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異世界の放浪記   作者: owl
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幕間 天より来たりて

『北』の地は一面が雪で覆われていた。

空には星が燦々ときらめいている。

あらゆる生物を拒絶し、見る者を魅了してやまない銀世界。

この時期一日の三分の二が夜であり、あと二三か月すれば常夜になる。

人は幾度もこの地に足を踏み入れようとしたが

この地にいる魔族とその過酷な環境に断念させられた。


そんな銀世界に城が一つ建っている。

城すべてが白亜一色であり、天を突くような尖塔が三本。

その城には人の気配が全く感じられない。

それは幻想的であり、また墓標のようにも見えた。


その城の上から空を眺めている者がいる。

恐竜の骨を頭にし、黒いローブをまとった異形。

黒を基調とするそのローブには細やかな金の刺繍が施されている。

彼は微動だにせず、まるで風景の一部のように、ただ天を見続けていた。


そのような生物が生きることすら厳しい環境は

永遠に近しい寿命を持つ魔族にとっては最も適した場所ともいえる。


誰にも干渉されない世界。

ここにいれば時間の感覚すら忘れてしまうものも多い。


澄んだ星空から彼女は舞い降りる。

舞い降りる羽のように優雅に。


「ゲヘル、いい夜ですわね」

その姿は幻想的な世界に降り立つ羽を生やした女性。

極寒の最中、場違いとも言えるほどに露出の多い服装から覗く白く透き通るような肌。

癖のある金色の髪が風でたなびく。

人間ならば誰しもが理想とするプロポーション。

その美貌はまさに完成されおり、神の造形物と比喩されてもおかしくはない。

ただ一点、その漆黒の翼を除けば。

彼女の名はネイア・フラトリス。

一族の顔役であり、魔族を総括するモノたちの一柱。


「何か見えましたか?」

ネイアはにこやかにゲヘルに尋ねる。


「…星が怯えておる。奴等がそろそろ動くやもしれぬ」

ゲヘルの一言にネイアの穏やかな表情が一変する。


「あのアバズレども。また性懲りもなく…」

ネイアから物騒な殺気が漏れ出す。


「ネイア、ここに来たということはユウ殿に渡すものが決まったということか」


「ええ」

ユウ殿を攻撃してしまった詫びとして六つの魔族の長たちはユウに

一つずつ贈り物を渡すことになっていた。

現在ユウに渡されているのは二つ。

ゲヘルの贈った『収納の指輪』。

ヴィズンの贈った『天月』。

二つとも魔族たちの力の粋を集めた品であり、

人間の作り出した物とは隔絶した能力を有している。


「これを」

ネイアは銀色のイヤリングを見せた。

華美な装飾が施されており、見る者を虜に差せる。


「…それはまたとんでもないものを…」

ゲヘルは一目見てそれが何かを悟ったらしい。


「あの方への献上品としてはこれでも足りないぐらいですわ」

妖艶な笑みを浮かべネイア。


「ではユウ殿と連絡を取るとするか」

ゲヘルは立ち上がろうとする素振りを見せる。


「いえ、今回は私が直接出向くことにしますわね。私の坊やが世話をかけてしまったみたい」


「坊や?…クラスタか。確かあの者は少し前に人間界へ行っておったの」


「…さすがですわね、ゲヘル殿」

ネイアは感心した表情を見せる。


「ほっほっほ。これでも取りまとめ役での。

『北』のすべての魔族は赤子から死者に至るまで把握しておるよ」


「ユウ殿の居場所は…」


「サルアの首都カーラーンから八十キロ手前の街道沿いですわね」

ゲヘルが言い終わるのを待たずにネイアが口にする。


「…なるほどそれはお主らの専門分野じゃったの」


「ゲヘル、ではまたあとでゆっくりとお茶でも飲みましょう」

ネイアが背中に着けた黒い翼を広げると一陣の風が吹き荒れる。

残されたのは一人の魔族だけだった。


「さて、ユウ殿。次の贈り物ははたして気に入っていただけるかの?」

ゲヘルの呟きはその銀色の世界に吸い込まれ消えて行った。

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