未来を信じますか?
その女性はただ優しく微笑んでいた。
中央にあるベッドで横になりこちらを見つめている。
それだけのはずなのに気品がにじみ出ている。
間違いないこの女性こそが聖王カルナ。
この国、デリス聖王国の頂点の女性。
実際に対面すればわかる。
目には力はあるといのに、内にある力が全く残されていない。
この女性はもう長くはない。
「こんな姿勢でごめんなさい」
上体すらも起こすことができないということらしい。
エリスがカルナのそばに寄り添う。
カルナと俺の視線が交わる。
「こんにちは、魔族さん」
彼女は俺がここに来ることを知っているかのような口ぶりである。
妙に馴れ馴れしいが別に不快とは感じない。
「結界を破壊したことはすまない」
「気にしないで魔族さん、装置には損傷がないから一週間ほどすれば元に戻るわ。
一度破壊しないと澱みが貯まって内部から崩壊していたでしょう」
にこやかにカルナ。
「エリス、お師様、少しこの人と二人にしてもらえるかしら」
二人が離れるとカルナは微笑み、話し始める。
「夢の中でずっとあなたを見てきました。
ごめんなさい。こんな方法でしかあなたとは会えなかったの」
「…『予知』か」
『予知』とは可能性の模索。
彼女はあらゆる可能性を取捨し、選択した結果、
この未来を選択したということらしい。
「フフフ…私の『予知』もあるけど、あるヒトの力を借りたの。
今の私一人の力ではあなたをここまで導くことは不可能だったわ」
あるヒトという単語が妙に引っかかった。
「もしエリスが道を決めるときになったらこれを渡して。
これはきっとエリスの標になってくれる」
小さな声で俺に何かが入った包みを懐から取り出す。
俺は預かるとそれを指輪の中にしまった。
「夜の蛇に注意しなさい。耳を貸してはだめ。困ったときは金色の女神を頼りなさい」
「夜の蛇?金色の女神?」
意味が全く分からん。
その存在のことをこの時、俺は全く想像もしていなかった。
「困ったときはその言葉を思い出して。
どうにもならなくなったとき、彼女は必ずあなたを助けに来てくれる」
後で俺はこのときの出会いを何度も思い返す。
彼女たちはすべて知っていたのだ。
これから奴等が引き起こす最悪の未来も。
そして、そのために彼女たちは必要な種をまいたのだとずっと後で知る。
「次はお師様…いいかしら」
ゲヘルがカルナの前に
俺は少し下がってエリスと
ゲヘルにカルナが何かささやいている。
耳を澄ましてみるが聞こえない。
「…まことか…」
それを聞いたゲヘルは驚いた様子である。
「彼女はお師様の前に必ず現れる。だって見てきたもの。そのために…」
カルナはゲヘルに何か囁く。
「了承した」
ゲヘルは首肯する。
「…これで私の役目も終わり…。エリス来てくれるかしら」
カルナはどこか安堵したような、それでいて肩の荷が下りたような表情だった。
また彼女の影がさらに薄くなったようにも感じた。
「ごめんなさい。私が至らないせいで…あなたの人生を台無しにしてしまった…」
まるで愛おしいもののようにエリスの頬に触れる。
エリスはその手を取り、握りしめる。
「…あの時の選択肢は三つあった。…隣国からの侵略であることは解っていた。
私はそのためにあなたの村を犠牲にする選択をとった」
ふと彼女の記憶とつながった際、涙を流しながらエリスを抱きしめていた記憶を思い出す。
カルナはその未来を選択したくて選んだわけでないだろう。
だとすれば他の二つは文字通り国が傾くほどの最悪の結末だったのではないか?
何かを切り捨て何かを守る。
未来が見えるという能力は想像以上に残酷な能力なのかもしれない。
「私は人生を台無しにされたとは思っていません。これは私の選んだ道です」
エリスはカルナの手を握りしめ、力強くそう言い切った。
聖王カルナはそれを見て、複雑な表情を見せた。
その時、ドアが開き衛兵たちがなだれ込んできた。




