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異世界の放浪記   作者: owl
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勇者と魔族を合わせました

夕食後、俺はエリスを連れて宿の一室にやってきた。

呼び鈴を鳴らして鏡を三回叩く。


「ゲヘル、聞こえるかー」

俺は鏡に向かって呼びかける。

傍から見れば頭のおかしい人に見えるんだろうな。


「聞こえておるよ」

鏡の中から声が聞こえてくる。

恐竜の骨の頭をし、黒いローブをつけた者が鏡に映る。

俺には見慣れたものだが、エリスには初めてで驚いたようだ。

横でエリスが息を飲みこむ音が聞こえてくる。


「ゲヘル、今回一人話に参加させてもらってもいいか?」

「ほう」


「エリス・ノーチェスといいます」

エリスはたどたどしく一礼する。

本物の魔族を前にかなり緊張している様子。


「この間俺が折った聖剣の所有者」


「それは丁度よかった。わしもその者と話をしたいと思っていたところじゃ」


「ひょっとしてこの間の頼みっていうのは…」


「その者も連れてきてほしいと思っての。そちらから連れてくるとは手間が省けたわ。

今日の夜までにはどうしてもと思っておったからの」

ゲヘルなりに事情がある様子。


「ユウ殿、そのものも連れてちょいと来てくれんかの」

鏡に映ったゲヘルはそう言って手招きしてくる。

鏡の中に来いと言う意味らしい。


エリスは訳がわからず硬直している。

魔族と敵対する立場の彼女からすれば崖から飛び降りるほどの覚悟が必要だろう。

俺はエリスの手を取る。

「ひゃっ」

いきなりに驚いたのだろうかエリスは奇声を上げた。

「怖くないか?」

俺の言葉にエリスは胸に手を当て深呼吸する。


「だ、大丈夫だ。ユウ殿がいるからな」

そう言われるとなんかむず痒い。

傍から見ればかなりの美女なんだがな。


鏡を抜けるといつもの部屋にやってきた。


エリスは驚ききょろきょろと周囲を見回していた。

いつもと違うのは宙にヴィズンの映像が映っていることか。


「おう、ユウ殿」

こちらから声をかけるより早くヴィズンが声をかけてくる。

ヴィズンは多少酒が入っているらしく上機嫌である。

「ヴィズン、無理言ってすまない」

俺が礼を言う。

手ぶらであったことを後悔する。


「ヴィズン…鍛冶の神のヴィズン…まさか…そんな…」

俺の脇ではエリスが繰り返しそうつぶやいていた。

オズマもそんなこと言っていたっけか。

ヴィズンはそっち方面ではめちゃくちゃ有名のようだ。


「がっはっはっは、気にするなユウ殿。例の剣じゃがな。完全に復元できたぞ」

巨大な杯を片手にヴィズン。


ゲヘルが横から『聖剣ゼフィール』をエリスに手渡す。

エリスは剣を受け取ると剣を抜き、刀身をまじまじと眺める。


「すごいな…。刃こぼれ一つなくなっている…」

エリスは感嘆の声を上げる。


「刀身は新品同様まで戻しておいた。付与はゲヘルが復元してくれたわ」

ゲヘルが横で手を振る。


「はっはっは、しかしさすがわしの作った剣よ。

断面が綺麗で復元するのは思いのほか容易であったわ」

…でしょうね…。

ヴィズンさん…とんでもない剣でしたよ。

けど使う側の身もちょっと考えてほしかったな…。

しかし、この雰囲気…そんなこと間違っても言い出せそうにない。


「…ヴィズン。ありがとうな」


「また困ったことがあったら遠慮なく声をかけてくれ」


「助かるよ」

そう言うとヴィズンの映像が途切れる。

次ヴィズンと会うかける時までに酒を用意しておくとしよう。


俺は再びゲヘルに向き合う。

「ゲヘル…それで鞘は作ってくれたか?」

これ以上不幸な犠牲を出さないために最も必要なものだ。

ゲヘルに言うとゲヘルは鞘に入った剣を差し出してきた。


「切る際の斬撃面を百万倍にし、さらに弱体化の魔石をまぶしてある。

もちろん封印の付与魔法を何重にも付け加えたわ。

これで使えぬのならわしとてお手あげじゃ」

封印の付加効果って…ツッコミどころが多すぎて普通にスルーする。


「とにかく助かった。後でなんか礼をさせてくれ」

俺はゲヘルから鞘に入った剣を受け取る。

鞘ごと振ることになるが、この場合は目をつむろう。


俺に剣を手渡すとゲヘルはエリスに向き合う。

「エリス殿」


「は、はい」


「『聖剣ゼフィール』は人の願いを集め、力に還元する装置。

五百年前の邪竜戦争の際に造られた兵器の一つじゃ」

ゲヘルは淡々と語る。邪竜戦争なんてあったのか。


「既にその付与も薄れ、人々の心は廃れ、昔ほどの輝きもない。

真っ二つにされるのは当然と言えば当然じゃな」


「やはり…」

エリスは心当たりがあるらしい。


「ヴィズンが刀身を治したとしてそれは一時的な処置にすぎぬ。

もう一度折れた時がその剣の最期となろう」

エリスは険しい表情でそれを聞いていた。


「…ゲヘル様、こちらから一つお聞きしてもよろしいか?」


「なんじゃ?」


「あなたはもしや『邪竜殺し』のゲヘル・カロリング様か?」


「『邪竜殺し』?」


「ホッホッホ、かつてはそんな名で呼ばれたこともあったのう」

それを聞くなりエリスは顔色を変え、地面に片膝をついて頭を下げる。

ゲヘルは意外と有名人らしい。

魔族は人間社会とは接点がなくても知れ渡っているのは多そうだ。


「やはり、だとすればこの付与を戻せたことにも納得がいく」


「へえ、エリス知ってるのか?」


「知ってるも何もこの方は人類のいや世界の救世主だ」


「救世主?」

なんで魔族が世界の救世主になってるんだ?


「五百年前の邪竜王の侵攻の際にすべての種族の先頭に立ちそれを討伐した大魔道士。

魔導国の祖にして、五人の賢者の師である」


凄くかっこいい。

今はただの老人にしか見えんが。


「なぜあなたほどのお方が魔族に…」


「人の世では住みにくいこともある。お主ならばわかるのではないかな?」

ゲヘルは元人間だったらしい。

思い返して見れば髭を触るような仕草とか人間臭かった。


「カルナの奴は…それでも人の社会にとどまり続けていたのじゃがな…」

ゲヘルは独り言を呟く。


「…聖王カルナって、ひょっとしてゲヘル爺さんの弟子なのか?」

俺は気になった疑問をゲヘルにぶつける。

ゲヘルは『聖剣ゼフィール』のことも知ってたし、聖王カルナの能力まで知っている。

『北』にいるのにあまりに知り過ぎてないか?


「五人の賢者の一人がカルナ様だ」

当然のようにエリス。

いきなりの告白に頭がついていけない。

俺はヴィズンから剣を受け取る際の世間話で

ゲヘルは人間界との接点を断って数百年経っていると聞いている。


「…待て待て、人間って数百年も生きられるもんじゃないだろう」

そんな寿命の人間いたら怖いぞ。


「カルナの場合、かつて一度死にかけたのをわしが回復魔法を使って治した。

魔族の血を使っての。それで寿命が常人の十倍以上になってしまったのじゃよ」

ちょっと納得。っていうかゲヘル爺さんそんなこともやってたのか。


「回復魔法なんてものもあるのか」

今までセリアにもそんな話聞かされなかったぞ。


「魔法での回復は破壊よりも厄介なのじゃ。

この世界で使える者はわしを含め数名ほどじゃろうな

細胞単位で復元せねばならんからの。怖ろしいまでの繊細さが要求される。

わしの使えるものはほぼすべてに副作用が伴っておる。

ある程度制限はあるが法術を使ったほうがましじゃな」


「へえ…」

魔法でもできないことがあるとわかり少し安心。


「では、そろそろ行こうかの」

ゲヘルはそう言うと魔方陣を足元に描く。


「どこへ?俺たちもか?」


「デリス聖王国の首都テーベにじゃよ。カルナの命数もすでに尽きかけておる」


「命数が…では…」

深刻な顔でエリス。


「間もなく聖王カルナは崩御する」

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