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異世界の放浪記   作者: owl
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法術の話です

この季節、暗くなれば夜はあっという間にやってくる。

人々は夜に追われるように支度をはじめていた。

街全体が急いでいる印象すら受ける。


そんな街並を見下ろすように一匹のカラスが茜色の空を飛んでいた。

遠目ではわかりにくいがそのカラス、その体躯たるや人の背丈ほどあろう。

その大きなカラスは一際大きい建物の上に降り立った。

建物の上には男が寝ていた。

「クラスタ、また寝坊しますよ?」

カラスが人語を口にする。

ただの人ならば耳を疑う光景だ。


「いけね。もうこんな時間か」

寝転んでいた男はゆっくりと上体を起こした。

カラスとの会話は彼にとって慣れたものらしい。


「反省してませんね。以前それで依頼主から大ひんしゅく買ったじゃないですか?」


「うるせえなぁ。で、例のモノは魔の森に撒いてきてくれたかい?」


「この私にそれを確認しますか?」

誇らしげに胸を張りカラス。


「はっは、そうだったな。助かったぜ。ほらよ、約束の物だ」

男はそう言うと肉串を二つそのカラスに放り投げる。

カラスはくちばしで投げられた肉串を受け取る。


「魔の森での魔物の個体数は少なかったですが、かく乱には十分でしょう」


「主要街道沿いの魔の森はさすがに管理されてるってことか。

時間稼ぎにぐらいしかならなさそうだな」

思案するようにクラスタ。


「…ほごほご…」

カラスは肉串を夢中でつついていて何を言ってるのかわからない。


「それにしても急な仕事の変更は面倒だ。引き受けるんじゃなかったぜ」

夕焼けを見ながらクラスタ。


「いいではありませんか。依頼主も倍出してくれるという話でしたし、

これでしばらくは旅の路銀には事欠かないでしょう」

依頼主からは破格の金額を前金としてもらっている。

さらに追加の依頼が終わればさらに追加報酬が払われることになった。

クラスタは報酬の件では文句はなかったが、いつもと異なるやり方に少しだけ反発を覚えていた。


「食べ物のことしか頭にないくせによく言う」


「食事の楽しみを取れば人生何も残りませんよ」


「カラスが人生を語ってらあ」

クラスタはけたけたと笑う。


「…しっかし、一人の人間がそんなに欲しいのかね」

徐々に夕闇に沈んでいくリーブラを眺めながらクラスタ。


「前日の計画変更、なんでも昨日の四人組が影響しているとか」


「三つの盗賊団を捕らえたってあれか」

近隣の騎士団でも手を焼く三つの盗賊団を捕らえた者たち。

現在リーブラ中でその噂になっている。

盗賊団を捕らえただけではなく、縄で縛り連行してきたという。

その異質さとともに瞬く間にリーブラ中に知れ渡った。


「ナイフを片手で砕いたという男と黒の甲冑の男、

さらに銀の鎧をつけた法力使いの女。

先祖返りを連れているというのもその人間たちらしいですよ」


「法力使い?へえ、デリスの連中がサルアまで来てるってか」

基本、聖騎士はデリス聖王国から出ることはない。

聖騎士自体希少な上にデリス聖王国の守りの要である。

さらにデリス聖王国はサルア王国と離れていて国交はない。

ここで見ることは極めて稀である。


「…この件が片付いたら直に会ってみるとするか」

リーブラを見渡せる建物の上でクラスタは立ち上がる。

日は既に西の山脈に落ちている。

今宵は新月。リーブラは一際深い闇に包まれる。



その日の夜、夕食が終わると俺たちは宿に戻って休んでいた。

オズマだけは護衛の任務中で出払っている。

リーブラの街の一角では交通規制まで行われているという。

食事の後、俺はこの世界の文字について勉強していた。

「そろそろ総会がはじまる時間か」


「オズマ殿にまかせ置けば大丈夫だろう」

エリスは剣を磨きながら静かに言う。

エリスは今日の午後、近郊にある魔の森に魔剣の試し切りに行っている。

魔物と遭遇出来なかったと不満をこぼしていた。

そんなエリスの前にセリアがエリスがやってきた。


「どうした?セリア殿」

エリスはセリアのいつもと異なる雰囲気を感じ取っている様子。

「エリスさん、折り入って頼みがあります」


「頼み?」


「もしよければ私に法術を教えてもらえませんか?」

その一言にエリスは少しだけ驚いた顔を見せた。


「…教えることは別にかまわないが…」

手にしていた剣を鞘に納め、すっと立ち上がる。


「言葉で聞くよりもやってみたほうが早い。今から私が行うことを感じてとって欲しい」

セリアの背後に立ち、セリアの両手を握る。


「…暖かい」

セリアの手前で球状のぼんやりとした光が現れる。

セリアの体を通してエリスの法力が形を成したのだ。

エリスが手を放すとそれはふっと消える。


「その光が法術の力の元となる法力となる。次はこの感覚をなぞる感じでやってみてくれ」

セリアは言われた通りもう一度力を込める。

右手と左手の中間にうっすら光が現れる。

先ほどの光よりは力が弱い。


「ほう…一回でものにしたか。適性を見るだけのモノだったが、セリア殿は筋がいいな」

エリスはセリアを見て純粋に驚いている様子だ。


「法力は生命力を形にしたものだ。それを肉体強化に充てたり、法術に使うこともできる。

実技はここまでにしておこう。はじめてで肉体もびっくりしているだろうからな」

少し使っただけだというのにセリアの額にはうっすらと汗が見える。


「ありがとうございました」


「俺は…」

文字の勉強の手を止めて俺は問う。


「言っておくがユウ殿は無理だぞ。根本的な肉体の作りが違う」

魔族である俺には無理か。生命力は魔力だしね。

まあ、わかっていたけどさ。


エリスの講義が始める。

「法術は…肉体の回復や、攻撃にも使えるし、結界にも使える。

法力を使ったもので使い方次第で大概のことは可能となる。

例えるならば法力は貨幣で、法術はそれで購入したなにかだと思えばいい」

セリアはじっとエリスからの教えを受けている。


「治癒程度ならば成人以上の人間でも訓練すればできるようになる。

だがその力には限りがあり、よほどの天才でもなければ肉体への負荷がひどく

一日二人三人を治療するのが関の山だ」


「負荷か…」


「そう、聖騎士やすぐれた法術使いが子供のころから訓練する理由がそれだ。

法力を使う場合、体も法力を通しやすい体にする必要がある。子供のころならばそれは可能だ」


「今からでも大丈夫なのですか?」

セリアがエリスにおそるおそる聞く。


「ああ。十代前半で覚え始めて、国のトップになった法術師もいるぞ。

セリア殿は筋がいい。今から覚えればかなりの法術の使い手になれるんじゃないか?

もしセリア殿がそれを望むのであれば私に教えられることはすべて教えよう」


「よろしくお願いします」

俺の時とはうって変わってセリアはやうやうしく頭を下げた。、

突如、鐘の音がリーブラ中に響き渡る。


「警鐘?こんな夜更けにか?」

エリスはかなり驚いている。

俺は窓を開き、窓の外に聞き耳を立てる。


「スタンピードだ」

真っ暗な夜の中その声がリーブラ中に響き渡った。

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