宿に泊まります
「魔石を換金かい。見せてごらん」
ラムばあとよばれた女性は事情を話すとそう聞いてくる。
見せるように言われセリアは少し警戒しているようだ。
「安心しなって。別にとりゃしないよ」
「セリア、見せよう」
見せるだけで信用を担保できるのならば安いものだ。
もちろん魔石の数は確認してある。
「…ほう、こんなにかい。…偽物でも無いようだね」
魔石とこちらの顔を交互に見る。
「空いてるのは一部屋だけじゃぞ」
どうやら泊めてくれることになったようだ。
「それでお願いします」
俺とセリアはほっと胸をなでおろす。
「良かったな」
ここまで案内してくれた衛兵は我がことのように喜んでくれた。
「番犬じゃなかったのかい」
「こら、ラムばあ」
「言い忘れていたが俺の名はバルカ。『ドルトバの猛犬』よこの街でなんかあったら俺の名を出すといい」
そう言い残しバルカは去って行った。
「バルカさん、ありがとうございました」
気持ちのいい人だった。
「ついてきな」
蝋燭を手にしたラムばあさんがゆっくりと先を進んでいく。
一歩歩くたびに木造の廊下がギイギイと音を立てる。
部屋の前まで来るとラムばあさんは足を止め振り返る。
「他の客もいるんだ。あんまり物音を立てるんじゃないよ。
水は外の井戸を使いな。朝食は一回。トイレは共同でそこの突き当りだよ」
そう言うとラムばあさんは部屋の鍵を手渡してきた。
ようやく宿についたことと柔らかい布団に寝れることにセリアの表情が緩む。
「ずいぶん新しい魔石だったね。お前さんが倒したのかい?」
背後から呼び止められ、ユウはどきりとして足を止める。
セリアも硬直しこちらをみている。
常識的に見てこんなに短期間でこれだだけ倒すのはありえないという。
まして倒したのは投石である。
その上、セリアは村を抜けてきた身である。
変に悪目立ちするのは避けたかった。
さて正直に答えるべきか…。
一瞬の躊躇を悟られないようにぎこちない笑みでゆっくりと振り返る。
「…ええ」
隠すこともないが話すことでもない。
「ギルドに持っていくのなら小出しにすることだ。
ここのギルドはそれを買い取るほど規模は大きくない。
それだけの数の真新しい魔石を一度に持っていったら妙な嫌疑かけられちまうからね」
そう言うと元来た道を引き返していった。
「びっくりした」
「ええ」
まさか俺がやったとはちょっと言い出しづらかった。
アドバイスしてくれたのだろうか。
魔石を取り扱うギルドならどうやってそれを手に入れたか当然聞いてくるだろう。
真新しいのであればなおさらである。
盗んだと思われればさらに面倒なことになるかもしれない。
少しだけラムばあさんに感謝した。
「久しぶりの布団だ」
セリアは部屋に入るなりベットにダイブした。
「こらこら」
内装はきちんとしてありベットと座椅子がある。
思ったよりもいい部屋である。
ここで俺は一つの重大な案件に思い至る。
一緒にいるのはこの数日すごして抵抗はなかったが傍から見ればこれは
男女一緒の部屋と言うことになるのではなかろうか。
今までずっと一緒だったしそんな目でみる余裕もなかった。
宿は残り一部屋だったのはしかたなかったのだろうが、
配慮するべきだったんじゃないかと今更ながら後悔しはじめる。
「…セリア」
呼びかけゆっくりとベットにいるはずのセリアの方を向いた。
「すぅ…」
いつの間にかセリアはいつの間にかベットの上で寝規則正しい息を立てていた。
旅の疲れからだろう。
いくらしっかりしていても子供だ。
俺はセリアに掛け布団をかけ、自身は傍にある座椅子で寝ることにした。
座椅子とはいえ、地面よりはずっとましだ。
魔物の心配もなく寝られるのは久しぶりである。
座椅子にもたれかかりながら窓から入ってくる月の灯りに照らされ、
そのまま俺はゆっくりと深い眠りに落ちていった。