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異世界の放浪記   作者: owl
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受けることにしました

商人ファスタ・マルペットが去った後、

俺とオズマは仕事を受けるかどうか話し合うために二人で部屋に残った。

セリアとエリスは先に朝食に行ってもらっている。


呼び鈴を鳴らして鏡を叩くもゲヘル爺さんと珍しく連絡がとれない。

今回呼び出したのは昼間というのもあるのかもしれない。

ゲヘル爺さんに睡眠とかあるのか?

俺はオズマと相談することにした。


「オズマははぐれ魔族に関してどう思った?」


「このリーブラに入り魔族特有の臭いのする魔素を嗅ぎ取りましたから、

魔族がこの街にいるのは間違いないかと」

オズマの本来の姿は『ルプスティラノス』という巨大な狼である。

実際に盗賊の接近を発見したのは俺よりも早かった。

オズマ曰く、盗賊の連中は臭うらしい。

盗賊の件と言い、オズマには頼ってばっかりだ。


そのオズマが間違いないとまで断言した。

この街にはぐれ魔族がいることは確定ということだ。


「昨日言いかけてたのはそれか?」

オズマが昨日リーブラに入って言いかけていたことを思い出す。

「はい」

ただの人間がはぐれ魔族を語っているだけならば問題はないが、

それが本物ならば状況はかなり違ってくる。


自分たち魔族の立場を悪くする存在はちょっと見過ごせない。

人間との対立を煽られるのは勘弁してもらいたい。

ただでさえ魔族は人間界で忌み嫌われているというのに。


「オズマはこの話受けることにしても問題はないか?」


「私はユウ殿の配下の身、あなたの判断に従うのは道理。

…それにはぐれ魔族には私も感心がありました」

オズマは涼しげな顔でそう言い放つ。

…まあいいか。悪い気はするが話を受けることは選択肢に入れることにしよう。


「魔族とは『北』のほかに存在するのか?」

魔族というのは魔力を使う、人間以外の知性を持った生命体である。

魔族は魔力の元となる魔素をその核から生産することができる。

人間などよりもはるかに強くその姿カタチもさまざまである。


ここでいう『北』とは人間の住む地域よりもさらに北のことを指す。

魔族たちの住む土地であり、人間たちからは絶対不可侵領域と呼ばれているらしい。


「人間界に入ってからずいぶん経ちますが、『北』出身以外の魔族とは接触はないですね。

魔物にも知性のあるものと幾度か出会いましたが脅威となるほどとなると…」

オズマはかれこれ数十年人間の社会にいる。

そのオズマが接触すらないのならば白と見たほうがいいだろう。


「オズマの眷属の可能性は?」

オズマの眷属とはオズマと系統を同じくする存在である。

現在ラーベという魔族がそれを総括しており、オズマはその組織に属している。


「人間社会にいる我々の眷属はラーベ配下ではもう一人のみ。

その者のいる場所とはかなり離れていますので、ひょっとしたら他の方の者かもしれません」

俺は他の五人の魔族を思い出す。

ゲヘル、ヴィズン、ネイア、ゼロス、クベルツンの関係者か。

その五名はそれぞれ魔族の顔役だとオズマから聞かされた。


「『北』には掟とかあるのか?」

俺は魔族とはつながりがあるが、そう言ったことには全くと言って疎い。

ここで手を出して同行しているオズマに火の粉が飛ぶのは絶対に避けたい。

そう言うのもあってゲヘルに連絡を取りたかった。


「『北』での魔族間の争いは禁止されていますが、人間界においては別です」


「争いになっても問題ないと」

受けるかどうか迷ってるのはこれが最も大きい。

俺の決定が諍いの種になるのだけは避けたかった。


「…他の魔族のしきたりや掟まではわからないので、はっきりと断言はできませんが…」

魔族間で争いにはならないだろうがしこりは残りそうだ。


「人間界で魔族が行うことは?」


「…あまり良いことはないですね」

だよな。なまじっか他よりも力があるとどうしてもその力に頼る行動をするからな。

格下とみなす人間相手に魔族がどんな行動をとるのか想像に難くない。


俺やオズマは別だ。

俺は元人間だし、旅を続けるためにも人間社会で問題を起こしたくはないと思っている。

オズマは修行と言う内面に向かう動機を持っている。

俺たち二人は人間と共存する理由があるわけで、必要以上にことを荒立てたくないと考えている。


「その魔族、どれほどの力だと思う?」

これが最も重要だ。

脅威にならないのなら放っておくのもありだ。


「人間と魔族ではその実力は天と地ほどの力の開きがあります。

下っ端の魔族だけでも成人男性の百人ほどの力はあるでしょう。

私と同格ぐらいを想定しておいた方が良いかもしれません」


実際にエリスは俺が魔族とわかるなり斬りかかってきたし、

オズマはエリスの行動が正しいと言っていた。

言い換えれば人間と魔族の差違である魔力の有無はそれほどまでに大きな力の差となりえるのだ。


オズマと同格…これ放置したらまずいやつだ。

一応どんな奴か会ってみたほうがいいだろう。


「…オズマ、悪いがこの取引受けてもらえないか?」

ゲヘルたちにはもし何かあったら六人には俺が頭を下げよう。


「わかりました」

オズマはそう言って頭を下げる。

はぐれ魔族という存在に興味があった。


「ところで…オズマは人間界に来てから負けたことってあるのか?」


「今のところ一対一で負けたことはありませんね」

さらりとオズマさん。質問の答えの想像はついていた。

オズマが人間相手に規格外なのは一緒に旅をしていてわかる。

隙のない物腰や気配の鋭さ。異常への対応速度等々。

人間とは全く比べ物にならない。


それでもオズマに聞いたのは確認するためでもある。

オズマ以上がいたならそれこそ要注意だからだ。


「ただ…」

オズマは何か言いかけたところにドアをノックする音が部屋に響く。

ドアの外には見知った気配が二つある。

どうやらセリアたちが朝食を済ませて戻ってきたようだ。


「とにかく今日一日よろしく頼む」

「はい」

オズマは頭を下げた。

この時俺はまだ知らなかった。

人間の中にとてつもない化け物がいることを。

そしてもう少し先にそれと対峙することになることに。


さて人間界に潜む魔族。

さて、どんな奴なのだろうか。

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