都市を歩きました
次の日の午後、俺はセリアと街を回っていた。
収納の指輪を持ってるのは俺だ。
試してみたがどうもこの指輪は契約者の譲渡不可らしい。
他の者に渡しても使えないし、どういう仕組みか俺の指にいつの間にか戻ってくる。
セリアの護衛もしなくてはならないので俺が適任となった。
エリスは『魔剣レヴィア』の試し斬りということで郊外にある魔の森に向かった。
余談だが、一人のとき、バルちゃんとつぶやきながらエリスは剣を磨いていた。
本人の名誉のためにも俺は知らないふりをすることにした。
オズマは商人ファスタ・マルペットのところにいる。
依頼を受けることを伝えると今夜の打ち合わせがあるとのことだったので置いてきた。
出店で肉串とかあったら大量に買っておいてあげよう。
通りは人であふれ、さまざまな人種が入り乱れていた。
獣人も稀にちらほら見られる。話に聞いていた通りだ。
通りには屋台が立ち並びさながら祭りのようである。
現在季節は秋であり、どこも収穫があったためかそこかしこに人と物があふれていた。
「いろいろな香辛料がある」
セリアは目を輝かせて、とある店の前にいた。
俺は荷物を両手に持ちながらセリアの後を歩く。
それというのも人前で指輪に収納するのははばかられるためだ。
こんな便利な道具を持ってると知られれば身の危険がさらに増す。
先祖返りのセリアだけでも危険だというのに。
衛星都市リーブラはカーラーンの手前の街で多くの街道がここを起点としている。
俺たちの通ってきたマルフィーナ街道もその一つだ。
天秤という名の由来はカルネ金貨が流通する前にここで両替が行われた名残なのだという。
「この間作ったスパゲティはもう少しだったな」
最近セリアは昔俺のいた世界の料理を俺の言葉を元に再現してくれるようになった。
旅慣れしてきて余裕が出てきたというのが大きいように思う。
とてもありがたい。
米が無いので麺類に挑戦したがどうもぐだぐだになってしまっている。
料理としてはありかも知れないが現在試行錯誤中である。
どうもこの世界、小麦の薄力粉の概念が無いようなのだ。
あるのは全部パン用の強力粉。
それもパン屋が小麦粉の取引を独占しているらしく、以前に手に入れるのに手間がかかった。
「そもそもキミの話が具体的じゃないのがいけないのよ。
食感とか味をもう少し詳しく話してくれない?」
こちらを非難するような目つきでセリア。
「へいへい、すみませんでした」
セリアと口論して勝ったためしがない。
一つ反論しようものなら十の反論が返ってくる。
そんなわけで俗にいう負け犬根性が定着し始めていた。
「まあいいわ。コツはつかんだもの、今度は失敗しないわ」
腕まくりをしながらセリア。
「そう言えばキミの昔の故郷ではカレーっていう料理があったんでしょ」
セリアが俺の顔をのぞいてくる。
「かなりの種類のスパイスが必要だった気がする」
そもそもここでの植物の種類が微妙に違う。
近いモノはあっても完全に一致したものはほぼない。
料理も以前いた世界のモノとは違っているし、この世界にとって俺は完全な異邦人なのだ。
「今度再現してあげるわ」
見たこともない香辛料を両手に上機嫌でセリア。
材料にはかなり値が張るがそこは全員一致で目をつむることにしている。
「ありがとうな」
俺は荷物を片手にセリアの頭を撫でた。
…どうも最近、猛烈に米が恋しい。
それらしきものが東方の国にあると聞いている。
南の魔導国に行くついでに遠回りして寄ってみてもいいかもしれない。
「パンもちょっと買い込んでおく?もう残りも少なかったはずだし」
「…そうだな」
この世界、パン屋とは文字通りただのパンを焼く店だ。
街には必ず一件以上あり、そこが街中に供給している感じだった。
エリスが加入してから手持ちの食料が多く消費されるようになった。
それというのもエリスがよく食べるのだ。
本人いわく、法術を使うとお腹がすくとか。
法術使いは大食いなのやもしれん。
「なあセリア。学校とか興味ないか?」
「そうねぇ。私はどうでもいいかな。知識なら旅をしながら手に入れられるもの」
俺の前をセリアが歩いていく。
「基本を学べばもっと応用が効くようになるんだ」
「なら料理の学校にでも入ってみる?あればだけど?」
この世界に学校など存在しない。
騎士もパン屋も(一部例外はあるが)徒弟制度である。
これが昔学校で習った封建社会なのかと思う。
「…うーん」
正直なところセリアを通わせる学校のめどはたっていない。
サルア王国の学校も貴族向けだし…。
「それじゃ早く次に行きましょ。あまり遅れるとエリスが帰ってきちゃうもの」
「そうだな」
帰ってきて腹ペコ状態で一言も発さなくなったエリスを想像し俺は苦笑する。




