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異世界の放浪記   作者: owl
45/121

衛星都市に着きました

衛星都市リーブラ。

サリア王国の首都、王都カーラーンに二つある衛星都市の一つと言われるこの都市は

北の玄関とも言われ、この晩秋の時期人でにぎわう。

また高い城壁に囲まれ、魔物や他民族の侵攻を何度か防いできた歴史のある都市である。


その衛星都市リーブラの城門前に奇妙な一団が到着した。

周囲からの注目を浴びつつ二列を保ったまま歩いてくる。

身なりは皆盗賊の外見で、皆どこか男臭い。


その一団の脇には黒の甲冑を身に着け、巨大な槍を片手にもつ偉丈夫。

もう片側には白銀の鎧を身に纏い、棍棒を担いだ美女。


「ほら、きっちり歩け」

棍棒を担いだ美女、エリスが手にした棍棒で最後尾のケツを叩く。

有無も言わせぬ毅然とした振る舞いで隊列の乱れを許さない。

一部ぶたれて顔を赤らめているのは俺の気のせいだろう。


「一二一二」

規則正しい掛け声とともに男たちは道を進む。

男たちの両手は一様に縄で結ばれていた。

大名行列のように通りの両脇にいる人たちは避けている。


「おい、あれまさか手配書にあるパラド盗賊団の頭じゃねか?」


「あっちの男、エルドリン盗賊団のメンバーだろう」


「あの顔に入れ墨のある奴も手配書で見たことあるぞ」


「…まるで盗賊の見本市だな」

俺は周囲の人たちが噂するのを耳に入れ肩を落とす。


ソウデスネ…。


リーブラに入るなりおっそろしく目立っている。


原因はこちらにある。

俺は脇にいるセリアを見る。

セリアはエルフの容姿をした先祖返りと呼ばれる存在だ。

黄金色の髪に、森の新緑を思わせるようなエメラルドの瞳。

さらに整った顔立ちをしていて、耳は長くとがっている。

見るだけならばこれ以上ないぐらいの美少女である。

なお性格は…。


聞けば先祖返りとは先祖にエルフの血が混じっているらしく、

辺境ではエルフの特徴を持った人間が稀に生まれてくるらしい。

そして先祖返りは王都カーラーンの貴族の間で高額で取引されるという。


そういうこともあってセリアを狙ってくる盗賊連中が後を絶たない。

それをオズマとエリスが次々に返り討ちにしている。

壮大なマッチポンプである。

放置してくる選択もあったのだが、

そのまま放っておくとまた悪さするといってエリスが引かなかったのだ。


エリスは元聖騎士であるためか正義感が妙に強い。

騎士団の大きな支部があるリーブラまで連行することになった。

リーブラに着くころには大名行列が出来上がっていたわけで…。


盗賊ホイホイ…。


オズマとエリスは始めは慎重にセリアを守るように戦っていてくれたが、

最後の方は二人でどちらが多く倒せるか競い合っていた。


本当に何やってるんだろうな…。


エリスは細身で自分の身の丈ほどの棍棒を片手で担いでいる。

一振りで大の大人を二三人軽々と吹き飛ばすし、かなり速い。

それも法力というチートを使っているためだ。

法力を使って体内の力を活性させてるのだとか。

大の大人相手に無双できるってどれだけなんだか。

元勇者と言うのは伊達ではないらしい。

死にかけていたのを俺が救ったのが嘘のようである。


もう一人のオズマは黒の甲冑を着た渋めのイケメンである。

本来の姿は黒く巨大な狼の姿をした『ルプスティラノス』という魔物である。

オズマは人間界で数十年、技を磨いていたという。

七星騎士団という騎士団に所属していたらしいが、ある人物の紹介で俺の教育係兼従者になった。


そのオズマさんが列から離れてこちらにやってきた。

「なんだ?」

「ユウ殿、どうもここには…」

オズマが小さい声で何か耳打ちしてきた。

「うん?」

オズマが俺に対し何か言いかけるが、受けつけの人間に呼ばれ門の方に向かっていった。


オズマが列を離れたのを見計らうかのように、

盗賊の男一人が俺に向かってナイフ片手に向かって突進してきた。

オズマが手続きで俺の元を離れるのを見て隠し持っていたナイフで縄を切ったらしい。


「先祖返り手に入れりゃ、こっちは一生遊んで暮らせんだ」

このスキンヘッドの男、俺を殺してセリアを奪って逃げるつもりのようだ。

ちなみにこの男、どこぞの盗賊の頭らしいが興味ないので覚えていない。


「ユウ」

セリアが声を上げる。

俺は俺に向けられたナイフを左手でつかんで止める。

そのまま男はピクリとも動かない。

男の顔色が見る見るうちに変わっていく。


「なんだ、こいつ…」

彼にしてみれば俺は半分以下の体格である。

そんな男にナイフをつかまれ全く動けなくなるなど考えもしなかったのだろう。


「こういうの危ないって」

俺はナイフを粉々に握りつぶす。

魔族である俺からすればただのナイフなどおもちゃのようなものだ。


「おい…まじかよ…」

男の顔が驚愕に染まる。


「お返しな」

腹部を拳で軽く小突いた。

「ぐふぅ」

男はそのまま地面に膝をついて悶絶する。


力を抑える練習はしていたし、

人間相手に肉塊にすることなかったことにかなり満足していた。


見よ、これが練習の成果だ!

俺はどや顔である。

だが、どや顔の俺の脇で俺を襲ってきた男の様子はその後も苦しみ続けている。

相手は次第に血を吐き出しながら地面をのたうちまわり始めた。

それを見た盗賊たちは一様に顔を青ざめさせている。

通りを歩く人たちも唖然とその状況を見つめていた。


「…背骨が折れてるみたいですね、内臓も損傷しているようです」

冷静に横からオズマさん。

しれっと手続きを終えて戻ってきたらしい。


カゲンッテムズカシイネ…


「…すまん、俺ちょっと加減が下手で…」

俺が困惑して詫びるも襲ってきた男は苦しみのたうちまわっている。

公衆の面前でやってしまった感がある。


「うるさいですしこのままトドメを刺しときますか?

ナイフを向けてきたのはこいつですし、正当防衛が成り立つかと」

槍の刃先を男に向ける。

オズマは一見冷静に見えるが、俺にナイフを向けてきたことにかなり怒っている様子。


「それにこの人数、少し間引いたところで問題は無いでしょう」

冷たく言うオズマに盗賊どもが青ざめ震えている。


「ちょっとまてって。それ過剰防衛だから」


「しょうがないな。私が治すとしよう」

エリスは肩をすくめると前に出て、転がっている男に法術を使う。

するとみるみるうちに男の顔色が安らかなものになっていく。


「盗賊ども、逃げ出したいのならば構わないが」

オズマは手にした槍を地面に突き刺す。


「次は容赦しない」

オズマが冷たくそう言い放つと、捕らえられていた盗賊たちは皆勢いよく首を縦に振った。

たしかにこんな街中で逃げられたらたまったものではない。

オズマが凄んだのも盗賊たちが逃げないため…らしい。

(ちょっと本気で怒ってた感じもしたが)


素人が一般人相手に戦うべきじゃないという苦い教訓になった。


その後、盗賊さんたちは俺たちの手でギルドに引き渡された。

(何やら俺とオズマのことを怯えるような目をしてみていたが)


後日談だが、マルフィーナ街道沿いの盗賊被害は激減したという。

先祖返り持ちの三人組には絶対に手を出すなという暗黙のルールまで作られたとかなんとか。

それはまた別の話である。


そんなわけで俺たちは衛星都市リーブラに無事入ったのだった。

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