表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の放浪記   作者: owl
60/121

イヤリングをもらいました

ダーシュと約束したカーラーンの宿『猫の髭』はこじんまりとした宿で

個人経営のもので一階が食堂兼酒場になっている場所だった。

木造建築で年季が入っており、階段を歩くだけでぎしぎしと音が立つ。

幸運なことに今の時期は空室が多いらしく、一人一部屋取ることができた。


部屋に着くなり俺はネイアに本題を切り出した。

「それでネイアさん、ここに来た理由を教えてもらってもいいか?」

ネイアはベットに腰かけ、懐から何やら取り出す。


「私からはこれををユウ様に差し上げますわ」

ネイアの手には宝石を加工した装飾品があった。


「宝石?」

ネイアの取り出してきたものを俺はまじまじと見つめる。

蒼いエメラルドがはめこまれており、

その周囲には細やかな装飾が施され、何かの文字が細かく描かれれいる。

見た目だけでも相当高価な代物だとわかる。

ただ魔族の贈り物はそんな見た目以上の効果が付与されている。

それこそ人智を超えるぐらいの。


「我々はこのイヤリングは『ルート』と呼んでおります」

よく見れば似たものがネイアさんの両耳に着いている。


「はじめに申しあげておきますが、

この『ルート』は人の世の物質では作られておりません。

半物質、半霊体でできておりますのよ。

契約者が生きている限り、私とそれ以外の者では触れることすらできませんの」

ネイアの説明に俺は驚く。


「…それは」


「それも『ルート』が破壊された場合と

悪意のある第三者に盗まれる場合を警戒してのことですわ。

この『ルート』が扱う『天の目』は我々一族のもつ技術の粋を集めて作られておりますの。

もしこの『ルート』から我々の機密が漏れると大変ですもの。

もっとも人間風情には少しぐらい漏れたとして問題ありませんが」


「…それは俺が受け取ってもいい代物なのか?」


「私はユウ様を信じておりますもの」

ネイアは微笑み、その『ルート』を俺の左耳に着けてくれた。


「少し痛いですが我慢してくださいね」

ネイアの手が耳元で光ると、ちくりとした痛みとともに視界に文字が浮かんできた。

それが操作画面と言うことらしい。

生体と連動したインターフェイス。前にいた世界でもこれほどの技術は無かったはずだ。


「これでこの『ルート』はユウ様のモノになりましたわ。

ではさっそく使ってみましょう」

ネイアがそう言うと片目の視点が切り替わり、どこかの街並が真上が映し出された。

よく見ればこの街並には見覚えがある。つい今しがた歩いてきた街並だ。

となればこの中央にある屋根は現在地か。


「これは…頭上からここを映し出してるのか」


「ええ。この星の軌道上にある『天の目』からの映像ですわ」


「すごいな…」

俺はこのイヤリングの本当の価値を即座に理解する。

この『ルート』は軌道上にある衛星をコントロールするためのキーなのだ。

つまりは俺個人に衛星をくれたってことになる。

前世では大国が所有していたであろう代物。

軍事的な価値はおそらく天文学的な金額になろう。

何せ中世という文化水準で、衛星という軍事的にはるか先の世代のモノを手にするわけだから。


…たしかに拾って使われたら一大事だよな…。


俺は『ルート』を触り操作をしてみる。

『ルート』の触り方で拡大や移動ができるようだ。

まだ使い慣れていないためか動かしずらい。


「さすがユウ様ですわ。もう使いこなしているなんて…」

ネイアはうっとりと感激した様子で俺を見る。

前世でこの手の操作はゲームで何度か操作済みである。

まさか使うことになるとは思いもしなかったが。


「…本当にもらってもいいのか?」

これが思うとおりのモノならばこれは世界を変えるレベルの代物だ。

個人が所有していいとはとても思えない。


「もちろんですわ。そのために持参してきたのですから」

ネイアは微笑む。

かなりな代物でちょっと吃驚したが、ここはネイアさんに感謝して受け取ることにする。


「ではこの『ルート』の機能について説明させていただきますわね。

これには大まかに分けて五つの能力がありますわ。

一つ目は透過能力。

夜であろうと、木の枝や雲などがあろうと、障害物も透過し『見る』ことができますわ。

さすがに建物や洞窟とかはちょっと無理ですけどね」


俺はそれを使ってみる。

夜だというのに宿に隣接する通りがはっきりと映る。

道に落ちている小石や道を歩く人の表情まではっきりと見ることができる。

前にいた大国の衛星ほどの精度以上あると思われ。

現在の文明に対して明らかにオーバーテクノロジーである。


「二つ目は記憶能力。最大一年分の映像記憶をとどめておくことができますわ」


これ…悪用したらとんでもないことになりそうだ。


「三つ目は学習能力。持ち主の使いやすいように学習し、進化していきますわ」

『ルート』が俺が使いやすいように学習し、合わせてくれるらしい。

パソコン並みの能力があるということらしい。


「四つ目は…」


一通り聞いた後、これも幾つかの機能は試しに使い、封印することにした。

…魔族の作り出した道具はなぜこう極端なものが多いのか。

某猫型ロボットの道具といい勝負ができる気がしてきた。


「他にも細かいものを含めれば機能は多岐にわたります」


「登録しておけば特定の相手を追跡とかもできるのか?」


「はい。補助能力の中に追跡という項目がありますわ。

登録した対象を『天の目』が追いかけるということが可能ですわ。

最大三百人までを天の目で監視することが可能ですわね」


追跡能力…セリアのことで頭を悩ませていた俺からすれば嬉しい。

カーラーンは『先祖返り』であるセリアを手に入れたい勢力の中心だという。

この先どんなことが起きるかわからない。

これはセリアにつけておくことにしよう。


「機能を記した書物もありますが…」


「いいよ。使っているうちに覚えればいいだけだし…」

個人的に極秘事項が記してある書物は手元に置いておきたくない。

使っていればなれるだろうし、もしもの時はネイアさんに直接聞くことにしよう。



ここで突然、俺のいた宿のドアが勢いよく開く。

セリア、エリス、オズマ、クラスタが部屋に入ってきた。

女性二人を見ればこちらを非難する視線で見てくる。

説明に集中していて部屋の外に全く意識を向けていなかったことを後悔する。


「おい大将、あんたも隅におけないな。俺たちが訓練しているときに女連れ込む…」

言いかけてクラスタは固まった。

それもそのはずネイアはクラスタの元上司なのだから。


「あなた、一体何なんですか?」

セリアが今にもかみつきそうな表情でネイアを見ている。

ドアの外にはオズマもエリスも立っていた。

ネイアは面白そうなモノを見つけたようにセリアに近づく。


「あら…あなた…へぇ、まだ生き残りがいたのですわね」

ネイアは珍しいモノを見るようにセリアを見つめる。


「まあいいですわ。私の用事はそっちにありますの」

ネイアはクラスタの方を向いた。


「ネイア姐…」

クラスタ君、顔面蒼白です。蛇に睨まれた蛙である。


「クラスタ、久しぶりね。

あなたが私たちの里を出て行ったのをまるで昨日のことのように覚えているわ。

強くなるために外界で修業するとか言ってたわよね」

クラスタの胸を指でなぞる。

クラスタは固まったままだ。


「それをオズマにぼこぼこにされちゃって。これじゃあまるで私たちが弱いみたいじゃない?」


一瞬で世界が変わったかのようなとてつもない圧が部屋を満たす。

深海にでも潜ったかのような圧を全身に感じる。

彼女から漏れ出る殺気を察知したのか、宿の周りの動物たちが一斉に騒ぎはじめる。

近所の住人達も何が起きたのかわからない様子だ。


「お前、次無様な姿晒したら…解ってるよな」

クラスタの胸倉をつかみ、低くどすの利いた声でネイアさん。

クラスタ本人ではないが見てるだけでもかなり怖い。

ネイアの中身は前の世界で言うところのヤンキーが近いか…。


「…はい…」

クラスタ君が下を向いてがくがくと震えている。

次にネイアはオズマに向き合う。


「オズマ、クラスタと戦ったそうじゃない」


「待ってくれ。クラスタとオズマを戦わせたことに関しては俺にも責任がある。

もし何か気に入らないことがあればすべて俺に言ってくれ」

俺はオズマとネイアの間に割って入る。

これがラーベのところとネイアのところで争いの火種になっては困る。


「…ユウ様がそこまで気になされずとも」

ネイアは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

部屋に充満していた圧が一気に霧散する。


ネイアさんは猫というより虎だな。噛みつかれたら死んじゃいそうだ。


「クラスタは下っ端よ?オズマ、あなたあまり調子に乗らないことね」


ネイアさん、目が笑ってないです。


「私は彼に生き延びるすべを教えただけです」

しれっとオズマ。しばらくネイアはオズマと対峙する。

ここで戦えば宿が壊滅するぞ。

再び俺が二人の間に割って入ろうとするとネイアはオズマから視線を外す。


「…まあいいわ。ユウ様もああおっしゃられていることだし、そう言うことにしておいてあげる。

どのみち今のクラスタじゃどこぞの馬の骨にやられていただろうし…ね」

ネイアの視線を向けられたクラスタの体がびくんと反応する。


「クラスタ?いい機会だしオズマにきちんと戦い方を教わりなさい。これは族長命令よ?」

クラスタは何度も頭を縦に振った。

クラスタ…何かネイアさんにトラウマでも抱えているのではないか。


「それとユウ様の手をあまり煩わせないでね。つーぎーは…冗談じゃすまないぞっ」

最後の語尾がかわいかったがそれが一層恐ろしさを引き立てる。


「はひっ」

クラスタ君はがくがくと震え、涙目である。

過呼吸まで引き起こしている。もう死ぬんじゃなかろうかと言う怯えっぷりである。


「それではユウ様、ごきげんよう」

ねこなで声でそう言い残しネイアは一礼する。


「ネイアさん。このイヤリングありがとう。大切に使わせてもらうよ」

俺がそう言うとネイアは満足したようににこりと笑い、その部屋から出て行った。


ネイアさんが部屋から出てった後、クラスタは大きなため息とともに壁にもたれかかった。

よほど怖ろしかったのか顔がまだ青い。


ネイアさん、まるで嵐のような人だったな…。


「行きましょう、ユウ殿」

オズマはその優れた嗅覚でそれを察していたらしい。

力強い腕で俺と心ここに非ずのクラスタの腕をぐっとつかむ。


「ん?」

ちらりと見るとエリスの足元が濡れていた。

俺は何もみなかった体を装い、エリスとセリアを残し部屋を出る。


どうやら知らないところでもう一人犠牲者が出ていたらしい。


ネイアさん…恐るべし…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ