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異世界の放浪記   作者: owl
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一人と一匹加わりました

ダーシュとの飲み会の翌日、リーブラから離れた郊外の森。

小川がそばを流れており、人里や街道からは少し離れている。

空は晴れていて秋の雲が流れていた。

周囲の森は既に茶に色づいている。

どうしてここにいるかと言うと一言でいえばリーブラでは目立つからだ。


オズマは会議の場で自身が元七星騎士団のオズマだと知られており、

エリスは魔物の群れを一人で討伐した英雄と呼ばれている。

ただでさえセリアは『先祖返り』と言うことで注目を引くというのに。

リーブラから出るまでオズマとエリスへの勧誘と周囲から集まる視線がすごかった。

そんなわけで俺たちは逃げるようにリーブラを出ることにしたのだ。


現在俺たちが食している料理は俺の言った故郷の料理をセリアが再現してくれたものである。

胡椒と塩とセリア手作りのバターで味付けしていい香りがする。

山にあったキノコと山菜がふんだんに盛り込まれている。

唯一の欠点は麺が不揃いで太いところか。道具がこの世界に無いからしょうがないのだが…。


「にしても嬢ちゃんの飯はうめえな」

クラスタとアタは上機嫌でそれを食べている。

この二人はリーブラで先日事件を起こした張本人だ。

リーブラから出てからというものこんな感じでずっと俺たちに付いて回っている。

知ってるものから見ればマッチポンプを疑われるところである。

ただでさえ目立っているのに、変な噂が流れるのは避けたい。

そのためにも人目のつかない森の中で食事を取ることにしたのだ。


「困ったことがあったらこのクラントに何でも相談してくれ。

あんたのためなら何でもするぜ」


「同じく」

俺とセリアは顔を見合わせ肩を竦める。

クラスタとアタは裏表もなくあっけらかんとした性格で

いつの間にか仲間として溶け込んでいた。

それにしてもこいつらの順応性はどこからくるのか。


「…それでなんでお前がついてきてるんだ?」

オズマが食べながらじろりとクラスタに鋭い眼差しを向ける。


「いいだろ。旅は道連れって言うじゃねえか。細けえことは気にすんな」

「ですよ」

オズマの言葉にクラスタとアタは悪びれる様子はない。


「セリア…平気か?」

俺はセリアを気遣い、小声で話しかける。

セリアはクラスタに追われていた身だ。

セリアが許してくれてなければこの場は作れなかった。


「大丈夫。話してみて悪い人じゃないってわかったし。

さっきも料理の手伝い進んでしてくれて助かったわ」

セリアの言葉に俺はちょっと胸をなでおろす。


「すまない」


「キミが謝るところじゃないでしょ」

にこやかにセリア。


「そこの嬢ちゃんは元気がねえな」

心底疲れ切った表情でエリス。

今朝方、エリスはブラックランペイジの討伐で報奨金が出たと言うことで受け取りに行ったところ、

あの手この手の引き止め工作を受けたという。

さすがの元勇者もこういったことには慣れていない様子らしい。


「あんたがブラックランペイジの群れを倒したっていうのは本当か?」

「ああ、そうだが…」

エリスが頷くとクラスタは子供の用に表情を明るくする。


「そんな華奢ななりですごいな。オレの名はクラスタ・フラトリス。あんたは?」


「エリス・ノーチェスだ」

エリスはクラスタの嫌味のなくごく自然な対応にちょっと驚いた表情を見せる。


「…ん?同姓同名を知ってるんだが?」


「エリスはデリスの元勇者だ」

オズマの一言にクラスタは目をぱちくりさせた。


「あんたが…。今度一度手合せしてもらいたいぜ」


「構わないが…」


「約束な」

クラスタは遊び道具を見つけた子供のような笑みを浮かべた。



食事も終わり、休んでいたところで俺はクラスタに切り出す。

「さて、クラスタ。本題に入ろうか」

俺の一言に場の注目が集まる。


「どうやってブラックランペイジを集めたんだ?」

クラスタにどうしても聞かねばならなかったことだ。


「それを話すには一つ条件がある」

真剣な眼差しでクラスタ。


「条件?」


「俺をあんたらの仲間に加えてくれ」

俺もオズマもエリス、セリアは突然の提案に言葉を失う。


「今回のではっきり分かった。俺は弱い。一人で人間界をたださまよってても強くはなれねえ。

俺には師匠が必要なんだ」

あれだけ痛めつけられてこのクラスタの発想。根は直球思考。要は純粋なのだ。

馬鹿だけど筋は通っていて嫌いにはなれない。


「それに仲間になれば稽古相手にも事欠かないだろうしな」

オズマとエリスに視線を向ける。


「…」


「俺は強くなりてえ。そのためならあんたの靴の裏でもなんでもなめるぜ」

クラスタは本当にやりかねないなと思う。

それほどに純粋なところがある。


「強くなってどうするんだ?」

俺はクラスタに理由を問う。


「伝説を作んだよ。オズマ師匠みたいにな」

子供のように目を輝かせながらクラスタ。

何とも単純な答えに俺は眩暈を覚えた。


「俺はお前の師になったつもりはないぞ」

オズマは冷たく言い放つ。

例の一件からクラスタはオズマについて回ってる。

あれだけオズマにぼこられたのにすごい精神力である。


「…顔は隠してあるんだよな」

俺はクラスタに尋ねる。

魔族だとばれると何かと厄介だ。


「ああ。顔を知られると街を出歩けなくなるしな」


「依頼主とのやり取りは全部私がやっておりましたので。

そもそも交渉役がクラスタにできるわけないでしょう」

横から肉をついばみながらアタ。

アタがクラスタと言った部分から単細胞と言う副音声が聞こえたのは幻聴ではあるまい。


「はっはっは。まあそういうことだ」

…それでいいのかクラスタ君。


「セリアはいいか?」

俺はセリアに尋ねる。もしセリアが反対ならこの話は無しだ。

皆の注目がセリアに向けられる。


「私なら大丈夫。食事分たっぷりこき使ってあげる」

ちょっと黒い笑みでセリア。

きつめに言ったのはしこりを残さないようにと彼女なりの配慮だろう。…多分。


「いいぜ。これで喰いっぱぐれずにすむ。よろしくな」


「一応言っておくが食費はきちんと稼いでもらうし、ネイラさんには報告させてもらうからな」

俺は差し出されてきたクラスタの手を握り返す。

こうして俺たちの仲間に一人と一匹が加わることになった。


「…それでどうやって魔物を集めたんだ?」

俺は話を元に戻した。


「これさ」

クラスタは懐から瓶に入った白い粉を取り出す。

皆の視線がその瓶に集まった。


「特製の秘薬ってヤツだ。パラール地方の一部の猟師が使ってた方法さ。

魔物に一つまみふりかけると半日は興奮状態になって向かってくるってもんだ。

秘中の秘薬らしくてな。教えてもらうまで一年もかかっちまった」


「これは…」

俺はその瓶を受け取り粉に触れてみる。

無味無臭で見てくれは小麦粉に近い。

対象に直接ふりかけなければならないが、

以前ダールさんたちが魔物を引き寄せた方法よりも手軽で効果が高い。


「これはかなり危険ですね」

「…間引かれてなければスタンピードだぞ」


オズマもエリスも難しい顔をして呟いた。

魔の森はこの世界のいたるところに点在している。

使い方次第では国一つ滅ぼすこともできよう。

核爆弾持ってるのと同じことだ。


「クラスタ、他に使ったことは?」


「使うのは主に修業のためだ。今回の使い方は今回が初めてだよ」


「この薬、念のためこっちで預かっておいてもいいか?」


「別にかまわねえよ?」

俺はこの粉を指輪にしまう。あとでゲヘルに分析してもらおう。


「そろそろ行こうか。

今日中にラルッタの宿場まで着く予定なんだからな」




「対価を払いましょう」

白いローブの女性は彼女の肩に乗った白の子狐に話しかける。

一人と一匹がいるのは人気のないリーブラ近郊の森。

周囲には木々しかなく、人の気配は全く見えない。


「まさか俺を呼び出しておいて人探しで終わりなんて言わねえよな」

子狐のような風貌の精霊が女の脇に浮いていた。

小動物のような身なりをしているが風の精霊の亜種である。

彼女がリーブラという大きな都市において人一人見つけるために呼び出したものだ。


「必要がないもの。それで対価は何?」

女は淡白に言い切る。


「そうだな…あんたとの契約ってのはどうよ?」


「…人語を話せる精霊を条件にしたのは間違えたかしら…」

女は困った様子になる。

彼女にとってこの展開はイレギュラーだったのだろう。


「あんた複数体…それもかなり高位の精霊と契約しているだろう?」


「…」

女はピクリと眉を動かす。


「図星ってやつだな!こう見えて三百年は生きてる精霊様だぜ?」

子狐の風貌をした精霊は胸を張る。


「そいつらよりは役に立たないかもしれないが、契約してくれるってんならあんたの役に立つぜ」

子狐の風貌の精霊は自身の胸をどんと叩いた。


「…知性もある…人語も話せる…案内役として連れて行っても悪くはないか…」

女は考え込む。


「あなたの目的は何?」


「あんたと行けば見たこともない貴重な体験ができそうだからさ」


「フフフ…それならとても面白い体験ができるわよ?一生に一度体験できるかどうかのことをね」

白いローブの女はおかしそうに微笑む。


「なら契約成立だな。よろしく頼むぜ」

こうして奇妙な二人の契約は成立した。


「名前は?」


「こう見えて人に使役されるのは初めてなんでな。あんたが決めていい」

白いローブの女性は少し考え込んだ。


「ニクスっていうのはどうかしら?」


「ニクス?」

子狐の風貌の精霊が聞き返す。

「雪という意味よ」


「いいな、それ」

子狐の風貌をした精霊はその名が気に入ったのか彼女の周りを何度も回った。


「それで俺たちはどこに向かうんだ?」

「カーラーンへ」

白いローブの女は決意を込めた眼差しでカーラーンの方角を見つめる。

視線の先には凶兆のような黒い雲が空を埋めるように浮かんでいた。

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