表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の放浪記   作者: owl
46/121

とある商人から依頼されました

その男がやってきたのは翌日の朝だった。

始めに気づいたのはオズマ。武器を手に取る。

しばらくしてノックが聞こえてくる。


「どうします?追い返しますか?」

オズマは小さな声で俺に判断を求めてくる。


俺は魔族の感覚を総動員してドアごしを探る。

確かにドアの前に一人男がやってきている。

この階の廊下には人の気配は感じられない。どうやら一人のようだ。


昨日盗賊たちを引き渡してもいるし、セリアが目的ではない可能性もある。

話だけでも聞いておいても問題はないだろう。


「様子を見る。エリスはセリアと一緒に隣の部屋にいてくれるか?」


「わかった」

エリスは頷くとセリアを連れて隣の部屋に向かった。

エリスたちが移動し終えたあと俺は部屋の扉を開く。

「何の用ですか?」


「それほど警戒しないでいただきたい。私はあなたと話し合いにきたのです。

その証拠に護衛は下においてきています」

部屋の前の廊下にいたのは恰幅のよい男性だった。


この男はあくまで話し合うためにこの男はここにきている。

対話を望む以上、こちらからは手を出しはしないし、するつもりもない。


男を部屋に入れると男はオズマを見て固まる。


「やはりあなたは七星騎士団の『黒獅子』」

その商人はオズマのことを知っている様子である。


「五年前に七星騎士団の凱旋パレードで見かけた時と同じ姿で目を見疑いましたよ」


「五年前の凱旋…ペスティア騎士団の誘いを受けたときか…」

オズマは何やら思い当たる者がある様子。


「はっははは」

俺は愛想笑いをしながら背中に嫌な汗をかいていた。


オズマが人間の社会において活動していたのは数十年。

その中で特に目立った活動をしていた七星騎士団にいた期間はおよそ十五年だという。

それ以前は放浪していたらしく、武術の研鑽をするべく各地を転々としていたらしい。


魔族は異様に長寿である。話からオズマが人外だとばれる可能性もある。

俺がしたいのは人間界を旅することであって、その旅で問題を引き起こされては困るのだ。

もちろんそこら辺を考えたすり合わせは出会ってからすぐにオズマとしてあるが、

本番ははじめてのことである。

そんなわけで俺は少しだけ緊張していた。


「失礼、私の名はマルペット商会の商会長ファスタ・マルペットと申します」

あとで知ることになるがマルペット商会はこのサリア王国にて大きな商会の一つだという。

本来ならば一介の冒険者風情や旅人風情では絶対に会うことなどできない存在である。

この時の俺はそんなことつゆも知らなかった。


「俺はユウ・カヤノ。オズマと一緒に旅をしている」

表面上は普通に対応しているが、内心ぼろが出ないようにと冷や汗ものである。


「それにしても『黒獅子』は当代最強に数えられる騎士。王侯貴族から引く手あまたでしょう。

そんな彼が一介の冒険者にどうして行動をともしているのでしょう?」


うん、そうだろうね…。

オズマさん、聖騎士四人相手に一方的にフルぼっこだし。

デリス聖王国最強の勇者のエリスですら剣術で歯が立たないのだから。

人間相手にオズマさんが負けるのはちょっと想像できない。

そんな『黒獅子』が一人の人間に従っているという。

一介の商人でなくとも疑問を持つのももっともな話だ。


「旅ははじめてでして、田舎から出てくる際に知人に都会に詳しいモノをつけてほしい

と言ったら彼に連絡を取ってくれたんだ。オズマには旅先で助けられてばっかりだよ」


「…なるほど…田舎の知人つながりですか。よい知人をもっているようで羨ましい。

持つべきものは人脈ですな」

ここは追及してくれなくて良かった。


「そう言うユウ殿もオズマ殿に負けぬほどの武勇をお持ちだ」


「俺の武勇?」


「知っていますとも、昨日逃げ出そうとした盗賊を軽くあしらったそうではありませんか」

城門付近でナイフを持って襲ってきたあれか。

たくさんギャラリーいたもんね。

俺的に出来れば目立ちたくなかったのだけれど。


「それにドルトバでのレッドベア退治、リバルフィードでのガルダ盗賊団、ラクタでの放火魔捕縛。

ユウ殿の武勇は既に聞き及んでいます」

ドルトバのレッドベア退治はダールさんがそうしたから別にいいけどさ。

…リバルフィードのガルダ盗賊団の件とラクタでの放火魔捕縛…。

オズマ…まさか俺の名前でギルドに提出したのか…?

俺はオズマをちらりと見る。


涼しげな表情のオズマさん。


…ああ、オズマならやりかねない。

オズマさんに全部任せていた俺の責任でもあるんだが…。

今度から確認して提出するようにしよう。


「それであなたがここに来た用件はそれだけか?」

できるだけ横柄なそぶりで俺は商人に向き合う。

もう早く帰ってくれないかな。

ファスタと話してると新事実とか発見して精神的にキツイ。


「ここからが本題になります。

明日、我々マルペット商会が主催となって行うリーブラの総会がございます」


「総会?」

瞬時に前世において株式会社の行う株主総会を連想する。

株主相手に行うあれか?前世の俺には聞いたことがあるだけで全く関わり合いのないモノだったが。


「総会とはここリーブラの主要な商会が参加し、

今後を話し合う非常に重要なもので、年に一度行われれる大きな集会です」

総会というのは都市全体のものと言うことらしい。

「それが行われると?それでそれがどうして俺たちに関わってくるんだ?」


「実は…先日、我々と敵対する商会がはぐれ魔族を雇ったとの話がありまして…」


「はぐれ魔族?魔族は『北』にいる者じゃないのか?」

俺はオズマに聞く。

そんなのがいるのは初耳である。


「はい。本来『魔族』というのは極北の地において存在するもの。

ですがそんな魔族にも極稀に極北の地から出て活動するものがおります。

それがはぐれ魔族と呼ばれるものです。

大概は魔族とは関係のない人間が脅しや売名目的で名乗ることが多いですね」

オズマが丁寧に解説してくれた。

なるほど、だから『はぐれ魔族』ね。

その典型的な実例が目の前にいる。


「…確かにそう言った輩も多いと聞きます。

伝説上の魔族は一体で一軍にも匹敵し、その力は人間の及ぶものではないと。

ある業者の中には魔族と聞くだけで逃げ出すものもいるとか。

何度も魔族を語る連中と戦ったことはありましたが話になりませんでしたね」


…オズマが本気で戦ったところは見たところはないが

戦えば人間の一軍を相手にしても勝利しそうだ。


「ですが今回相手が雇った『ブラックイーター』と呼ばれる存在は違います。

単独で仕事を請け負い、一夜にして裏組織の一つを壊滅させたという話もあります。

他にも魔族と思われる情報は多くあり、我々の情報網からも眉唾ではないと…」

商人の情報網は深く広そうだ。


「『ブラックイーター』か…オズマは聞いたことあるか?」


「…いいえ、初めて聞く名ですね」


「オズマ殿が御存じないのも無理はありません。

『ブラックイーター』はここ数年の間に裏社会において名を広めてきた者ですから」


「その雇った商会とやらには心当たりはないのか?」

オズマが問う。

オズマはその商会に乗り込み、直に聞いてくるつもりだ。

そんなオズマを見てファスタは首を横に振る。


「この商売、恨みつらみを数えればきりがありません」

商人は肩をすくめる。


「今回の我々が請け負う総会は我々の中だけではなく他の商会からも多くの人間がやってきます。

また遠方からも多くの招待客を招いております。

もし何か大事があれば我々マルペット商会は以後このリーブラでの主要な決定をする席から

外される場合がございます」

後でエリスから聞いた話だが、

主要な決定をする席から外されるということは商人にとって死活問題になるらしい。


「そこでオズマ殿の力を借りたいというわけか…」

ファスタの話の筋は通っている。


「はい。かの高名な『黒獅子』のオズマ殿が警備に参加してくれるのならば

万が一不測の事態が起きた際でも対応可能かと。

それに相手もその名に怯んで企みを諦めることもあるかもしれません」


なるほど、オズマの力だけではなく、オズマの名が抑止になるとも考えているということか。


「…先祖返りと一緒に行動を共にしていることも存じております。

もし助力してくださるというのならば、こちらもそれなりの見返りを用意させていただきましょう。

ほんの一日ほどオズマ殿の手を我々に貸していただけませんか?」

ファスタは深く頭を下げる。

ファスタの懇願ともいえる頼みに俺とオズマは顔を見合わせる。


セリア目的ではないことがわかって多少は安心したが、

話を受けるかどうか考えなくてはならなくなった。


さてどうしたものか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ