荷物持ちです
「どうしてひきうけたのよ」
ギルドを出るとセリアがこちらの顔を見て聞いてきた。
「キミ、行くつもりなの?」
「カルネ金貨十五枚上乗せしてくれるらしい。稼げるなら稼げるうちに稼いだ方がいい」
王都までの間にギルドに立ち寄っていくつもりではあるが、
その稼げる依頼が都合よく出されているかどうかは運である。
ギルドカードの発行の手続きで五日かかるというのもある。
それというのも担当の職員が出払っているためだという。
「…私はキミ一人でいくつもりかって聞いてるの」
まさかの言葉に俺は硬直する。
「まさか…セリアもついてくるつもりなのか」
「私だって多少の魔法ぐらい使えるわ」
「まてまて。自分で言ってただろう。レッドベアはランクBの魔物だって」
俺一人ならば生きて帰る自信はある。
何度か魔物とは戦っているし、一応ドラゴンとも戦っている。
だがセリアを守りながらというと勝手が違う。
「それでも」
余談だが、生活魔法は一般の人間でも使えるらしく、料理に使ってる火などはセリアが起こしている。
俺はまだ一つもできていない。
感覚的に何かが根本的に違う感じがする。
あとで魔法の専門家にでも聞こうと思っているが。
その後も説得を続けるがセリアは同行すると言って聞かない。
とうとう次の日になってしまった。
翌日、待ち合わせの場所に向かった。
セリアも強引についてきている。
待ち合わせは馬車が多く集まる場所だった。
現代的に言えばターミナルと言ったところか。
行先が書かれていて王都方面にもいくつかあるようだ。
商社やギルドの名前がある場所もある。
さすがに馬車に商社等の名前が書いてあるものはないが。
次にこの街を出る際にはここから出るになるのだろうなと思いながら
きょろきょろして周囲を見渡していると背後から声をかけられる。
「ギルドから派遣されたのはあんたか?」
声のした方を振り向くとハリウッドのスターさながらの二枚目がいた。
背後には三人の武装した人間たちがいる。
どうやらこの中のリーダーっぽい。
男の問いかけに俺達は頷く。
「先ずは自己紹介からだな。俺の名はダール・ラオ。槍使いだ」
「どうも」
差し出された右手を握り返す。
その手は分厚く、硬く、ごつごつしていた。
「俺はルーカスな」
飄々とした男だ。身長は俺と同じか少し高いくらいだろうか。
軽装だが身に着けている武器は使い込まれている。
「私の名はイアル。よろしくな」
後ろに手を組みながら弓を背負った女性が色黒の女性。
細身だが体は引き締まっている。
「ルジン。よろしく」
甲冑に身を包み、大きな盾を背中に背負った巨漢の男だ。
甲冑はところどころヘコミや傷がある。
「俺たちはギルドじゃない。この地区に常駐する警備兵だ」
物腰は落ち着いていて、精悍な雰囲気だがどこか柔らかい。
それでいて驕ることなく、こちらを見下すこともない。
着けている装備は使い込まれている。
この人たちは警備兵といったが魔物狩りのプロだと理解する。
人類の生存できる北限と言われている場所である。
実力がなければ生存できない。
「一応聞いておくがあんたの得物と戦闘の経験は?」
手ぶらの俺を怪しんだのかルーカスが聞いてくる。
「投石で十数回ほど」
これにはさすがの四人も険しい表情になる。
「ラクターのおやっさんめ。人手不足だからってなあ」
顔に手を当てながらルーカス。
「そういうな。今はどこも人不足だ」
ダールがそれを制する。
出会って早々戦力外通知を受けた。
当然だ。彼らからすれば俺は全くの素人なのだから。
「断っておくが、相手はランクBの魔物だ。万が一君に何かあっても責任は持てない」
ダールは覚悟を問うている。
「そのぐらいの覚悟はあります」
俺はダールの顔を見て頷いた。金をもらう以上、当然のことだ。
「戦闘は後方支援。荷物持ちになるが…それでも?」
「かまいません」
「わかった。歓迎しよう」
張り詰めていた空気が少しだけ柔らかくなる。
「…荷物持ちでもいてくれると助かる。みんなレッドベアっつうと逃げ出しちまうからよ」
ルーカスの一言に漸く皆の表情が和らいだ。
俺はほっと胸をなでおろす。どうやら同行を許されたようだ。
「君は?」
ダールは俺の横にいるセリアに顔を向けた。
「私も連れて行ってください」
少女からの予想外の言葉に四人は面食らった表情をみせる。
「残念だが連れて行くことはできない。すでに犠牲者が一人出ている。人の味を知った獣だ」
ダールは俺の時とは違いはっきりと拒絶の意志を前面に出している。
「料理が作れます。魔法も多少は使えます」
「子供を戦いに巻き込むことはできない」
「お願いします」
ダールは渋い顔を見せる。一方でセリアの決意は固い。
両者一歩も譲らないと言った様子。
セリアはだんだん泣きそうな顔になっていく。
セリアはこちらに視線を投げてくる。俺もセリアがついてくることに関しては反対の立場だ。甘い顔はできない。
「いいんじゃねえの。料理ができるって自称するぐらいなんだ、料理の腕は確かなんだろう。
毎日毎日干し肉と硬いパンばかりはさすがに飽きたぜ」
ルーカスは大げさに首を振る。
ルジンが横で何度も頷いていた。
あれと俺は思った。
「イアル、君の意見は?」
「後方支援なら安全だし、邪魔な中途半端な実力者よりもいいんじゃない」
イアルの説得にダールはしぶしぶ納得した様子だ。
「…わかった。よろしく頼む。今日中には目的地のエンダ村には着きたい。少し急ぐぞ」
認められてしまった…。予想外のことに俺は頭を抱える。
セリアはしたり顔でこちらをみるとぷいと顔をそむける。
まあ、俺の任されたのは後方支援の荷物持ちだし、何かあればセリアを守れる。
俺たちは背後に用意されている馬車に乗り込んだ。
こうして俺たちはレッドベア討伐に参加することになったのだ。