどどうして…」


俺はこの男はよく見ていると思った。

始めのようにこちらの逆鱗を踏み抜いてくるのであれば強行手段もあったが。


「ならこういうのはどうかな?

貴公らが食客になってくれるのであれば、私が生きている限り

そこの『先祖返り』のこの国での彼女の身の安全を私が保障しよう」


俺は思わず唸った。

これは俺にとってこれは非常に魅力的な提案である。

国家がセリアの後ろ盾になってくれるのであれば、幾つかの余計な心配はせずに済む。

思い返せばセリアを使って始めに挑発してきたのは

こちらの反応を見てセリアの価値を計るためだったのかもしれない。

どうもこの男には隙はみせられないようだ。


この男は俺たちを一時期でもいいから引き込みたいらしい。

それも強引な手段ではなく、友好的な関係を持ちつつだ。

悪い条件ではない。悪い条件ではないが、どうも引っかかる。


どうしてこの男は俺たちの力をそこまでして借りたがるのか?


「食客にして俺たちに何をさせたいんだ?」


「冬季の騎士団の訓練、賊の退治、いろいろあるぞ。

今は人手が足りない。手を貸してもらいたいことは山ほどある。

もちろんそれに見合った報酬も出そう。

そちらとしても悪い話ではないとは思うが?」


「もし俺が断ったら?」


「別に何もしないさ。ただこの国にいる間は多少の監視をつけることは了承してもらう」


冬季はギルドの仕事もない。仕事があることは悪い話ではない。

それにこの男はこちらの力を知っている。

信頼するかどうかは別にしても

こちらを罠にかけてくるようなマネをしてくるとは考えにくい。


オズマたちと顔を見合わせると頷いてくれた。


「…わかった…」

俺が言いかけると背後の扉が勢いよく吹き飛んだ。


入ってくる空気に血の匂いが混じっていることに

俺は顔をしかめる。


「はじめまして」

それが『災厄』との遭遇だった。

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